第一章・第四話
東北地方沿岸武装工作員部隊上陸地点―
「サム、どうした?」
部隊長である「ゴールド」ことキムに声をかけられる。
我々は本名とは別の名前を用意し、それを使っている。
自分が生き延びるためではない。
しかも我々は「死んでいるはずの人間」、もしくは「死ななければいけない人間」の集団なのだ。
既に死ぬ覚悟は出来ている。
本名を使わずに敢えてアメリカ流のコードネームを使うのは通信の際に聞き取りにくい、
言いにくいという理由からだった。
「なんでもないです。ゴールド部隊長。」
「それならいい。もうすぐそこの車道を通る車を奪って東京へ向かう。スコーピオンを用意しておいてくれ。」
「はっ。」
キム、部隊長のコードネームは「ゴールド」だった。
日本語で「金」と書くのでそれとかけているらしい。
ただ、部隊の中で俺だけには名前が無い。
生まれたときから「一流武装工作員」として育てられ、
コードネームとも本名とも言える「サム」として生きてきた。
こんな人生に未練は無い。
それなら俺を育ててくれた「世界統一機構」に恩返しをしよう。
そう思い俺は「薬品工場の爆発で死んだ」ことになり、世界統一機構の工作員として日本に上陸した。
「サム副隊長!ゴールド部隊長がお呼びです。・・・いよいよですね。」
「わかった。スコーピオンを用意してもっていくといっておいてくれ。」
「了解しました。伝えます。」
そうしてサムは人気の無い浜辺に突っ込んで座礁している工作船に歩み寄っていった・・・