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変人と悪魔  作者: 仁崎 真昼
赤:変人と悪魔
4/20

04 喧嘩とか

 時刻は正午を回った頃。

 何年前もに廃棄された工場の大きな建物の片隅で、蹲るように座り込んでいる少女がいた。

 工場の建物の床にはホコリが降り積もっていて、廃棄されてからの年月を表している。少女が身動ぎする度にホコリが舞い、窓から斜めに差し込む光がそれを映し出す。側を流れる川の対岸にはゲームセンターでもあるのか、遠くから賑やかな音が響いて来ていた。

 少女は何かよくわからない機材に腰掛け目を瞑っている。

 俯く少女の顔には疲労が色濃く出ていた。徹夜でもしたのか、目の下には隈もできていて、それが疲れているという印象に拍車をかけている。石像のように動かない少女は、腰掛けた機材から立ち上がることさえ億劫なようだった。

(お腹……減ったな……)

 胃袋がぐぅーと抗議の声を上げるのを聞き、少女は空腹なのを再認識する。少女が昨日胃に収めたものはおにぎりをひとつだけ。しかも今日はまだ何も食べていないのでそれも当然のことだろう。

 お腹を押さえうずくまる少女は、昨日起きた出来事を思い出していた。

(昨日は本当に危なかった……偶然人が来たから助かったけど、段々追い詰められている気がする)

 うずくまった体勢のまま目をぎゅっと瞑る少女。全身を包む疲労感と空腹のせいで、どんどん思考が悪い方に向かっていく。

(いや、実際に追い詰められてる。お金は残り少なくなってきたし、野宿もそろそろ限界だ。このままじゃ――)

 最悪な予想が脳裏に浮かぶ。

 少女はつい想像してしまった最悪な未来を振り払うかのように、頭を振り立ち上がった。が、座った体勢から急に動いたせいで立ち眩みに襲われ、思わず壁に手をついてしまう。砂嵐が吹き荒れるかのようにぼやけてゆく視界に、唐突に感覚のなくなる手足。思い通りに動かない体に少女は舌打ちをした。

 成長期の少女が何食もご飯を抜いているのだから、貧血になるのは当たり前。このままだと少女の体力が尽きて倒れるのも時間の問題だった。

 少女が壁に寄り掛かり体を落ち着かせていると、遠くで重いものを引きずるような音がした。

 その音を聞いた途端、少女の全身にサッと緊張が走る。警戒しながら慎重に建物の出口に向かうと、音をたてないように気を付けながら扉をわずかに開け、目を細めて外の様子をうかがった。

 少女が幾度か瞬きをすると外の明るさに目が慣れ、工場の敷地の中の四、五人の人影が見えた。工場の敷地に入るためのスライド式の門が開いていて(少女には重くて開けることができなかった)、さっきの音は門を開けた時のものだったことがわかった。少女は自分の悪いほうの予想とは違う光景だったため、やや安堵する。

(一、二……五人か。随分と仲の良さそうな集団だな……何でこんなところに人間が)

 ほっと息を吐き緊張を緩めた少女は、疑問を感じるのではなく腹が立った。

 少女がわざわざこんな人気の無い場所に来たのは、とある理由があって他人と会わないようにするためだった。それなのに来た翌日に団体さんがご到着となっては、悪態をつきたくなるのも仕方ない。また、彼らには全く関係は無いが、少女が空腹な状態だということも少女の怒りの原因の一つだった。

 イライラを抑えながら、少女は瞬時に避けることを決定した。顔を会わせても録な事はないということは、今までの経験から容易に予測できたからだ。

 しかし、扉からそろそろと離れたとき、少女は重大なことに気付いた。

 出口が無い。

 いや実際にはあるのだが、他の出口が資材などで塞がっているので、建物から出れるのは先ほど覗いた扉のみ。つまり、あの集団と顔を会わせずにここから立ち去るための出口が無いのだ。自分が隠れることができる場所も無いので、相手がこの建物に入ってきたら鉢合わせしてしまう。手詰まり、の状態だった。

 どうやって避けるか……、と少女は考えたが、突然良い考えが浮かぶわけも無い。面倒臭くなった少女は思考を放棄した。

(ああ、もう面倒くさい、何でこっちが避けなきゃいけないんだ。相手が絡んできても無視すればいいじゃないか。うん、そうしよう)

 正面突破を決めた少女。

 開き直った少女は腹が立っていることもあって、出口に向かい堂々と歩き出した。



 件の集団はあまり人柄が良さそうとは言い難かった。

 まず見た目がとてつもなく派手だ。髪は集団のほぼ全員が金色に染め、天よ貫けとばかりに逆立てていて、異様に存在感のある髪とは反対に眉毛は無い。顔にはあらゆる箇所にピアスを付けていて、幾つかにはチェーンも付いていた。おまけに、おそらく未成年であるにも拘らず煙草を吸っている輩までいる。

