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放浪のおっさん

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「ああいうのは非日常の一瞬、ネタとして着るのは愉しいが長時間の着用には向いてない――…というか25過ぎたのでさすがに生足でミニスカ穿く勇気はない」

「着よう?」

「私自身は別に足ぐらいいくら見せても良いとは思ってるんだ。ただ、美しい女性の足に対して世の男性陣が並々ならぬ関心を寄せていることも知っているわけでだな」

「着よう?」

「つまり美しい足には見る価値がある、という概念がこの世にはある一定存在していて、いくら私が無頓着であったとしてもその概念を知った上で足を晒すということは、自らの足に鑑賞するだけの価値があるという自負の表れとして世間的には受け止められるわけで」

「着よう?」

「私は自分の足について特になんらかの感慨を抱いているわけではないので晒すのは構わないが、逆に何も特別に思っているわけではないので自分のスタイルに自信がありますという態で見られるのは避けたいわけで」

「着よう?」

「そもそも、アレはもともとアルティに着せて辱めようと思って用意してたんであってだな」

「着よう?」

「絶妙な角度でパンチラスクショを撮ってやろうと思っていてだな」

「着よう?」

「そのために縞パンのレシピまで手に入れた私に隙はない」

「着よう?」

「――…そろそろぐーで殴んぞ」


 そんな全くかみ合わない会話を交わしながら、俺たちはカラット村への帰路を来たときと同じようにグリフォンの背に揺られていた。

 全自動「着よう?」ロボットと化していた俺なのだが、そろそろ本気でイサトさんにドツかれそうなので、渋々ながら一旦諦める。あくまで一旦、だ。機会があれば、全力でイサトさんのコスプレもとい、装備強化を推していきたい。

 イサトさん本人は何やら小難しいことを言っているが、シンプルに翻訳すれば「自意識過剰女に見られるのは恥ずかしい」ということだろう。

 確かに、自分で好き好んで短い丈のスカートやショートパンツをはいておきながら、ちょっと見ただけで人を痴漢のような目で見る女性に対しては俺もあまり好印象はない。いや、好きな相手にだけ見せたい、という乙女心もわからなくはないのだ。だが、それなら二人きりの室内で脱いでやれよと思ってしまうし、綺麗なおみ脚が衆目に晒されていれば「お」とつい視線をやってしまうのが男の性なのだ。もちろん、失礼なほどに凝視してしまうのもどうかとは思うが。

 そんなわけで、是非ともイサトさんには積極的にミニスカを穿く方向で突き進んで欲しいのだが、そこを邪魔するのが社会概念的な羞恥心であるらしい。


 いいじゃん綺麗な脚してるんだから。

 

 男の俺としてはそんな一言で片づけてしまいたくもなるが、なるほど、女心は難しい。

 

 そんな話をしているうちに、カラット村に到着。

 なんとなく、アーミットからほんのり距離を感じるわけだが、きっと気のせいに違いない……ということにしておく。

 ……イサトさん相手だと、この辺りまでのセクハラ発言なら大丈夫、という線引きがある程度わかっているので平気だが、アーミットにとってはもしかしたら許容範囲外の変態発言だったのかもしれない。次から気を付けよう。

 村の近くでグリフォンの背から降り、イサトさんがグリフォンを還すのを見届けてから三人で村に入る。

 

「「お帰りなさいませ……!」」

「おわっ」

「!」


 村に足を踏み入れると同時に、村長さんと宿屋の女将さん、つまりはアーミットのお母さんに声をかけられた。

 もしかしなくても、俺たちが出発してからずっとここで待っていてくれたのだろうか。


「まあ……私ら命の恩人とはいえ、たまたま昨日現れただけの旅人だからなァ」


 俺にしか聞こえないぐらいの小さな声で、イサトさんがぼやく。

 俺らのことを信じて、アーミットを道案内として託してはくれたものの、それでもきっと心配でならなかったのだろう。そんな親心はわからないではないので、俺とイサトさんは二人だけで苦笑交じりのアイコンタクトを交わした。

 

「ただいま、おかーさん、村長!

