第一章・第二話
海上自衛隊イージス艦DDG-177「しおかぜ」―
「総員、これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない。」
一気にざわめきが広がる。
「総員落ち着いて行動するように。」
そう締めくくり艦長は緊急放送を終えた。
今ちょうど説明があった。
(畜生、もう工作船の領海侵犯がばれたのか・・・)
「黒河先輩!」
後ろから後輩が声をかける。
「大変なことになりましたね。どうすれば、」
「うるさいっ!今から忙しいんだ!実戦だぞ!暢気なこといってないで
配置につけ配置にっ!」
思わず叫んでしまう。
「せ、先輩?」
「ほら、あっちいけよ。」
「・・・」
黙って絶望だとでも言わん限りの顔をしてトボトボと歩いていく。
(頼らなければ生きていけないような、日本人にもう用はない・・・)
そう、黒河は工作員だった。
それも朝鮮半島に本部を置く「世界統一機構」の、である。
子供のときから両親も、祖父も祖母も工作員だった。
「黒河」と言う名前は偽名らしいが、気に入ったから使っている。
それに都合がいい。日本人に国籍上なっていなくても勝手に日本人だと思っていてくれるのだから。
一度首領様にも会ったことがあり、自衛隊にはかなりの工作員の数が潜んでいるそうだ。
すくなくとも、護衛艦一隻あたりに一人ぐらいで。
俺の任務は爆弾で護衛艦を爆弾に設置後、秘密裏に脱出、
工作員部隊との合流だった。
やけに厳重な箱のスイッチを一回置いてどこかに置いておくだけで
遠隔操作ができるようになるそうだ。
そして爆発して「しおかぜ」は海の藻屑となる。
タイミングは、この船が不審船を攻撃する少し前。
だから今から仕掛けて逃げてもいいだろう。
仕掛ける場所は、CIC。
あそこが吹き飛べば実質「しおかぜ」は行動不能になる。
多少良心が疼くが、祖国のため、そして世界のためだ。
早速CICに向かって箱を持って歩く。
見つからないはずだ。
なぜならここはCICのすぐ近くで、その上総員戦闘配置されている。
ちょうどいいロッカーを見つけ、タイマーを五分に設定し、
スイッチを押した―
途端に目の前が真っ赤になり、真っ暗になった。
直感で分かった。
「裏切られた」のだと。
ただ単に、自分は利用されたのだと。
痛みなどなく、ただ意識が消えていった。
DDG-177「しおかぜ」、小型核爆弾の内部爆発により爆沈―