 気の弱い人にとっては、正直あまり関わりたくない類の集団だろう。

 その集団も少女と同じく人気の無い場所を探していた。

 先日その集団は、いつもの溜まり場である公園で騒いでいた。

すると近所の住民から苦情が来たらしく、警官の見回りが来たのだ。酒を飲んでいた事もあって、厳重な注意をされた集団は、溜まり場の公園を追い出された。

 溜まり場を追い出されたのは腹が立つ。しかし、同じ場所で騒いで捕まるのもバカらしい。

 そう考えた集団は、心置き無く騒げる場所を探していたのだ。

「おい、ここ結構いい感じじゃね?」

「確かにー」

「いいねぇ。人が全然こなさそうなところが」

「好きなだけ飲めるな!」

「お前はいつでも飲んでんだろ」

 ぎゃはは、と不快な笑い声をあげながら無駄話をしている集団。その工場を値踏みするように眺めていた集団の中の一人が自分達に近づく人影に気付いた。

「なあ、あれ見ろよ。なんか先客がいるみたいだぜ」

「なになに? ……あ、本当だ」

「うひょー、美少女だよ。絶滅危惧種じゃん」

 その集団は好奇心を隠そうともせずに、少女をジロジロと眺め回す。その不躾な視線には、少女を怖がらせてやろうか、というくだらない考えが見え隠れしていた。

 近付いてきた少女に、集団の中で一番背の低い少年が声をかける。

「こんなところで何やってんの? かわいいお嬢さん」

 少女は声をかけてきた少年のほうをちらりとも見ずに、からかうような口調の声を無視した。そしてそのまま、敷地の中でたむろしている集団の横を自分への視線を全く気にせず通り過ぎようとしたが、集団の脇を通り抜けようとした時に行く手を遮られた。

「シカトは無いでしょ。ちょっとぐらい相手してくれよ」

「……どいてくれませんか」

 突然前に立ち塞がってきた背の高い青年に、心底鬱陶しそうに頼む少女。一応敬語を使ってはいるが相手を敬っている様子は見えず、腹立だしさを隠そうともしていない。

 そんな少女を眺め面白そうにからかう集団は、完全にこの状況を楽しんでいる。

「んー、俺にキスしてくれたら考えないことも無いかなー」

 ふざけた口調で唇を突き出してくる背の高い青年を馬鹿にした目つきで眺めた少女は、その青年をよけて通ろうとする。だが今度は別の青年に進路を塞がれた。

 またか、と思いつつため息を吐く少女に周囲の青年が囃し立てた。

「うわ、気の強いお嬢さんだな。この状況でため息なんて吐いちゃってるよ」

「すげぇ、すげぇ」

「まあまあ落ち着けよお前ら。優しくしてあげないと怖がられちゃうよ。足が震えているんだからさ」

「お前の顔が怖いんだって!」

 また、不快な笑い声が上がる。勿論、恐怖で震えているわけではなく、苛立っているだけである。それに気づかない集団のメンバーの一人、太った青年が少女に近づき肩に手を伸ばした。

「今日は平日だよ? 学校はどう――」

 ゴキッ、という鈍い音。

 相手の言葉を待たず振るわれた少女の拳は、攻撃が来るなど全く予想してなかった太った青年のあごに直撃した。そして、その強烈なアッパーカットは青年の意識を一瞬で刈り取った。

 華奢な少女のものとは思えないそれを見て、残りの四人に動揺が走る。

「て、てめぇ!」

「煩い」

 サングラスをかけた男が少女に向かって一歩踏み出し低い声で威圧したが、少女が怯むことはなかった。それどころかするりと男に近付くと、短い言葉と共に少女は拳を振るった。

 抉るようなボディーブロー。

 少女のことを警戒していたのにも拘らず、男は避けることも反撃することもできなかった。結果、少女の拳は彼の鳩尾に突き刺さり、短い呻き声と共に一撃で地面に崩れ落ちる。青年に衝撃で吹き飛んだサングラスを気にする余裕は無く、釣り上げられた魚のようにのた打ち回ることしかできなかった。

「なっ……!」

 それを見ていた三人は思わず絶句する。

 仲間二人が華奢な少女に一撃で戦闘不能にされてしまったのだ。いくら不意を衝かれたからといって、そこそこ体格も良くて喧嘩好きな仲間が、だ。驚き、声が出なくなるのも仕方が無かった。

