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おっさんとぱんつ

「この世界が現代日本とは違うことはよくわかっているんだ」

「うん」

「だから日本の常識を押し付ける気はないし、押し付けてはいけないこともわかっている。郷に入れば郷に従えという言葉のある通りだ。自分たちの常識とは異なる文化を野蛮だとか劣っている、遅れているというつもりもない」

「うん」

「だから毎日お風呂に入れないことは仕方ないと思う。それでもまあスキルを活用したならば、タオルで身体を拭くぐらいのことは出来るからな」

「うん」

「でもぱんつは毎日換えたい」


 おっさん(イサトさん)は切実だった。


「…………」


 妙齢の女性の口から「ぱんつ」なんてエロワードが出てきているのに、ときめきを感じないのはイサトさんがどこまでも大真面目かつ切実だからかもしれない。

 それでも、ちろりと視線を隣を歩くイサトさんの腰のあたりまで降ろすと、ぴっちりとタイトなナース服の奥に潜む神秘についてを真剣に考察してしまいそうになった。

 

 いかん。それは考えたらあかんやつや。


 俺は頭を左右に振って、そっと視線を隣から歩くイサトさんから反らした。

 そうなると自然に目に入るのは、セントラリアの街並みである。

 

 そう。

 俺たちはあの後、無事にセントラリアに入ることが出来ていた。

 心配していたような、入国審査でひっかかるようなことはなかった。

 それはありがたいのだが……飛空艇なんていう重要な交通機関を破壊して堕とすなんていうテロリストさながらのことをやらかしておいて鳴らないアラートというのは本当に大丈夫なのだろうか。おかげで助かった俺らが言えた言葉ではないのだが。


「こら、聞いてるか」

「ごめんちょっと現実逃避してた」

「私は大真面目なんだぞ」

「いや、それはわかるんだけどさ。大真面目にぱんつの話をされても俺としては困るというかなんというか」


 イサトさんの気持ちはわかるのだ。

 わかるのだが、その話題に真面目に取り組むとたぶん俺の脳みそが大変なことになる。イサトさんのぱんつ事情が気になって夜も眠れなくなる。そんなわけで、ぱんつについての話題を聞き流すように現実逃避に走っては、イサトさんに引き戻される、というようなことを繰り返してしまっていた。


「と、いうわけでぱんつ栽培がしたいわけです」

「ぱんつって栽培するものなんです?」

「正確に言うとぱんつ専用綿花栽培」

「……なるほど」


 俺がぱんつの話題に怯んでいるのに気付きつつも、イサトさんが退かない理由がわかった。イサトさんは俺の「家」を使って綿花の栽培をしたいのだ。家主である俺の許可が欲しいがために、こうして切々と訴えているのだろう。


「君が恐れていることはわかるぞ。私が元の世界に戻るための努力も忘れ、農家ライフを満喫する可能性を警戒してるんだろう?」

「あー…、うん」


 さすがのイサトさんも、元の世界に帰ることよりも農業を優先することはないだろう、とは思っている。それでも…、出来ればしばらくはメインジョブの強化に専念して欲しいと思ってしまうのだ。

 

「だから、ぱんつ栽培」

「だから、なのか」

「だから、だ」


 イサトさんの順接の使い方に疑問を呈してみたが、さも当然のようにこっくりと頷かれてしまった。


「君の監督の範囲で、基本はぱんつの素材としての綿花栽培を許してもらえないだろうか」

「………」

「当然君のぱんつも作るから」

「……ますます悩ましいわ」


 イサトさんとしては後押しのつもりだったのだろうが、余計に躊躇してしまう。

 が、その一方でイサトさんの言う「せめてぱんつは換えたい」という意見には俺としても心底同意したい。元の世界に戻るまで、俺とイサトさんは嫌でも基本的には共同生活を強いられる。お互い気持ち良く関係を保つために、最低限の身だしなみには気を遣いたいところだ。特に俺らは男女のコンビなのだから。


