ナース服とおっさん
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そしてナース服である。
それからのナース服である。
「……どうよ、これ」
半眼で睨まれてはいるものの、それすらも今はご褒美だ。
褐色肌のイサトさんに、白のナース服はとてもよく似合っていた。対比がとても色鮮やかだ。あくまでコスプレ用のなんちゃってナース服であるため、そのデザインはナース服である、というニュアンスこそ伝わってくるものの、実在するナース服とは明らかにかけ離れていた。形として近いのは、襟ぐりの大きく開いた丈の短い白のトレンチコート、といったところだろうか。おかげでスカート部分はタイトなラインを演出しつつも、巻きスカートに近い形状をしているために動きを邪魔するということはない。イサトさんが動く度に布の合わせがちらちらと動くのがなんとも艶めかしい。もうちょっと動いたら下着が見えてしまうんじゃないのか、と思うのだが、それがなかなか、重ねられた布はイサトさんの動きに合わせて柔軟に形を変えて下着の露出を防いでいる。
大きく開いた胸元からは、形の良い鎖骨と、その下の谷間が下品にならない程度に覗いていて、なんとも言い難い婀娜っぽさだ。巨乳、というわけではないイサトさんだが、胸元を留めるボタンがちょうど胸の真下にあるせいで、その形の良い膨らみを強調すると同時、ウェストの華奢なくびれを鮮やかに描き出しているのが良い。
……たまらん。
長い銀髪の上に、きちんとナースキャップが乗ってるのもまた良い。あまり衛生的ではない、ということで実際の病院では廃止されつつあるが、やはりナースといったらナースキャップである。
「良い」
しみじみと悦に入ったように言えば、イサトさんの半眼はますます細くなった。
「もう脱いで」
「駄目」
最後まで言わせず却下する。
罰ゲームはあくまで「今日一日ナース服」である。
着て見せてはいおしまい、では味気なさすぎる。
「くっそ……、今度君が何かしたら、お花ビキニ着せてやると今ここに誓った」
「やめれ」
お花ビキニ、というのは宴会用ネタ装備として公式がバラまいた男女兼用の衣装である。胸と股間で花が咲く、というカオスな形状をしていて、言うまでもなく男女兼用だったせいか装着率は男の方が高かった。ゲーム内のおっさんも確か一度着てたような気がする。
「……でも、アレだ、約束はナース服を着るというだけで、他は何の制約もなかったはずだ。だよな?」
「うん?」
イサトさんの確認に、俺は首を傾げつつも頷く。
どうするつもりなのだろうか。
ナース服の上から、何か重ねて着るつもりなのか?
俺が首を傾げている間にも、イサトさんはごそごそとインベントリを操作するように指を空中に滑らせ――……。
「――…」
俺は思わず、黙りこんでしまった。
ナース装備は、それはそれはイサトさんにとても良く似合っていたのだが。
足元がナースサンダルで、なんとなく寂しいな、と思ってはいたのだ。
生足が惜し気もなく晒されている当たりは評価したのだが、なんとなく違和感を感じてしまって。
それが今。
イサトさんの脚は太腿のあたりまでぴっちりと黒の編み上げブーツで覆われている。いわゆる編み上げニーハイブーツ、というやつだ。やばい。これヤバい。
「い、いいいい、イサトさん?」
「ふっふっふ、これで生足は晒さずに済む」
そんなに生足晒すの嫌だったのか。
なんてのはさておき。
黒く、てらりと艶めかしく輝く革の質感が綺麗なイサトさんの脚のラインをこれでもかというほどに強調していて、正直生足よりこっちの方が相当エロいと思うのは俺だけか。
おそらく若干特殊な性癖を持ち合わせる御仁ならば、間違いなく踏まれたがる。
俺ですらちょっと踏んでみない?なんて軽い調子で口走りそうになった。
「ちなみにそのブーツはどこから?」
「ミニスカ赤ずきんに合わせようと思って持ってたんだ。アルティならナース服とミニスカ赤ずきんのどちらかで選択を迫ったら間違いなく赤ずきんを選ぶだろうと思っていたからな」
「なるほど」
確かにアルティならナースか赤ずきんかで迫られれば赤ずきんを選びそうだ。本来ならどっちも突っぱねてもいいだろうに、二択で迫られると人間マシな方を選んでしまいそうになるものなのである。そこにつけ込む気だったらしいイサトさんもなかなかにロクでもない。