 驚愕の表情を浮かべる三人に向けて、少女は静かに呟いた。

「お前ら……めんどくさいよ」

 ギラリと少女の目が輝く。

 声と共に、空気に染み込ような威圧感を三人は感じた。

 硬直して動かない三人に少女が近付く。少女が最初に狙ったのは背の低い少年。恐怖を瞳に浮かべる少年の懐に、立った一歩の踏み切りで飛び込んだ。

 その肉食獣のような動きを見て、殺される、と感じた少年の恐怖が膨れ上がる。

「うわぁぁぁぁぁ!」

 少年は怯えを含んだ雄叫びを上げながらパンチを繰り出した。しかし、全く力の入って無いそれは少女にはまるで効果が無い。少女は伸びてくる左手を顔を逸らしただけでかわすと、目にも留まらぬ早さの正拳突きを顔面に叩き込んだ。

「ぐうぅっ……!」

 まともに反応することもできず、少年はガツンと頭を揺さぶられる。痺れるような痛みが鼻を襲い、それに耐えきれずに顔を押さえた。 少年を殴り飛ばした少女に、背の高い青年が掴みかかる。

「大人しくしろ!」

 捕まえさえすれば力では負けない。そう思っての行動であったが、その捕まえることがとてつもなく難しかしい。

 少女は自身を捕らえようとする右手を絡めとると、思いきり自分の方へ引き、相手の体勢を崩す。

「うわっ!」

 驚きの声と共に地面に倒れこむ青年の腰に蹴りを食らわせ?。

 青年は見事に顔から地面に倒れ込んだ。

 ふぅ、と少女は息を吐き、疲労からか無意識の内に動きを止める。その時、少女の背後からじゃり、と砂を踏みしめる音がした。

 気配を頼りに少女は背後の敵に裏拳を繰り出そうとする――が、できなかった。

「っつう……」

 視界が歪み、一瞬地面の位置がわからなくなる。まともに栄養を送ってくれない体に、脳が抗議の声をあげたのだ。

 気づいたときには少女はバランスを崩し、背後にいた茶髪の青年に体を投げ出していた。

「うおっと! ……どうしたんだ?」

 反射的に少女の体を受け止めた青年は、少女の唐突な動きに戸惑いの声をあげる。拳が飛んでくるだろうと青年は身構えていたのだが、その様子がないことに疑問を覚えたのだ。

 一方、まつりも殴ってやろうと構えようとしたが、力を入れることができなかった。

(頭がクラクラする……何て非力なんだこの体は。……くそっ、気合いを入れろ。

ここで動けなくなったら洒落にならないっ……)

 まつりは茶髪の青年に寄りかかったまま、素早く息を整えようとする。しかし、相手はまつりの都合では待ってはくれなかった。

 いつの間にか立ち上がっていたサングラスを握っている男が、脂汗の浮かんだ顔で吠えるように叫んだ。

「おい、川崎! そいつを掴んだまま逃がすなよ!」

「あー、ハイハイ。わかっ――っとわっ!」

 まつりを支えている茶髪の青年は気乗りのしない顔で返事をする。しかし、話している途中にどすんと突き飛ばされ、たたらを踏みながら顔をしかめた。

 青年を突き飛ばした少女は周りの人間を睨み付けながら、ふらふらと数歩後ろに下がった。

「……そんなに簡単に、捕まえられると、思うなよ」

 少女は必死に何でもないかのように表情を装う。

 少女は不甲斐ない自分の体を叱咤し、立ち続けるがどうにもならない。このところほとんど寝ていないのに加え、栄養も摂っていない体は、もう余り動けそうになかった。

 明らかに顔色が悪いのにいまだ周囲の人間を睨み付ける少女を、比較的怪我の軽い背の高い青年が鼻で笑う。

「はっ、お嬢ちゃんはもうフラフラだろ? 余裕があるようには、見えないけどなあ」

「……そう思うならかかってこい。叩きのめしてやる」

 弱っている事を見せないようにと、少女は強気な態度を崩さない。相手を煽っているということに気づきながらも、他にどうすればいいのかわからなかった。

(どうする、このままじゃ駄目だ。人を呼ぶ? バカなことを考えるな。それが無い様にここを選んだんだろう。……思い付かない)

 少女は崩れ落ちそうになる体を、必死に支えながら焦る。しかし何も思い付かず、ただ時間だけが過ぎていった。

 完全に気絶している青年と未だ痛みに呻いている少年を除いた三人が、少女のことを取り囲むように近付いてくる。それに合わせて少女も後退する。

 少女が逃げ腰になっていることを確認した三人は、さらに大胆に間合いを詰める。

(っ……駄目だ)

