6.話し合い
ぐるっと見渡すが、人の姿はまばら。見える範囲でもどこかみんな絶望したような表情をしている。まぁ、死というものがひどく簡単に転がり込んできたこの状況では、仕方がないかもしれない。
ひとまずは安全であろうこの場所で、二人をまっすぐに見る。きっと、何かを知っている二人にできるだけ軽い調子で疑問を投げかける。
「で?これ今どういう状況な訳?ぶっちゃけキャパオーバーで理解できてないんだけど。」
うん。まず意味が分からない。世界を書き変えるって言ってたけど具体的にどうなったのかわからん。最終目標的なのもわからんし、なにより、今俺ができる事って何?
「うーんとね、僕も全部わかってる訳でもないんだよね。必要最低限って言うのかな?その程度だよ。」
「まぁ、オレも現状把握程度なら問題なくできるってところかな。詳しくはわかりようがないというか。」
さねは少し困ったように笑って、ちいは何か考えるように眉根を寄せて、それでもしっかりとした口調で答えてくれた。
「まずは、僕からで良いかな?」
困ったような表情のまま、さねが口を開く。
「まず状況だよね?なんていうか、さっきの“声”が世界を書き変えた事によって、魔物とか魔法とか剣とか、所謂ファンタジーな世界になった。
さらに今までファンタジーの中にいなかった僕たち人間は急激な世界の変化についていく事ができないから、“声”曰くプレゼントで、僕らもこの世界に適合できるように書き変えられた。
書き換えによってそれぞれにステータスとスキルが付属していて、それによってできる事が変わってくる………ってところかな。ここまでは良い?」
世界の“書き変え”。それと同時に俺らも書き変えられた。つまり、今までの平凡な高校生とは訳が違うと。
「だからさっき今までよりも変に速く走ったり何だりできたって事か?んで、さっきの二人の魔法?とかがスキル?」
スキルとステータス。それこそゲームのような用語の説明を求める。
「いや、それは違う。走ったり何だりはあってるけど、魔法はスキルじゃない。むしろステータス側。」
ここでちいが口を開く。
「その辺僕もいまいちなんだよね。智加に任せていい?」
どうやら説明はバトンタッチらしい。
「おう。……順番に行くぞ?ステータスってのは、ゲームで言うとこの職業とパ
ラメータだな。職業によって上がりやすいパラがあんのも一緒。
職業は勝手に振り分けられてて変更不可。種類はたくさんとしか言えん。この職業によって魔法使えるかとか剣だとかの得物が決まる訳だ。
パラはHPとかもあるけど、これは目安だな。そりゃ0になりゃ死ぬけど、でっかい数字が残ってても急所に食らえば一発退場。基本的にHPの高いやつは活動時間が長くなるって程度の感覚で良いと思う。
それよりは速さとか器用さとか攻撃力防御力その辺のがよっぽど重要だな。ステータスはこれで良いか?」
「つまるところさっき言ってた騎士だのとか言うのは職業の事か?で、さねの言ってた初期値ってのはパラの事でファイナルアンサー?」
頭ん中でゆっくりと分解して理解する。………知恵熱でそう。いや、知恵熱って小さい子が新しいものについていけなくて出すやつだっけ?いや今の状況だとまさにそれに酷似してるから知恵熱で良いのか?って、んな事考えてる場合じゃない。
「まぁね。」
「パラに関しては、鍛えりゃのびる。レベルって概念はないから何とも言えねぇけどな。」
レベルがない?
「鍛えればのびる。敵を倒したり鍛錬だったり、な。でもレベルはないからそのパラが上昇するだけ。格上かどうかやってみなきゃわからない訳だ。普通なら詰むな。」
見るからヤバそうでも弱かったりってこともあって逆もまた然りなわけ?それってどうすりゃ良いのさ。眉根がよったのが自分でもわかる。それを見てちいは少し笑いながら続ける。
「そこでスキルの登場な訳。」
つまり?首を思わず傾げる。
「スキルは一人一人違ってる。だいたい2〜4個持ってるのが普通だな。それより多いやつもいなくはないけど。スキルの数もたくさんとしか言えないな。
基本的にそいつの為人にあったものを持ってる事が多い。あんま物事に動じないやつには《冷静》、物事の中心になりやすいやつは《カリスマ》ってな具合に。」
ううん?つまり固有の能力だよな?でもそのスキルってどういったものなんだ?