「街で既製品を買っておいておくというのは?」

「不可能ではないと思うが、下着のためだけに箪笥のスペースを三つも消費するのは辛くないか?」

「あー…あれセットじゃないんです?」

「ない」


 きっぱり断言されてしまった。

 そうかセットじゃなかったのか。


「一番最初の初期装備のデフォルト下着はセットな気がしないでもないが…、RFC的には下着なんて基本的には『見えない』部分の装備だろ?だからあんまりレシピにも種類がないんだよ。あるのは一部に大人気すぎてネタで実装された縞パンとアウターと合わせる見せブラぐらいかな」

「……なるほど」


 確かに現実と異なり、ゲーム内では下着というのはそれほど重要視されない。露出度で言うならばビキニなど水着類で代用できるからだ。実際RFCのプレイヤーは水着が下着と同じレイヤーで着用されることを生かし、装備の下からお気に入りの水着を着る者が多かった。そうしておけば、万が一装備の耐久値が振り切って戦闘中にフィールドでキャストオフしても「下着じゃないから恥ずかしくないもん」が出来るわけだ。眼福眼福。


 が、実生活で水着を下着として代用できるかといったら無理だ。子供の頃、プールや海に遊びに行く際に、家から水着を着せられた時の違和感を思い出して、俺はもぞりと背中を揺らした。


 そしてそれからちらり、と視線をイサトさんの胸のあたりに流してみる。男と違って女性の場合上半身にも下着が必要であり、それがセットになっていないことを考えると、確かに下着だけで箪笥のスペースを三つも占められてしまうのはかなり痛い。


「綿花ならある程度まとめて作って各自インベントリに保管、箪笥には綿花をごっそり詰めておく、という補充形式がとれる」

「うーん…」


 それならばインベントリにパンツを、とも思ったが……重量制限のある荷物に替えの下着を詰めて戦闘用の資源が圧迫されるというのはあまり賢くない。


「ぱんつ栽培、許可するしかないのか…」


 ぐぬぬ、と唸る。

 イサトさんにぱんつ専用綿花とはいえ、農家になる許可を与えてしまうのはなんとなく不安だが、背に腹はかえられない。


「本当なら着替えだってしたいが――…、そこはまあ我慢するしかないからせめてぱんつ」

「うーん、着替えまで持ち歩く、着替えまで毎日生産するのはさすがにいくらイサトさんだって厳しいもんな?」

「材料さえあれば…、と言いたいところだが、私たちのレベル帯になってくるとわりと素材もレアだからな」


 毎日日替わりでレア素材を駆使した装備を作るというのは不可能だ。

 幾つか着回し出来るだけの装備を用意して、着替えて洗濯して…、ならまだ可能性はあるだろうか。ただ、それでもどこに干すのかという問題は出てきてしまう。人類が発展と共に遊牧スタイルから定住スタイルに変わっていった進化の流れを垣間見てしまう瞬間だ。人は快適さを求めて財をなし、その財を保管するために定住を求めたのだ。


「生活するって厳しいのな…」

「…うむ」


 しみじみと二人して項垂れる。

 一体他の冒険者たちはその辺の部分をどうしているのだろうか。

 もしくは、そういった不快さに目を閉じることが出来る者のみが冒険者たりえるのだろうか。

 

「……わかった。ぱんつ栽培承認しよう。けど、あくまでぱんつ栽培だからな。ぱんつのための綿花栽培なので、謎の凝り性を発揮してえらいもん作ろうとしたりはしないように」

「ぐぬ…」


 念入りに釘を刺しつつ許可を出せば、イサトさんは一度小さく唸った。やっぱりなし崩しで何かする気だったのか。綿オンリーだから!!とか言って、素材を綿だけでどこまでやれるか的なチャレンジでもするつもりだったのだろうか。……やりそうだ。