 そうして、背の高い青年が少女の腕を掴もうとしたとき。

「あれ? 何か楽しそうなことしてるねぇ」

 場違いなほど明るい声が工場に響き渡った。

 両者の間の空気が凍りついたかのように動きを止める。

「こんにちは。僕も混ぜてもらって良いかな?」

 買い物袋をぶら下げた青年が暢気な声でそう告げた。

 少女は我が目を疑った。人がいる事に対してもだが、その人が声を掛けて来た事にだ。

 例えば、道端で女の子が不良の集団に絡まれていたとする。九十九パーセントの人は見て見ぬ振りをするだろう。残りの勇気ある人々だって、精々警察に連絡する程度だ。

 現実にはヒーローなんていない。

 しかし目の前の青年は、まるで友人に声を掛けるかのように、気軽に話し掛けてきたのだ。柄の悪い殺気だっている集団に向かって。

 正直、正気を疑う行動だ。

「あれ? どうかしたの? みなさん固まっちゃって。僕は挨拶をしただけなんだけどなー」

 自分の行動の異常性を、全く理解してない様子の青年。楽しそうな顔で周りを見回しながら、頭を掻いている。

 一瞬唖然とした少女はその青年に見覚えがある事に気がついた。(あれは……昨日会った奴だ。何故ここにいる? やはり見られたのか?)

 少女は先日突然の闖入者にどう反応すべきか判断がつかなかった。人が来た事に普通なら喜ぶべきなのだろうが、出来る事ならその相手と二度と出会いたく無かったが故に躊躇う。

 男達は動かず、少女は動けない。

 その結果、最初に闖入者に反応したのは、サングラスを握りしめた男だった。不愉快そうに闖入者の青年を脅す。

「邪魔だ、消えろ。何も見なかった事にして、今すぐどこかに行けば、特別に見逃してやるよ」

 それに対して青年はまともに対応しようとしない。

「うわぁ、めっちゃ上からの目線だね。君、何様? 結構イラつくよ」

「……お前怪我したいのか?」

「そーんなわけ無いだろう。僕は怪我して喜ぶような変態的な性質は持っていないんだ。だからわざわざ痛い思いをするのは嫌だよ。ーーそれともそんな事を聞くってことは、君ってひょっとしてマゾヒストなのかい?」

「てめえ!」

 どこまでも人を食ったような答えしか返さない青年に、男の目が細くなる。明らかに怒っている。

 今にも掴みかかりそうな男と笑顔の青年の間で、ぴりぴりとした緊張感が漂った。

 重苦しい沈黙。

 一触即発の空気を崩したのは、茶髪の青年の呻くような声だった。

「お、大戸……恭平……」

 周囲の人間が声のした方を見ると、茶髪の青年は顔をひきつらせていた。

 闖入者の青年――恭平は、自分の名前を読んだ人物をまじまじと見つめる。そしてポン、と自分の拳を叩くと、嬉しそうな楽しそうな声を出した。

「ん? ……ああ! 久しぶり、川口だっけ? それとも、川田?」

「い、いや、川崎だ」

 フレンドリーな恭平の態度に対し、茶髪の青年は明らかに挙動不審だ。先程までのどこか暢気な雰囲気など欠片もなく、顔は青ざめていた。

 そう。見るからに怯えていた。

 様子のおかしい仲間を見て、背の高い青年は戸惑う。彼らが一緒に過ごしてきて、ここまで怯えているのは初めて見たからだ

「お、おい、どうしたんだ?」

「いや、その……」

 茶髪の青年は目を伏せながら口ごもる。何と言おうか迷っているようだ。

 その様子を恭平はじっと見つめる。

 一瞬の沈黙の後、茶髪の青年は焦ったように早口で喋りだした。

「も、もう帰らないか? ほら、いい加減女の子をからかうのも飽きてきただろ?」

「……は? いきなり何言ってんだ?」

「いや、別に深い考えとかがある訳じゃなくて……何となくだよ。な?」

「だから、意味わかんねぇよ」

 突然帰ろうと言い始めた茶髪の青年に、他の二人はさらに戸惑いを深める。しかし、茶髪の青年はそんなことを気にしている余裕さえないらしく、しきりに帰ろう、と繰り返す。

 一刻も早くここから立ち去りたいとでもいうように。

 要領を得ない態度に苛立った背の高い青年は、ついに声をあらげ始めた。

「いい加減にしろよ! あんな奴にびびってんのか?」

「……もういいから、帰ろうって」

「だから! ここですごすごと帰っていったら、ただの間抜けだろうが! お前はそれでいいのか?」

「それは……」

「ならあいつらに少々痛い目に遭ってもらうしかないだろうが!」

 あいつ、という言葉と共に、サングラスを握りしめた男は、恭平と少女を指差した。そして男は、その時に恭平の目が細められたことに気づかなかった。

「けどな――」

「へぇ、君達は女の子に手を上げるつもりなんだ?」

 恭平の声から楽しげな響きが消える。それを聞いた茶髪の青年はびくりと体を震わせた。

「人が集まって騒いでるかと思えば、ひょっとして女の子を苛めていたのかい? うわ、最悪な奴等だ。なんて駄目な奴等だ。親の顔が見たいなんて言葉があるけど、まさにこれが当てはまりそうだ。まぁ君たちの親に興味なんてないんだけどね。か弱い女の子相手に、大の男が寄って集って群がって……本当に吐き気がするね」