「さらにこうすれば、っと」
イサトさんがふわり、と広げたのはこの世界に来てからイサトさんの元で大活躍している俺のマントだ。
斜めに肩で留めるようにしてしまえば、ほとんどナース服は見えなくなってしまった。惜しい。
と、思っていたのだが。
隠れたら隠れたで、イサトさんが歩く度にちらりとマントのスリットから覗く黒革のブーツだったり、褐色の絶対領域だったりがエロくて俺の目を愉しませてくれた。やっぱり拝んでおこう。
予定として、エルリアの街で、やろうと思っていたのは装備の調達と冒険者としての登録だったのだが……。
そのうち、目的を果たせたのは冒険者としての登録だけだった。
女神の恵みがなくなってしまったこの世界において、装備品として取り扱われているのは、真っ当に木や鉄、動物の革で作られたものがメインで、俺らが使うようなモンスター素材を使っているようなものはなかったのだ。
見た目だけなら装備としてしっかりしているようにも見えるが、実際の防御力でいったらイサトさんのナース装備の方がまだ高い。
そんなわけで、エルリアの街で装備を整えるのは諦めた。
というか、この世界においては装備品は自作するしかないかもしれない。
イサトさんが服飾スキル持ってて良かった、としみじみ思った瞬間である。
ちなみに、イサトさんは有言実行で俺に木刀を買ってくれた。
出会った時のことを思い出すな、なんてチェシャ猫のように口元をにんまりさせて差し出された木刀に、なんだかとてつもなく嬉しくなってしまったのは秘密だ。
武器の性能としてはカスとしか言いようがないのだが、俺のステータスならこれぐらいのハンデがあってもいいだろう。まだ手加減できるほど戦闘を重ねていないので、これでうっかり誰かを殺す、なんてことは避けられそうだ。
本当なら、回復薬も購入しておきたかったのだが……。
「こ、こんな下級ポーションに大金は出したくない……っ」
というイサトさんの一言で、しばらくは食糧で回復を間に合わせることにした。
女神の恵みが失われたことと関係しているのか、下級ポーションですら0を一つか二つつけ間違えたんじゃないのか、という価格で販売されていたのだ。
そりゃ上級ポーションを二本も使って助けられたアーミットや女将さんがガクブルするわけだ。
幸い金には困っていないので、どうしても必要ともなれば買うこともできたのだが……今のところポーションが必要となるような戦闘を行う予定はない。しばらくはお互いの手持ちの分だけでも何とか間に合わせられるだろう。
そもそも初心者の街エルリアには、俺らが普段戦闘で使う上級ポーションは売られていない。もともと保険のつもりだったので、イサトさんと話しあった結果今回はスルーすることにした。
そして、冒険者登録。
女神の恵みがなくなり、モンスターを倒しても何の旨みもなくなってしまったが故に、冒険者という概念がすっかり廃れたとアーミットが言っていたのは本当のことだった。
かつて俺らが「冒険者ギルド」と呼んでいた場所は、今ではすっかり酒場になってしまっていた。確かにゲーム内でも、ギルドの横合いは酒場になっていて、そこで様々なクエストを受けることが出来るようになっていたのだが……。今はもう、かつてのギルドの面影すらなくなってしまっている。
隅っこに小さくギルドのカウンターがありはしたのだが、その中に人はおらず、何年前から放置されているのか、黄ばんだ書類が乱雑に重ねられていた。
駄目元で声をかけてみたところ、なんと酒場の主人が冒険者ギルドのマスターを兼ねていた。
「あんたら、冒険者になりたいの?珍しいね」
最初は限りなく胡散臭い相手を見る目で俺らを見ていた酒場の主人だったが、俺らが遠くからやってきた旅人だという話をすると少しその目つきを和らげた。
「すまないな。この辺りだと冒険者になりたがるのは正規の職にあぶれたならずもんばっかりなもんでな」
なんでも、モンスターを倒して街を守るならば街務めの兵士になるし、商人の護衛のような荒事交じりの仕事ともなれば傭兵になるのが今は一般的なのだそうだ。
結果、冒険者というのは「何でも屋」に近い扱いになってしまっており、職業として他よりも低く見られているらしい。
それでも冒険者になりたいと主張してみたところ、半ば呆れたような顔をしつつも、冒険者カードを作ってくれることになった。