イサト様の使うモンスターって本当凄くてね、空を飛んでエルリアまであっという間だったんだよ!」


 アーミット自身は、自分がどれだけ心配されていたのかあまり実感がないのか、無邪気に母親へと今回のエルリアへの道行を報告している。

 エルリアの話を聞きつつ、女将さんがちらりと俺らへと目礼を寄越した。

 俺も、小さく頭を下げて返しておく。


「さて、話した通り食糧を確保してきたので――……、どこに置いたら良いのか案内して貰えないか?」

「確保……、ですか?」


 一方イサトさんは、食糧関係の話を村長との間で進めている。

 村長が訝しげなのは、俺やイサトさんが出て行ったときと同じように手ぶらに見えるからだろう。


「えっと……、これぐらいの箪笥を置ける場所を用意して欲しいんだ」


 これぐらいの、とイサトさんは箪笥を空中に描いて見せる。

 村長はますます訝しげな顏になった。

 こればっかりは実際に見せて説明するしかないだろう。


「とりあえず、場所を用意してくれたら説明するよ」

「はあ……」


 村長は首を捻りながらも、俺らを村のほぼ中央に位置する立派な倉庫へと案内してくれた。


「ここは、村の皆が供用で使っている倉庫です。昨夜の襲撃で、中にあった穀物はすっかり燃えてしまいましたが……」

「片付けててくれたのか、助かる」


 倉庫の中は、ところどころ煤けた痕跡は残っているものの、燃えカスのようなごみはすっかり片付けられた後だった。ところどころ壁に開いていた穴も、綺麗に修復されている。

 俺らが村を留守にしている間に、本当に食糧を提供して貰えるなら、と他より優先して準備をしてくれていたのだろう。倉庫の片付けを手伝ったのだと思われる村人たちも、俺たちが何をするのか気になるようで、こちらを遠巻きに取り囲んでいる。


「それじゃあ秋良青年、箪笥をとってきてくれるか?」

「あいよ。持てない分は出しちゃうから、イサトさん拾って持ってきてくれ」

「了解」


 エルリアでやったのと同じように、俺は鍵を取り出すと『家』へとアクセスして箪笥を引っ張り出してくる。手順としては先ほどとは逆だ。俺が持ち切れず、家の中の床に置いてきた米袋をイサトさんが拾い集める。

 その箪笥を、広々とした倉庫の片隅にちんまりと設置した。

 倉庫が広い分、余計に箪笥は小さく見えた。


 ……まあ、引き出しは一段、仕切りが三つあるだけの小型箪笥なので、実際小さいのだが。

 

 村長どころか、周囲にいる村人たちからの疑惑の眼差しが肌に刺さるように感じられる。彼らにとっては死活問題なので、真剣になるのも当然だ。

 これ以上やきもきさせてしまう前に、俺はインベントリにしまっていた米袋を周囲に積み上げるように放出した。


「……!?」

「……!!」


 どさどさどさどさどさどさどさ。

 周囲を取り囲んでいた村人たちが息を呑むのがわかるが、気にせずの大放出。

 一袋2キロ程度の米袋が、どんどんと俺の周囲に積みあがって行く。

 

「そういや、この辺で米って喰うか?」

「はい、この辺では育てられないので少々割高にはなってしまいますがエルリアの市で手に入れることは……」

「じゃあ食べ方を教える必要はなさそうだな」


 村長さんは呆然としつつも、俺の問いに答える。

 わざと周囲に積んでみせた米袋を、次々と箪笥の中へと収納して、俺とイサトさんは村長へと向き直った。


「というわけで、この箪笥の中には今見ただけ……、というかそれ以上の米が入っているので、それだけでもしばらくは食いつなげると思う」

「まあ……あくまで主食だけなので、調味料とかおかずとか、そういうものは自力で用意して貰うことにはなると思うんだけども……それは大丈夫そう?」

「だ、大丈夫です、それぐらいならなんとか……!」


 心配げに首をかしげたイサトさんに、村長はこくこくと勢いよく頭を縦にふる。

 本当ならば、おかずになりそうなものも一緒に用意出来たなら良かったのだが、残念ながら量の持ち合わせがなかったのだ。

 箪笥に入れられるのは三種類と限られているので、量がないものをいれるわけにはいかない。

 