 早口でぶつぶつと辛辣な言葉を吐き出す恭平に、男達は呆気にとられる。恭平のその得体の知れなさが、不気味に思えたからだ。

 茶髪の青年は一人震えている。

「ううん、その根性どうしてくれようか……。埋めるか、沈めるか。……それとも、また(・・)逆さに吊るそうかなぁ。ねえ、川口くん?」

「ひっ……!」

 腹の底に響くような恭平の言葉に、茶髪の青年は小さく悲鳴をあげ、尻餅をついてしまった。

 仲間の狼狽っぷりに、思わず他の二人も息を呑んでしまう。それほどまでに茶髪の青年の怯えは酷く、恭平の異常さを際立たせていた。

 そんな言葉のでない様子の青年達を一瞥すると、恭平は少女の方へ振り向き声を掛けた。

「さて、あんな奴等放っとこうか。お茶でもどう?」

 余りにも場の雰囲気にそぐわない言葉をいきなり自分に振られ、少女は狼狽える。

「は? えっ? あー……と」

「よし。断らないって事は良いって事だよね」

 恭平は少女の返事を待たず近寄ると、手を掴みスタスタと歩き出す。その態度は、まるで周りに人などいないかのようだ。

 その行動が余りにも自然に見えたため、少女は抵抗が出来なかった。

 恭平が青年達の横を通り抜けようとしたとき、虚をつかれて静止していた青年達は、ようやく相手が逃げようとしていることに気づく。そして、恭平と少女を慌てて取り囲んだ。

「待てよ!」

 急に道を塞いでくる集団に、恭平は不思議そうな表情を浮かべる。

「道の真ん中でボーッと突っ立ってると迷惑だよ。蹴飛ばされる前に退いたら?」

「あんまナメんなよ!」

「てめぇ、ぶっ殺してやる!」

 恭平の態度に激昂した背の高い青年が、憤怒の表情で懐からナイフを取り出す。それを見てサングラスを掛け直した男も拳を構えた。

「へぇ……」

 敵意を剥き出しにする集団とは逆に、殺す、という言葉を聞いた瞬間、恭平の顔から笑顔が消える。その表情が抜け落ちた顔は、ゾッとするほど何の感情も読み取れなかった。

「殺す……ね。やってみろよ」

 恭平の言葉使いが崩れると、何故かそれに男達は恐怖を感じた。

 戦意と、恐怖と、怒りをごちゃ混ぜにしたかのような表情をし、男達は身構える。

 その男達を恭平はゴミでも見るような目で見回すと、挑発した。

「ほらほら、やってみなよ。そんな大層な言葉を使ったってことは、それだけの覚悟をしたっていうことだろう? それとも口先だけの臆病者なのかい?」

「んだとてめぇ! 調子乗んなよ!」

 恭平の馬鹿にするかのような口調に、背の高い青年の顔は茹で上がったように赤くなる。そして、恭平を脅すかのようにナイフを振り上げた。

「ほらね、また大きな声で脅しを掛ける。まるで自分を大きく見せようとする猫のようじゃないか。いっとくけど人間ってのは簡単に死ぬもんだよ? 一々威嚇なんて手順を踏まなくてもいい。首を斬ったり、お腹を刺したりするだけさ。極端な話、殴るだけでも人間は死ぬ。避けないからやってごらん?」