「イサトさん?」

「……はい」


 ジト目で名前を呼べば、イサトさんは名残惜しそうにしつつも頷いてくれた。

 後は俺がしっかり監督しておけば、いくらイサトさんの職人魂が疼いたとしてもなんとか手綱を取ることが出来るだろう。


「イサトさん、綿花ってどれぐらいで育つの?」

「とりあえずまずは畑を作って…、種をまくところから始めるから……」


 視線をちょろりと上空に彷徨わせてイサトさんが思案する。


「畑を作るのに数時間、綿花が育つまで一日、ってところかな」

「………………………」

「ん?」

「…………イサトさん」

「なんだ?」

「それ、農家スキルあること前提で話してない?」

「………………あ」


 ぎぎぃっと軋むような動きで隣を見やれば、イサトさんは「てへぺろ」の概念を具現化したらこんな顏になるよね、というような大層可愛らしい笑顔で笑って見せた。


 ……コノヤロウ。


「あんた農家スキルも持ってたのか……!!!!!!!!」

「ごめん!!!!!!つい!!!!!出来心で!!!!!!!!」


 そのうちこの人には、持ってるスキルあらいざらい白状させたい。

 本気で。













 その日は、その日分の着替えや、日常生活で必要になるこまごまとしたものを購入した後に宿を取って休むことにした。

 イサトさんは隣の部屋だ。

 カラット村で過ごした晩のように、何かあったら困ると一応備えて眠りについたものの、特に何事もなく無事に次の日の朝を迎えることが出来た。












 翌日の朝。

 宿屋の下にある食堂で朝食を済ませた後、「家」の扉に宿屋の扉を設定する。

 これで「家」を仲介することで、エルリア、トゥーラウェスト、セントラリアにはいつでも行けるようになった。

 

 その後、イサトさんはわくわくと楽しそうにしつつ畑を作りに行った。

 ちなみに、罰ゲーム期間が終わったので、本日はアーミットのお母さんより貰った服に戻っていた。ちっ。ちょっとばかりミニスカ赤ずきんに期待したのはきっと俺だけではないはずだ。


 そして――…、イサトさんが農家スキルを駆使して「家」の周りを開拓しまくった後、俺たちは街に買い出しに出かけることにした。

 観光も兼ねて、ふらふらと街の中を見てまわる。


「ふと思ったんだけど」

「ん?」

「『家』を整えませんか」

「却下」

「違うんだ聞いてくれ」


 じわじわと俺の「家」を改造しようとしている節のあるイサトさんを速攻で却下してみたわけだが、どうやらイサトさんの提案は職人魂に突き動かされた結果のものというわけでもなかったらしい。


「『家」ってダンジョンや特殊な区域以外からならアクセスできるじゃないか」

「そうだな」

「そうなると、これからしばらくは君の『家」が私たちの拠点になることも多いと思うんだ」

「あー…、確かに。フィールドで長期狩りとかすることになったら、いちいち街に戻るのも面倒くさくなるもんな」

「そうそう。ゲームの時は消耗品の補充のために『家』を使っていたけれど、今の状況的には休息を取るための場所としても必要になると思うんだ」

「そうだな。そうなると…、今の箪笥しかない状態だと確かにキツいな」

「うん」


 「家」はフィールドや街中、基本的にはダンジョン以外の場所からならば自由にアクセスすることが出来る。それ故に俺はアイテム倉庫として活用してきていたのだが…、イサトさんが言うようにこれからは本当の意味で「家」としても使うことが増えていくだろう。

 これから俺たちはポーションの素材を確保するためにあちこちで狩りをおこなうつもりなのだが、その途中で夜になる度に街に戻っていては時間のロスだ。


「私が改造費を出してもいいので…、風呂とトイレとベッドが欲しい」


 イサトさんはやっぱり切実だった。

 

 こういう生活面の不便に事前に気付くあたり、やっぱりイサトさんは女性なんだな、と改めて思う。

 俺だけならば、必要な場面が来るまで気づかなそうだ。

 そんなことを思いつつ、まじまじとイサトさんを見つめていると、イサトさんが不思議そうに首をかしげる。


「なんだ、どうかしたか?」

「いや、イサトさんがいてくれて良かったなと思って」

「…ぬ?」

「こういうところ、男の俺だけだったら後回しにして後悔しそうだったから」

「…………」


 じんわりと、イサトさんの目元に薄い朱色が浮かんだ。

 どうやら照れたらしい。可愛い。照れ隠しなのか、やんわりと足を踏まれた。痛くも痒くもない、本当に乗る程度の圧であるあたりに謎の気遣いを感じる。

 