「んじゃ、この石版に手を置いてくれるか?」
言われるままに、俺は石版の上に手を乗せる。
何らかのマジックアイテムであろうそれは、俺が手を乗せたとたんうっすらと発光して……何も起きなかった。
「……あれ?」
「ん?」
酒場の主人が訝しげに首を傾げる。
「おっかしいな。これであんたらの情報が読み取れるはずなんだが」
「情報?」
「ああ。この石版は使用者の記憶を読み取る魔法がかけられてるんだよ」
「記憶を読み取る……?」
「そうそう。あんたらの国にはなかったか?」
「なかったな」
イサトさんも知らないようなので、きっとRFC内では出てこなかった設定なのだろう。
「記憶を読み取るといってもそんなに警戒することはないぜ。これは設定された事柄に対する記憶を読み取って、数値に置き換えてくれるんだよ」
そういって、酒場の主人は実際に自分で実演して俺たちにその様子を見せてくれた。酒場の主人が石版に手を置くと、石版はうっすらと発光し――……、虚空へとホログラムを浮かべた。そこに表示されているのは、いわゆるステータス画面だ。
酒場の主人の姿と、その隣には冒険者としてのレベルや、その他彼が持っているジョブのレベル、それと装備品などが書かれている。
「俺の場合はこうして商いもやってるもんだから、冒険者よりも商人としてのレベルが高いってわけだ」
「なるほど」
文字通りの「経験値」だ。
それぞれのジョブに関する記憶のみを読み取り、数値に置き換え、レベルとして表示してくれるのだろう。
「ここに書かれている数値が高ければ高いほど熟練、ってことだな」
「熟練ってことは……、そのレベルの数値が高いからといって強いわけではない、ってことかな」
「お、よく気づいたな」
酒場の主人曰く、経験値はあくまでどれだけの経験があるのかを数値にしただけのものであるので、レベルが高くても具体的に何に熟練しているのかはこの数値だけでは判断がつかないこともあるらしい。
簡単な例え話にすると、ドラゴン一匹倒してレベル30なのか、それともレベル2のトカゲを15匹倒してのレベル30なのか、数字からはわからない、ということだ。
「後はそうだな……、人を殺してしまった場合もひっかかるな」
「犯罪防止に?」
「そういうこった。人を殺した『経験』のある人間は、この石版で記憶を読み取った際にアラートが鳴るようになってるんだ。そうなったら兵士を呼ぶのが決まりになってる」
酒場の主人の言葉に、少しだけどきりとした。
一昨日の夜、勢いで盗賊の男を殺しかけたのはまだ記憶に新しい。
ついでにあの得体の知れない男も思いきっり殺すつもりで斬り倒している。
イサトさんが止めてくれたのと、アーミットが助かったこともあって、盗賊の方はどうにか寸止めすることが出来たが……これ、下手すると俺はひっかかるんじゃなかろうか。
同じく盗賊退治の夜のことを考えていたのか、少しの間考えこんでいたイサトさんが口を開いた。
「正当防衛の場合はどうなるんだろう??」
「『人を殺した』という記憶に反応してアラートは鳴るようになってるから、正当防衛だろうが何だろうが反応するようになってるな。だから、もしもやむなく誰かを殺すようなことになった場合は、正式に届け出を出してアラートを解除することになってるよ」
治安を守るための工夫、ということだろう。
盗賊にしろ、あの得体の知れない男にしろ、トドメは刺していないのでセーフ、ということにならないだろうか。
まあ、実際のところ、記憶の読み込みの段階で詰んでいるわけなのだが。
「なんで駄目なんだろうな」
「私はどうだろう」
イサトさんが横合いから手を伸ばして、石版に触れてみる。
石版は俺の時と同じようにうっすらと光を放ち……、やっぱりそれだけだった。
「この国の人間にしか発動しないってことはないんだよな?」
「や、そういう縛りはないはずだが」
酒場の主人も難しい顔をしている。
そのうち何か思い当ることがあったのか、酒場の主人がぽんと手を鳴らした。
「あんたら、何か魔法に対抗するアイテム持ってねーか?」
「魔法に対抗?」
「たまに、そういうアイテムに反応して作動しないことがあるんだよ」
「ああ、なるほど」
イサトさんは納得したように頷いて、もう一度石版に触れた。
先ほどの繰り返しかと思いきや……、石版はうっすらと光った後、虚空にイサトさんのステータスを映しだした。