 軽く皮肉を混ぜながら淡々と語る恭平に、背の高い青年の怒りはどんどん膨らんでゆく。サングラスを掛けた男も同様だ。

 恭平はその様子を真正面から見ながら、ニヤリと笑った。

「それとも、無抵抗の人間を傷つけるのは、臆病な君達には怖くてできない?」

 まるで無抵抗であることを示すかのように腕を広げる恭平。それはあくまで自然体で、自信に満ち溢れていた。

 なめられている。そう感じた瞬間、背の高い青年は激昂した。

「そこまで言われちゃ、やるしかねぇ……!」

 背の高い青年はナイフを持っている腕を突き出すように構えると、恭平に向かって走り出す。

「うおらあぁぁぁ! 避けんなよぉ!」

 当たればただでは済まない。それがわかっていても尚無防備な恭平に、銀色に輝く刃が迫る。それを眺めていた少女が短い悲鳴を上げた。

 しかし、恭平にナイフが刺さることはなかった。

「嫌だよ」

 恭平が右手にぶら下げたままだった買い物袋を、ナイフを持っている腕に叩きつけたからだ。

 ゴスッ、と鈍い音がして、買い物袋がナイフを弾き飛ばす。買い物袋には分厚い週刊紙が二冊入っているので、それなりに重く、角は尖っている。当然、当たれば痛い。

 結果、買い物袋を叩きつけられた背の高い青年は、痛みのあまりナイフを落としてしまった。

 反撃を予期していなかった背の高い青年が思わず腕を抑える。そして、今度は逆に背の高い青年が無防備になる。

 恭平は怯んだ背の高い青年に近づくと、すかさず股を蹴りあげた。

 思わず耳を塞ぎたくなるような肉を打つ音。(男性ならば)思わず目を塞ぎたくなるような光景。

 背の高い青年は地面に倒れ伏し、股間を抑えて悶絶した。

 恭平は汗を拭う仕草と共に、軽く息を吐く。

「ふぅ、危ないなぁ。日本の治安は言うほど良くないのかもね」

 そんなことをしれっと言ってのける恭平は、硬直していたサングラスを掛けた男にすたすたと近づく。

 男が思わず股間を抑えてしまったのは、仕方が無いことだろう。

「この卑怯者が!」

 若干声を震わせながら、サングラスを掛けた男は怒鳴る。恭平が避けないと言ったことを咎めているのだろう。

 しかし、恭平はサングラスを掛けた男の罵倒を無視し、懐から何かを取り出した。

 太めのピーラーのような外見をしたそれは、艶のある黒色だ。先端部からは金属の突起が二本出ていて、スイッチのようなものが二つつ側面にあった。

「な、何だそれは。何をする気だ?」

 不思議そうな顔をする男を見ながら、恭平は赤色のスイッチを押す。

 途端、ジジジジと何かが振動するような音をたて始めるその物体。金属の突起から迸るその火花を見れば、それを実際に見たことのない人間でも予想はつくだろう。

「そ、それは……」

「お察しの通り。めっちゃ痺れる例のあれ、さ」

 咄嗟に恭平から離れようとするサングラスを掛けた男は、足が絡まり尻餅をついてしまう。男の顔は恐怖ひきつった。

 スタンガン、と呟く男に恭平はそれを押し付ける。

 苦痛の声と共に崩れ落ちた男を恭平は一瞥すると、にこりと茶髪の青年に微笑みかけた。

 恐怖のあまり、それだけで体を震わせる茶髪の青年。青年の顔は既に、青を通り越して白くなっていた。

「吊るされたくないなら、仕返しとかは止めてね」

 青年は首がとれそうなくらい勢いよく頷いた。



「いやあ、危ないところだったね、お嬢さん。と言っても何をしてたのかは全然知らないんだけどね」

 二人は今、小さな喫茶店で軽くおしゃべりをしている、はずだった。

「え、何? それなら、何でしゃりしゃり出てきたのかって? そんなの面白――じゃなくて、君が困っているように見えたからに決まってるじゃないか」

 しかし現実は優雅にジュースを飲む少女に、恭平が一方的に話し掛けるだけになっている。

「そんなこと訊いてないって? 気になるって君の顔に書いてあるよ、なんてね。喧嘩をしている人がいたら、仲裁に入るのは当然でしょ」

 それも仕方がないのかもしれない。なぜなら恭平は少女とあの場から去った後、さあ、お茶でもしようと少女を強引に引っ張って来たのだから。

「……うん、ごめん。無視はやめて。結構傷つくから」

 尚も無視し続ける少女に、ついに恭平も耐えきれなくなった。現在の心境を素直に吐露する。

 謝る恭平を見て少女は溜め息を吐く。恭平が彼女を引っ張って来て早十分。今だ一言も口にしない彼女は、何かを葛藤しているようだった。

 先程の話題では何も話してくれそうに無い事に気づいた恭平は、疑問に思っていた事を聞く事にした。それが彼女が触れられたくない話題とは考えることもなく。

「ねー。昨日の事何だけど」

 そう、先日見たあの現象についてである。

 昨日の、という言葉を聞いた少女の肩が、ピクリと震えた。しかし、それに気付かず恭平は質問をした。

「君って……宇宙人?」

 予想外のワードが飛び出してきて、思わずむせてしまう少女。苦しそうな彼女を見て恭平は心配する。

「大丈夫かい?」

「がっ……げほっ、誰、が、宇宙人だ」

「その反応……違うみたいだね!」

「当たり前だ!」

 怒鳴る少女を見て嬉しそうに微笑む恭平。

「やっとしゃべってくれたね。一応助けたつもりだったんだけど、感謝の言葉もくれないから怒っているのかと思ったよ」

 少女はそれを聞いて、まだお礼も言ってないことに思い出す。そしてばつの悪そうな顔をすると、訥々としゃべった。

「……別に怒っている訳ではない。あの状況で助けてくれた事については、感謝もしている。……ただーー何となく話し難かっただけだ」

 少女はどこか言いにくそうに言った。

 怒ってないと聞いた、恭平はウンウンと頷く。その顔は安心したと言うよりは、事実を確認したという様子で、相変わらず自信に満ちているように見える。

「そう。まあ君が怒っているかいないかは、どうでも良いんだけどね」

 恭平は真意が読み取れない台詞を吐く。

 その台詞に少女は疑問符を浮かべる。それを横目に恭平は一旦話を切った。

 恭平は珍しいものを見るかのように、少女をじろじろと観察する。

 何となく居心地が悪く感じ、その視線から逃れたかった少女は、気になっていることを恭平に質問をした。だんまりを決め込んでいたはずだが、一度会話をしてしまって踏ん切りがついたようだ。