「私が大型箪笥を作れたら良かったんだけどなあ」

「スキル的には?」

「作れる。が、素材がなかなか揃わなくて」

「…………」


 スキル的には大型箪笥を制作可能なレベルに達していたらしい。

 コノヤロウ。

 思わずジト目で見やれば、イサトさんは「やべっ」という顏をして俺からふいっと視線をそらした。そして、そのまま誤魔化すように村長へと説明を始める。いろいろと問い詰めてやりたいが、今は邪魔しないでおくとしよう。命拾いしたな、イサトさんおっさん

 

「この箪笥には三種類のものであればほぼ無限にいれることができるよ。今は米がそのうちの一つを占めているので、あと二種だな。私たちとしては、残りの二つに砂トカゲのドロップするパフェと、デザートフィッシュのドロップする砂握りを入れるつもりだ。他に何か入れたいものがあれば、そっちを優先してくれてもいいけれど。どうする?」

「そ、そうしていただけると助かりますが……ですが本当に女神の恵みを手に入れることが出来るのですか……?」

「っていうか、その米もドロップ品だからな」

「……ひ!?」


 村長から変な悲鳴が出た。

 本当にこの世界においては、モンスターからのドロップが珍しいものであるらしい。ゲームの時と変わらず普通にドロップ品を手に入れることが出来る俺らからするとそれはなんだか不思議な感覚で、イサトさんと二人で顔を見合わせる。

 

「そんな貴重なものを、こんなにたくさんいただいてしまっても、本当によろしいのですか……?」

「構わないよ」

「ああ」

「使い方はそこの引き出し開けば普通に取り出せると思う。何度か実際に出し入れして試してみてくれ」


 そう言って、イサトさんは一歩下がって村長へと箪笥の前を譲る。村長はおそるおそる箪笥へと手をかけ、その引き出しの中から米の袋を一つ取り出した。ずっしりと手に伝わる米の重みで、それが紛い物や幻の類いのものではないと実感したのか、村長はそのまま米の袋を胸に押し抱くようにして小さく肩を震わせ始めた。

 きっと……、自分の代でこの村を終わらせてしまうことに対して、責任を感じていたんだろうな。


「お二人にはどれほどの感謝をしたら良いのか……きっと貴方がたは女神の遣わした救世主に違いありません……!」

「いやいやそんな大したものでは」

「本当、出来ることをしただけだからな」


 ぎゅっと俺の手を掴んで、涙ながらに感謝の言葉を繰り返す村長に、なんだか背中がくすぐったくなる。俺たちを取り囲む村人の中には、手を擦り合わせて拝むような仕草を見せている人までいる。やめれ。拝むのはやめれ。

 が、これだけ喜んで貰えると、やって良かったという充足感が胸に満ちる。


「俺らはこのまま狩りに出るから、村長さんらは炊き出しを始めててくれ。朝は、食事にありつけなかった人もいるんだろ?」

「はい……!」


 村長さんは勢いよくうなずくと、早速周囲にいた村人らに指示を出して米を運ばせ始めた。米を手に取り、歓声をあげながら外に運んでいく村人の姿に、俺は目を細める。朝に見た、悲壮な光景とは段違いの活気に満ちた姿だ。きっと、それこそがこの村の本来のものなんだろう。

 

「それじゃあ俺らは狩りに行くか」

「ン。基本は砂トカゲとデザートフィッシュ、後はまあ、適当に倒して良いものドロップしたら食糧として提供する感じで行こうか」

「そうだな」


 この辺りのエリアで一番多く沸くのが砂トカゲとデザートフィッシュだ。それ故に量を集めるならば効率重視でこの二種のドロップ品にターゲットを絞ってはいるがその他にもモンスターはいる。

 さて、この世界に来て初めての狩りに行くとしようか。














 狩りはいろんな意味で散々だった。

 いや、成果としては問題なかったのだ。

 ちゃんと目的通り、持ちきれないだけの砂握りや砂パフェ、それと砂系素材を確保することは出来た。

 ただ問題は。


「……なんで迷子になるかな、あんた」

「いやだってエリア感覚でいたから……」


 次々とスキルを発動させて手に入れた砂系素材で砂レンガを作りながら、イサトさんがしょんぼりと肩を落とす。

 この砂レンガ、生産系スキルのチュートリアルで造ることになるため、RFCのプレイヤーならチュートリアルをスルーしていない限りは造ることが出来る。

 スキルで造るので、実際に砂レンガを造るとなれば必要な日干しの手間を省くことが可能だ。チュートリアルの中で急遽砂レンガが必要になった際には大層お役立ちだぞ、とNPCに言われた時には、そんなマニアックな機会なんてあるわけねーだろ、と思っていたのだが。