「あ、すげー。イサトさんどうやったんだ?」
「たぶん私ら、魔法防御が高すぎて、自動的にレジストしちゃってるんだと思う」
「ああ」
納得。
RFC内ではレベルが上がれば、キャラのステータスも成長していた。俺らほどの高レベルともなればベースとなるステータスもそれなり高くなっている。
「なので、跳ね返さないで甘んじて受けるイメージで行くとイケた」
「了解」
石版に触れることで発動する魔法を、意識的に受け入れる。
ただし、あの薄気味悪い男を斬りつけたことだけは隠すイメージは残しておく。
万が一ひっかかったとしても、正当防衛を主張するつもりではいるが…、出来るだけ面倒は避けたい。それに、アーミットを殺した相手に対してですら「殺すな」と口にしたイサトさんに対して、逃げる相手を殺すつもりで背中から斬り倒した、ということはやはり言いにくかった。
ビビリと呼びたくば呼べ。これでも真人間を目指して生きているのだ。
引っかかりませんように、と念じながら石版に触れれば、うっすらと光を放った石版は無事に俺の記憶を読み取ってステータスを表示してくれた。
……隠蔽が上手くいったのか、そもそもあの記憶が犯罪コードに接触しなかったのかが悩ましい。
「よし、あんたら二人ともアラートは出なかったし大丈夫そうだな。今カード発行してやるからちょっと待てよ」
酒場の主人は、カウンターの下からごそごそと無地のカードを取り出す。
そして、そのカードを石版の上に重ねて何やら呪文を唱えた。
石版が強い光を放つのは一瞬。
「あいよ、これで出来た」
酒場の主人から渡されたカードには、先ほどホログラムで表示されたのと同じ俺のステータスが書き込まれている。なるほど、あの石版でデータを読み込み、それを端末であるカードに複写する形で個人の身分証明を作成する、という手順であるらしい。続いて、酒場の主人がイサトさんのカードを作る。
「そのカードは自動的にお前らの記憶と同期してレベルに合わせて書き変わっていくからな。何かヤバいことをしたら、そっちでもアラートが発生するから気をつけろよ」
石版で読み込みが必要なのは、カードを作る最初の一回だけで、後は端末であるカードだけでも個人の記録は日々重ねられていくらしい。なかなか便利だ。
身分証であるカードを手に入れた俺たちは、酒場の主人に礼を言って酒場を後にした。
そして、広場に戻り。
そこで俺たちは、互いのカードを突き合わせた。
「……なんか、レベルものすごく低くないか?」
「……うむ」
俺たちのカードには、どれも低レベルとしか言いようがない数字ばかりが並んでいる。全ジョブのレベルを詳細に覚えているわけではないが、それでも低すぎる。
「たぶん……私たちが把握している『強さ』の値であるレベルと、ここで使われてる『熟練度』のレベルは別物なんだろうな」
「でも、それでも俺らは結構な量のモンスターを倒してきてるぞ?」
「ゲームの中、でね」
「あー……」
確かに言われてみれば、実際に戦闘を行ったのは一昨日の盗賊戦が初めてだ。
ステータス自体はゲーム時代のものをそのまま引き継いではいるものの、それら全てに実戦としての記憶があるかと言われれば答えはノーなので、そう考えるとこのレベルの数値は妥当なのかもしれない。
「身分証で異様な数値が出ちゃって面倒なことになるよりは、いろいろ誤魔化せて便利だよ」
「確かに」
きっと俺らのレベルやステータスは、この世界においては規格外だ。
あまり喧伝したいものではない。
「というわけで、エルリアでの目的は果たしたわけだけど……これからどうしようか」
「とりあえず元の世界に戻りたいが――……、やっぱりアレって秋良青年が使ってしまった謎のアイテムが原因なんだろうか」
「……たぶん」
俺のうっかりミスが現状を招いたのかと思うと、ちょっとだけ罪悪感が疼く。
イサトさんはそれに気づいたのか、ちらりと俺を横目に見上げると、ぽん、と軽く俺の腕を叩いた。気にするな、と言葉にされるよりもわかりやすい所作だ。
「あの洞窟のラスボスのドロップ品、なんだよな?」
「ああ。見た目は普段使ってる転移ジェムと変わらない。ただ、色が青じゃなくて緑だった」
「紛らわしいな」
「だから間違えたんだよな。すまん」
「たぶん拾ったのが私でも同じミスをしかねないので、正直責められない」
ぽんぽん。