「一つ訊いていいか? 先程の武器、のようなものは一体何だ? 大した威力だったが」

「ああ、あれはね、知り合いが暇潰しに作ったスタンガン――電気で相手を痺れさせるものさ。威力はそこまでじゃないよ。人は殺せない程度だから」

「ふむ」

 少女は少し考えみ、もう一つ気になっていたことがあることに気づいた。

「……ではあの茶色の髪をした奴はどうしたのだ? やたらお前を恐れていたようだが」

「え? 大したことはしてないよ? ちょっと腹が立ったから、足首を掴んで三階から吊るしただけ。まあ、手が滑りそうになったりして少し危なかったけど、結果的には無傷だったし」

「そ、そうか」

 大したことないと言う割には危険なことをしていることに、少女は少し顔をひきつらせた。

 話が途切れたことにより恭平は一口水を飲むと、少女の目を見つめながら本題に入った。

「僕は腹芸なんて面倒臭いことは嫌いだから、単刀直入でいくよ。ーー君は、宙に浮けるの?」

 宣言の通りストレートな質問に、顔が強張る少女。その表情に、わずかに焦りが見え隠れする。

 時間が止まったかのような沈黙が流れた。

 暫しの間の後、少女は少し投げやりな様子を見せながら、ため息を吐いた。

「やはり……見ていたのか」

「お! 否定しないというのは事実って事なの?」

 少女の返答に、恭平の顔がパッと明るくなった。興味津々といった様子で、目を輝かせ始める。

「へぇー。今まで生きてきて、こんな面白そうなことは初めてだよ。君は、やっぱり超能力者か何かなのかい?」

 恭平は生まれて初めてという程の大きな不思議に出逢え、興奮しているようだ。早く早く、と少女に先を促す様子はまるで少年のようで、その無邪気な様子は恭平の年齢にはそぐわなかった。

 一方、少女はそんな恭平を欠片も気にせず、何かを考え始める。

 考え事をしている少女は恐ろしいほど無表情で、まるで彫像のようだ。その冷ややかな無表情は、どこか憂いを含むようにも見える。

そして、少女から放たれている気配とでもいうべきものは、とても十代の少女のものとは思えなかった。

 思考を終えたらしい少女がゆっくりと口を開く。

「お前はーー悪魔、という存在を信じているか?」

 悪魔という単語に目を見開く恭平。喉をゴクリと鳴らすと、逆に問い掛けた。

「……信じてる、と言ったら?」

「仮定の話は要らない」

 恭平の問い掛けに、少女は全く取り合わない。

 恭平はその様子を見て、回答を誤れば少女についての真実を、二度と知る事は出来ないであろう事を悟った。

 恭平は悩んだ。だが、少女がどんな回答を望んでいるのかは、皆目見当もつかない。

(どうしようかなー。…………ま、いっか。成るように成るよね)

 その結果、恭平はいつも通りにする事にした。

「はぁ……こういう面倒臭いのは嫌いだって言ったじゃん」

「……だから何だと?」

「いつも通りでやるってことさ。」

 いぶかしげな少女に恭平はそう答えた。

「いつも通り?」

「単刀直入ってやつ。……僕の答えはズバリ、どっちでもない、かな」

 興味を惹こうと信じていると答えるか、常識に従って信じないと答えるか。どちらを選んだかで相手を見極めようとしていた少女は、予想外の答えに目を瞬かせた。

 恭平は少女の反応を全く気にせず、朗々と話し続ける。

「だって、まず悪魔ってやつの定義がわからないしね。黒くて長い尻尾でも生やしてればいいの? 魂を食らうとか? 姿が見えなかったり、人に取り憑いたりできたら悪魔? もしも、それら全部とか言われたら、それはいないと思うかなぁ。なんか色々と矛盾してるところもあるしね」

 畳み掛けるような恭平の言葉に、まつりは目を白黒させる。そこまで真面目に考察されるとは考えていなかった。

「猿が突然変異して黒くて先の尖った尻尾を持つとか、蝙蝠が巨大化して人間に似ちゃうとか、そういうことならありえるだろうし、魂を脳と定義してしまえば食人の風習がある部族はみんな悪魔さ。将来的には宇宙人にだって会えちゃうかもしれないし、もしその人達がそういう格好してたら悪魔って愛称をつけるのもいいかもしれない。ほら、こういうことを考えると、いるかもしれないっていう気になるでしょ?」