「《冷静》を持ってるやつは、いざというときに的を外さない補正がかかる。それだけじゃなくて冷静に状況判断に移れるって利点もある。《カリスマ》は………まぁ、うん。そいつがパーティの中にいると結束しやすくなったりとか?詳しくはちょっとわからん。自分のスキルとパラは念じりゃ頭に浮かぶ。で、問題は他人や魔物だよな?」
念じれば浮かぶ?考えたと同時に数字が羅列される。
[職業;勇者
HP;250/300
MP;4————]
ってストップ!後で確認する!じゃないとただでさえぐちゃぐちゃなのにわからんくなる。頭を振ってちいに向き直る。
「大丈夫か?………続けるぞ。オレの持ってるスキルの中に《偵察》ってのと《探知》ってのがある。
最初のは相手のスキルとパラを見ることができる。更に、《探知》は一定の範囲にいる生命体を確認できる。ゲームのマップが頭に浮かぶ感じだな。」
「だからさっき、魔物の位置とかわかったんだね?」
「そう言うこと。」
ちいはそのスキルがあるから問題なく相手の力量をはかれる訳だ。ならば
「そのスキルがない場合は…?」
「え?詰む。」
スパッと断言される。
「何あっさりと………」
「まぁだから、ラッキーってことで。つうか、スキルはわかるけど、スキルの具体的な内容は本人しかわからないし。」
「あ?」
何言ってんのこいつ。ただでさえわからなくなりかけてるのに、変な情報増やすなよ。思わず変に低い声でにらみ上げてしまう。
「マコさっきから柄悪いよ。それで、どういうことなの?智加。」
「うんと、な?同じスキルだけど人によって発動するタイミングっつーか微妙に効果も違う場合があってだなぁ………
あー、個人差?があんだよ。だから具体的な内容はわからん。身内に聞いて大体の効果に当たりをつけるのがせいぜいだな。だから違うスキルでも似た効果のがあるのかもしれんしわからん。
っあ!そういや《カリスマ》持ってるやつは自分より格上は見た瞬間わかるとかなんとか?」
「は?…………は?」
「マコ、すごい間抜け面してるよ?……気持ちはわからなくもないけど。」
ちいの話が意味が分からない。あ?日本語が変だ。いやっつーか、は?
「たくさんって、そういう?複数の効果を持ってるのもあるってことか?ん?あ?」
「混乱すんのはわかるけど、そんなもんだって割り切った方が楽だぞ?」
ちいには珍しく苦笑い。いや、割り切れって、自分の生存確率あげようと必死こいて情報求めてんのになんでそんなアバウトなのさ。
「えーと、具体的な相手の事はどうがんばってもわからないってことで良いんだよ、ね?」
さねが困ったようにどうにか折り合いを付けた様子で確認する。
「ん、まぁ。戦ってみれば当たりもつけやすくなるけど。」
「即死効果持ちだったら一発アウトじゃねぇか!!!!!」
相手のスキル内容がわからないという事はそういう事だ。即死効果のスキルでもわからない。毒持ちとか、麻痺持ちとか。なにせ魔物が相手なのだからそれもあり得る。
「まぁよくあんじゃん。一回ゲームオーバー食らわないと仕組みわからなくてクリアできないゲーム。あとはスキルの中にはある程度それがわかるのもあるんじゃね?オレは持ってないけど。」
「ゲームオーバーできないから話聞いてんだろうが!」
「まぁおちついて。各々のスキル内容確認してみてそれから対策練ろうよ。ね?」
さねが宥めてくれるがなんでそんなに軽いんだっつーの!死んだら意味がないのに!!
「マコ、オレさ、俺たちが一緒なら、大丈夫な気がしてんだよ。だから不安につぶれるより、ある程度楽観視して生きたいんだわ。第一何があってもオレらはお互いのために動くだろ?不安に恐怖に潰されていたら上手く行かないかもだけど、それができるんなら、重傷負ったりとかはあるかもだけど死なないと思う。………ただの希望だけどさ。」
俺の思った事がわかったようにちいがいつになく真剣に言葉を紡ぐ。
「ありがたい事にオレらの職業もスキルも変なかぶり方もしないで持ってんだ。適材適所でできる。な?」
ちいがそこまで言ったところでさねがクスリといつものように笑う。
「そうだね。結構一杯一杯で今は大変だけど、だからってそこで潰れたらそれこそゲームオーバーになっちゃうよ。だから、お互いを信じて今は細かいところは投げちゃうくらいの心持ちで良いんじゃないかな?もちろん余裕ができたらしっかり考えないとだけど。」
どこか緊張は続いているけど緩んだ、いつものような空気が流れる。
「んだよ、俺だけ余裕のないガキみてえじゃん。」
ガシガシと髪をかきむしる。いつだってそうだ。二人がなんだかんだとこっちを気遣って言葉をかけてくれるのだ。
「あれだ。他人が大泣きしてんのを見ると泣けないとかびっくりしてんのを見るとこっちはできないとかそういうやつだ。つまり、マコのおかげだな。うん。」
ちいが、うんうんと頷きながら言葉にするが、
「ぜんっぜん!嬉しくねぇ!!」
「ふふっ。マコってば照れなくても良いんだよ?」
「ちっげえ!!!!」
………やっと、いつものような空気に、顔になる。
二人の言う通りなのはわかってる。大丈夫。まだ間違えてない。
ふうー、とひと呼吸つける。
さて、と。
「大まかな事わかったし、“これから”を話そうか。」
「おっけー。」
「うん。」
とりあえず目の前の事を考えよう。それからだ。
説明過多ですが、一応必要になる予定なのでざっくり。個人のパラとスキルはそのうち。次回は行動開始できるといいなぁ……。閲覧ありがとうございました!