 あった。

 

 炊き出しの良い匂いが漂う中、村の片隅で砂レンガを量産しながら、俺はじとりとイサトさんを見やる。

 本来なら楽勝であったはずの食糧集め。

 イサトさんがうっかり砂漠で遭難したため、途中からはモンスターを探しているのかイサトさんを探しているのか、という有様だった。


 敗因は、ゲーム時代の感覚を今も引きずっているせいだ。


 ゲーム時代であれば、各エリアはワープポータルで区切られているため、一つのエリアはそんなに広くないのだ。特にこの辺りは初心者向けだけあって、一つ一つのエリアは小さく区切られていた。その感覚であったため、俺は説得に負けてイサトさんを砂漠に放流することにしたのだ。


 昨夜遭遇した得体の知れない男のこともあって、俺としては出来るだけイサトさんを一人にすることは避けたかったのだが……効率を主張されると、確かに二人で狩るのは時間がかかり過ぎた。お互い一撃必殺なのに、モンスターはそう固まって現れるわけでもないため、常にどちらかの手が空いている、というような状態になってしまっていたのだ。それよりは二手に分かれた方が、確かに効率は良かった。


 周囲に気を配り、見慣れぬ人、見慣れぬモンスターを見かけたら速攻帰還、を約束させて別れて。


 もしかしたら、迷うんじゃないか、と俺が気づいたのは、モンスターの姿を追って村からある程度離れてからのことだった。

 ふと振り返った先に村が見えなくなっていたことに、漠然とした恐怖を感じたのだ。辺り一面に果てしなく広がる――…ように見える砂漠。村が見えなくなってしまえば、俺に土地勘はない。一度目を閉じてぐるりとまわりでもしたら、きっと自分がどこから来たのかすらわからなくなってしまうだろう。

 それで俺は慌ててまだかすかに残っていた足跡をたどって村が見える位置まで戻ったのだ。

 ちなみにイサトさんは、目の前のモンスターを倒しまくり、遭難していることにすら気づかずひたすら砂漠を彷徨っていた。

 まだイサトさんがグリフォンを連れていたのならそう心配もしなかったのだが、残念ながら少しでもアイテムを持てるようにと、イサトさんは俺の「家」にグリフォンを置いていっていた。

 おかげで俺は、慌てて村で地図とコンパスを借りてイサトさんを探すことになったのである。

 

「ステータス的に砂漠で放置しても死にはしないとは思ってたけどさ」

「はい」

「昨夜のこともあるし……心配しました」

「ごめんなさい」


 次々と砂レンガを量産しつつ、俺はさもイサトさんの失踪に心を痛めていましたという風な顔を装ってイサトさんを見やる。いや、実際死ぬほど心配したわけなんだが。

 無自覚に砂漠で失踪していたイサトさんは、さすがに反省したのかすまなさそうな顔をしている。

 実際のところ、エリアという概念が現実となったこの世界ではなくなっていることを失念していたのは俺も同じだ。たまたま俺の方が気づくのが早かった、というだけで、決してイサトさんが一方的に悪いというわけではない。

 が、それでも俺が心配したのだと訴えれば、イサトさんが反省するであろうということは俺は長年の付き合いからわかっていた。


「反省しましたか」

「反省しました」

「じゃあイサトさんに罰を与えます」

「……はい」


 よし。

 

「じゃあ明日一日ナース服ね」

「うえええええええ!?」


 俺、ぐっじょぶ。

ナース服と赤ずきん、数えた結果ナース服に反応した方の方が多かったので。


仕事が忙しくなければ平日更新もあり得るのですが、基本的に新作に関しては週末更新だと思っていただけると嬉しいです。

とは言いつつ、四月末までに十万字超える、というのが一つの目標ではあるので、しばらく不定期ながら連続的にこちらを書いていければと思っております。


没ネタは活動報告に。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

感想、pt、お気に入り、励みになっています。


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