「それで、君に相談があるんだ」

「なんだ?」


 うっすらと頬を赤らめたまま、イサトさんはもじもじと合わせた両手を弄りだした。上目遣いに俺を見上げる視線と合わせて、なんだか非常に心ときめく甘いシチュエーションを思わせて鼓動が早くなる。


『私は、君のことが――…』


 そんな言葉の続きをうっかり期待してしまいそうになって……―


「実は私には一押しの家具レシピがあってだn」

「はい却下」


 最後まで言わせてたまるか。


「聞こう!せめて最後まで聞こう!」

「いやだって聞かなくてもわかるもん。イサトさんの一押し家具なんて素材もえらいことになってるに決まってるし」

「ぐっ……!」


 図星だったか。

 家具が必要なことには同意しよう。

 だが、その家具をイサトさんに作らせるかといったらそれは別問題だ。


「自分で手の入れられる『家』が手に入ったら、やりたい夢がいろいろあったんだよー…」

「イサトさんイサトさん、これ、俺の『家』だからね?」

「もう秋良青年、結婚しよう」

「何言ってんだあんた」


 これほどまでに爽快に財産目当てなプロポーズが未だかつてあっただろうか。

 うぐうぐ言ってるイサトさんを放置して、俺は話を続ける。


「ベッドぐらいならすぐに買える気もするが、風呂やトイレって簡単に作れるものなんだろうか」

「その辺りは職人に相談、って感じになりそうだよな」

「そもそもシステム周りが不明すぎる」

「どこに行けば買えるのかすらわからない」

「金はあるのにな」


 水道とか下水システムとかその辺りはどうなっているのだろうか。

 魔法でさくっと解決してくれるのならば、それが一番なのだが。


 と。

 そんなことを俺とイサトさんがやいのやいのと話しながら歩いているところで、街中の喧噪を割って響く怒声が耳に届いた。


「返せよ…!!それはオレが稼いだものだ!!」


 子供、だろうか。まだ、声変わり前の、少女のようにも聞こえる声。怒りに満ちてはいるものの、それはどこか悲鳴のようにも響く。

 それに絡んでいるのは数人のゴロツキだった。

 ゴロツキの影に隠れて、絡まれている少年の姿は見えない。


「……」

「……」


 俺とイサトさんは、ちょろ、と視線を合わせる。

 つい昨日派手に飛空艇を撃墜してしまった手前、あまり目立つのはよろしくない。


「巻き込まれないようにしとくか」

「それが一番」


 揉め事からは距離を置くに限る。

 俺らの知識が通用するのならば、セントラリアは通称『王都』とも呼ばれるだけあって治安は良い。何か騒ぎを起こしたらば、すぐにでも騎士が駆けつけるようになっていたはずだ。俺たちが介入せずとも、騎士が仲裁に入って解決してくれるだろう。


「……秋良青年」

「………」


 そう思って素通りしようと思っていたはずなのに。

 イサトさんの低い囁き声に注意を促されて見た先では、騒ぎに気付いているはずなのに、やる気のないそぶりで見ないふりをしようとしている騎士がいた。その白を基調とした鎧にも見覚えはあったし、そこに刻まれた紋章もセントラリアの守護騎士団のものだ。目の前でカツアゲ、もしくが強盗めいたことが起きているというのに、その騎士は気づかなかった態でその場から歩み去ろうとしている。


「あのやろう、職務放棄か」

「仕事しろ公務員」


 ぼやいてから、俺は騎士を呼びとめるべく大きく声をあげた。


「すいませーん、なんか揉めてるみたいなんですけど、仲裁お願いしてもいいっすかー」

「……」


 空気読まないDQNスタイルであげた声に反応して、騎士が面倒くさそうに振り返る。そして一言、小馬鹿にした顏で言った。


「管轄外だ」

「は?」


 思わず間の抜けた声が出る。

 セントラリア内の揉め事にどんな管轄外があるというのか。

 それも、絡まれているのはまだ年端もいかないような子供だ。

 騎士はそれだけ言うと、面倒臭そうにフンと鼻を鳴らして人ごみの中に混ざるように歩き去ってしまった。

 ポカンと立ちつくす俺たちの後ろで、カツアゲはますます盛り上がっている。


「お姉ちゃん、もう渡しちゃおうよ……」

「馬鹿、これ渡したらこれからどう生活するってんだ!」

「怪我する前に渡した方が賢いと思うけどなァ?」


 怯えた幼い子供の声と、それに応える張りつめた怒声。

 年端もいかない少年かと思いきや、先ほどの声の主は少女であったらしい。

 そしてそれに対して凄む、下卑た声。

 