宥めるように、イサトさんの手が柔らかなリズムで俺の腕を叩く。
「その謎のジェムで私たちがこちらに来てしまったということは――…、シンプルに考えて、同じアイテムで戻ることが出来るんじゃないだろうか」
「それはあり得るな」
あの謎のアイテムに、世界を移動する力があるのなら。
もう一度あのアイテムを使えば、元の世界に戻ることが出来る可能性は高い。
……まあ、まったく別の世界に転移させられてしまう可能性もなきにしもあらずだが。
「でも……、正直この状態であのダンジョンに挑むのはキツいよな」
「キツいな」
あの時、ラスボスの一部を撃破できたことが奇跡だし、ラスボスの元までたどり着けたこと自体が偶然の産物なのだ。もう一度やれと言われても確実に倒せる自信なんてどこにもない。
それに、ゲームだった時と違って、ここは現実の世界だ。
回復が間に合わなければ、死ぬ。
ゲームの時のようにデスペナを喰らって死に戻りをするわけではなく――……、そこにあるのは正真正銘の死だ。
そんな状態で、いくら元の世界に戻るためとはいえ、死ぬ確率の方が高いダンジョンに挑む気にはなれなかった。
「だからと言って、諦め良くこの世界に永住する、と決める気にもなれないよな」
「同感。元の世界に戻るための努力は続けたいところ」
「それなら……、これからしばらくの行動方針としては、ダンジョン攻略の準備といったところか」
「そうだね」
「俺は……装備はこれで良いとして、やっぱり回復アイテムとイサトさんの装備を整えたいな」
「そうだなあ。装備品を作るためには、それなり高レベルのモンスターのドロップアイテムが必要になるから、まずはポーションを作るってのが妥当じゃないか?」
「うむ」
二人で話しているうちに、次々と今後の方針が決まっていく。
まずはポーションを安定して供給できるようにするのが先決だろう。
低レベル帯をうろうろするならば必要ないが、高レベルのエリアに足を踏み入れるならばやはり回復アイテムは必須だ。
イサトさんには強力な回復魔法を使うことの出来る召喚モンスター、朱雀がいるが、朱雀は攻撃力はそれほど高くない。朱雀を出している間、イサトさんの攻撃力がアテにならなくなる、というのは痛手だ。
それに、モンスターに戦闘を任せつつイサトさんには精霊魔法で援護もしてもらわなくてはならない。そうなると、MPを回復するためのアイテムも必要になる。
「それじゃあ、しばらくの間はポーション類を作ることを目標にして行動するか」
「それならまずはエスタイーストかな。エスタイーストにアンデットの城があるだろう?あそこの薔薇姫がドロップする花の蜜が必要なんだ」
「他には?」
「後はノースガリアの最北端にある神秘の泉の水。あと、ポーションを入れるための瓶を作るためにガラスのかけらがいるな。ガラスの欠片はサウスガリアンの火山地帯にいるゴーレムがよくドロップする」
「……イサトさん、一言言っていいか」
「どうぞ」
「すこぶる面倒くさい」
「……言うな」
ポーションを作るために材料から揃えようと思うとこんなにも手間がかかるものなのか。面倒くさいことこの上ない。
が、俺らには「家」という便利アイテムがある。
「家」の扉は一定の条件を満たす場所であれば、そこへのショートカットを登録することが出来る。Aという場所から「家」に入ったとしても、登録さえしてあればBという場所に出ることが出来るのだ。その条件はずばり、NPCの家がある非戦闘エリアであることだ。
その条件を満たしてさえいれば、ある程度どこでもいいわけなのだが、ほとんどの「家」持ちの冒険者は各大都市のギルドの扉と、後は自分がよく行く狩場の近くの街や村に設定している。
俺もそうなので、各大都市までの道のりは「家」を使ってショートカットすることが出来る――…はずだった。
「な、なんで移動先がありません、なんてことになるんだ」
「……扉が朽ちたか、登録先が『ゲーム内の大都市』で設定されてしまっていたかのどっちかかな」
「うわああああああああ」
俺は頭を抱えた。
イサトさんは遠い目をしていた。
つらい。
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ごめんなさいOTL
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