 淡々と己の考えを語る恭平を、少女は吟味するように見詰める。

「……確かに悪魔が存在するか? って問われたら、しないって答えなきゃ人に変な目で見られるだろうね。実際に僕もいないって答えるだろうし。けど君の質問は信じるかどうかでしょ? それなら理性的に考えて否定、感情的に考えて肯定のどちらでもない(フィフティフィフティ)、が僕の答えさ」

 そう言いきった恭平に少女は静かに質問する。恭平が何を考えているのか、ますますわからなくなってしまったからだ。

「感情的に考えて肯定、か。……何故信じたいと思うんだ?」

 その質問に恭平は、何を今更とばかりに溜め息を吐く。

「男の子はね、少年の心を忘れたらおしまいなんだよ」

「はあ……?」

 まつりの気の抜けた相づちに、恭平はぴくん、と反応する。

 どうやら何かのスイッチが入ったようだ。

「はあ? じゃないよー。可愛いお姫様を救ったり、巨大ロボットを操縦したり、黒魔術の儀式で悪魔召喚とかは、一度は誰でも夢見るでしょう? 変身ヒーローに名探偵にトレジャーハンターは鉄板でしょ?」

「お、おう」

「誰だって憧れる正義のヒーロー。そんな存在は皆何らかの不思議な力を使えるの。魔法を使えたり超能力を使えたり悪魔と契約してたり精霊が助けてくれたり。これは鉄板」

「そ、そうなのか」

 話している内にどんどん熱くなってゆく恭平は、机から身を乗り出しながら力強く語る。

まつりは完全に引いているが、そんなことは眼中に無いようだった。

「そういうのを見て胸を熱くしている子供の心を忘れない人が、格好いい大人になれるの。そして、そんな細かい理屈を抜きにしても、実際にあった方が断然面白い。男のロマンってやつなの」

「な、なるほど……」

「人智を越える力を使い、主人公を追い詰める敵。その敵に知恵を絞って戦う主人公。最後には敵を倒してハッピーエンド。そんな物語を信じたいということに、理由なんて必要ないっ!」

 ばん、と盛大な音をたてながら、恭平は机に両手を叩きつけた。

 一気にしゃべって疲れたのか、恭平は息を荒くしている。

 まつりの顔は引きつっていて、軽く身を引いている。

 黙り込んだまま二人は見つめ合った。

 数秒の時間が流れた後、恭平は椅子にドサッと座り込んだ。

「……と、いう訳なのです」

「……と、いう訳ですか」

 再びの無言。

 少女は暫く無表情でいたが、唐突にプッと吹き出すと、くすくすと笑いだした。

「お前さ、よく人に変だって言われるだろ」

「お、よくわかったねぇ。初対面の人からは、いつも言われるんだ」

「お前と少し会話すれば誰だってそう思うさ」

 二人の間の空気が柔らかくなる。それは少女が笑ったことで、凍っていた氷が溶けたかのようで、思わず恭平はドキリとする。その未知の感覚に、恭平は何故か焦りのようなものを感じた。

 恭平は少女に先を促す。

「で、質問の答えに対して、何か無いの?」

「特には無いが」

「……え?」

 しかし、少女に一言で切って捨てられ、恭平は絶句する。すぐに気を取り直して問うが、顔には苦笑いが張り付いていた。

「……今のやり取りの意味は?」

「さあ?」

 とぼけるように首を傾げて見せる少女に、恭平はがっくりと項垂れる。

 その姿を少女は満足そうに眺めると、話は終わったとばかりにてを叩いた。

「というわけだ。あ、当然ここはお前の奢りだよな? お前が無理やり連れてきたんだから」

 少女は笑顔で立ち上がると、伝票を恭平に押し付ける。恭平はそれを受け取ると、最後の足掻きをした。

「待った! 君の名前を教えてってよ。一応僕は、恩人ってやつに入るんじゃないかな」

 少女の名前を問う恭平。

 もしもここに弟の敬和や友人がいたならば、大層驚いた事だろう。恭平が相手の名前を呼ぶのは親愛の証。少女の名前を知りたいという事は、彼女の事をとても気に入ったという事なのだから。

 恭平の問いに少女は迷う素振りを見せる。

 だが、恩人という事もあり、もう二度と会う事は無いだろうと思ったので、教える事にした。

「――まつり。天野まつり、だ」

 そう告げる少女はどこか寂しげに見えた。そしてありがとう、と囁くと、少女は足早に去っていった。

 残された恭平は虚空を睨みながらまつり、と呟く。心に刻むように二度三度呟くと、立ち上がって伸びをした。

「うん、退屈せずに済みそうだ」

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