 ……なんなんだろうな。

 カラット村の盗賊襲撃は、辺境の小さな村だからだと思った。

 だが、王都と呼ばれるセントラリアの街中でこんなことが横行するのはどういうことなのか。

 どうして誰も助けようとしないのか。

 何故、見てはいけないものから目をそらすようにして、皆早足にこの場から立ち去ろうとしているのか。

 一般市民が「自分にまで害が及ぶのを恐れているから」ならまだわかる。

 だが市民を護る役目を負ったはずの騎士までが見て見ぬふりをするのは何事だ。


「ごめんイサトさん」

「いいってことよ」


 大人しく出来そうもない、との意味を込めての謝罪に対する返事は、腑抜け騎士の数千倍男前だった。

 というわけで。


「よっと…!」


 するりとゴロツキの背後に忍び寄ると同時に、膝の裏を狙ってのローキック。

 膝かっくん気味に決まり、「うお!?」と声をあげつつよろけた襟首を引っ掴んで地面へと引き倒した。受け身を取ることもできず、背中を強打して咽せる男に代わり、ツレの2人が俺を振り返ると同時に凄んだ。


「なんだテメェっ、俺らが誰だかわかってんのかアアン!?」

「知らねェよひっこめ屑が」

「ひ…ッ!?」


 眉間に皺を寄せ、心底蔑む調子で言い捨てたところ、相手が怯んだように息を飲んだ。そりゃそうだろう。自分で言うのもなんだが、俺は人相がそんなに良くはない。その上でかい。そんな男に見下ろされ凄まれたらさぞかし怖いだろう。

 

「………」


 「ひっこめ」と要求はすでに一度告げている。

 後は暴力に訴えるなり、撤退するなりの相手のアクション待つ。

 しばらく睨みあった後、ゴロツキどもは舌打ちとともに俺の脇をすり抜けて撤退していった。「起きろよ!」だとか、地面に倒れていた仲間を起こして引きずるようにして路地裏へと消えていく。


「…ッ、略奪者(ルーター)が!」


 そんな罵声を残して。



「?」

「?」


 俺は思わずイサトさんと目を合わせて首をかしげる。

 ルーター。

 ゲーム時代には聞いたことのない単語だ。

 スラングか何かだろうか。


「あ」

「え?」


 イサトさんが小さくあげた声に反応して、視線を前に戻す。そこでは、ゴロツキに絡まれていた少女が、ちびっこの手を引いて俺の横を素早くすり抜けようとしているところだった。思わずその行く手を阻むような形で重心を移動してしまう。

 

「あっ」

「ッ…!」


 少女が俺の脚にぶつかってよろける。その拍子に、ばさりと少女が目深にかぶっていたキャスケット帽子が落ちた。


「ごめん…!悪かった!」


 別に彼女らに用があるわけではないのだ。そのまま逃げられたとしても何も問題はなかった。俺は条件反射のように動いてしまったことに謝りつつ、落ちた帽子を拾って差し出して…

 

「なんの魂胆があるのか知らねえし、礼なんか言わねえからな!」


 威嚇するように俺を睨みつけた少女の頭上にぴょこりと揺れる耳に、思わず目を奪われてしまった。

 そう。

 燃えるように赤い癖っ毛をなびかせ、爛々と光るつり目で俺を睨む少女は、いわゆる「けもみみっ娘」だったのだ。髪と同じ色をした▲がその頭上で後ろにねるように伏せられている。




「耳触りたい」




 イサトさん、自重。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

Pt,感想、お気に入り、励みになっています。

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