第一章・第一話
20XX年海上自衛隊イージス護衛艦DDG-177「しおかぜ」艦上―
部屋にノックの音が響く。
「入れ。」
「失礼します。大嶋艦長、防衛庁より緊急の入電です。」
1曹に封筒を渡される。
「ありがとう。」
「それでは、失礼します。」
口では言いつつも少しも大嶋は感謝していなかった。
(少しの休息の時間なのだから少しぐらいは休ませて欲しい・・・
それに今は寄港中だというのに何を伝えようと言うのだ・・・)
心では呟いても、そのようなことを口走れば士官からも下士官からも信用を失うことは避けられなかった。
大嶋はやけに厳重に閉じてある封筒をあけ、紙を開く。
そこには信じられないことが書いてあった。
「発・防衛庁 宛・しおかぜ艦長・大嶋二等海佐
国籍不明の不審船が領海を侵犯。
旧ソ連製対戦車ミサイルと思われるロケット弾により不意をつき護衛艦「しらね」級DDH-145が撃沈され、
上空警戒中だった哨戒ヘリコプターSH−60J二機が旧ソ連製対空ミサイルと思われるロケット弾により撃墜された。
現在護衛艦DDG-178きりやまが不審船撃沈のために急行中。
直ちに貴艦もきりやまと同じ座標へ向かい、不審船を撃沈すること。
これは訓練ではない。」
(・・・なんだ?これ?)
読み終えた今でも信じられない。
(不審船?自衛艦撃沈?そんな・・・!)
しかし訓練ではないと書いてある。
自分と同じ自衛官が死んだ。
不審船の攻撃で。
それだけがはっきりして、妙な気分だった。
ただ、今やることは、CICに向かい、緊急放送の後きりやまと同じ座標に向かうこと。
そして不審船を沈めること。
そう自分で理解した。
受話器をとり、CICを呼び出す。
「こちらCIC。」
「艦長だ。直ちに幹部をCICに集合させて、クルーは全員食堂に集合。
・・・実戦だ。」
最後の言葉は言うのをためらったが、
やはり、少しぐらい噂がされてからの方が激しいショックは少ないだろう。
「艦長・・・?」
「もう一度繰り返す。これは訓練ではない。実戦だ。
詳しいことはCICで話す。その後緊急放送だ。」
「・・・」
「返事はっ?!」
「了解・・・しました。」
やはりショックを受けるか・・・日本にとって実戦など50年ぶりだ。
自分でも経験したことは無い。
大嶋はCICにむかってゆっくりと歩き始めた。