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第四話 ~ヒメテイタオモイ~

*************************



いつもと変わらない朝が来た。学校へ向かうと、すぐにどっと人が押し寄せてくる。

「おはよー」

「今日ははやいじゃん」

「めずらしー」

なにげない会話をして、くるりと教室を見渡す。たしかに今日はいつもより少し早いようで、まだ半分くらいしか来ていなかった。

奏歌もまだ来ていない。

寂しいような、ちょっぴりホッとするような、変な気分だ。前までは、奏歌に会って話をするのが楽しくて嬉しくてしかたがなかった。たくさん早く会いたい、もっと話したいと、いつも思っていた。大好きなんだ。

それが、最近はムカついてしまう。奏歌への気持ちが薄れた訳ではない。むしろ強まったからこそ思うのだ。あの泣き顔。今までは、別にほかの人のことを考えていても、気に留めていなかった。でも、あんなに苦しんでいる奏歌を見て、じっとしていられる訳がない。ライバル心が燃える。


「おはよう」


奏歌が来た。片手を軽くあげ、みんなに手を振りながら、爽やかに入ってくる。あいさつをするたびに相手の瞳を見て、にっこりと微笑む。なんと優美なことだろう。思わずうっとりしてしまう。なにげない動きなのに、なめらかで美しい。そしてふりまく笑顔のカワイイこと!キュートな顔つきで、やさしく微笑む姿は、まるで天使のようだ。多分俺が奏歌のことが好きじゃなくても、そう感じることであろう。


「おはよう」

ぼーっと見とれていた俺に、他と変わらぬ笑顔が向いた。はっとして、答えようとしたが、言葉につまる。強烈にカワイイ笑顔を見て、頭の中がオーバーヒートしてしまった。


少しおちゃらけた雰囲気がいいのだろうか……それとも、爽やかに返した方がいいのか……


「……おはよう」


やってしもーた……


いくら焦っているとしても、この態度はひどすぎた。怒っているように映ったかもしれない。どうしてこんなに動揺してしまうのだろうか。前までは平気だったのに。あの日から俺の中で、なにかが変わってしまった。あの泣き顔から。

なんでもできる奏歌、可愛くて綺麗な奏歌。そんな奏歌の本当の姿を、あの日に初めて知った。俺は今までなにも見えていなかった。側にいたいと思っていても、見ようとしていなかった。奏歌だって人なんだ。完璧じゃない。

人は、弱い。だから助け合って生きて行くんだ。

奏歌の泣き顔を見て、初めて思った。


俺は奏歌の笑顔を守りたい。奏歌の側で、守りたいんだ。



ふと気がつくと、俺と奏歌以外のクラスメイトは席についていた。いつの間にか予鈴が鳴っていたようだ。立っているのは二人だけ。しかも、今までずっと見つめ合っていた。目をそらさずにいてくれることに、喜びが沸き上がったが、さすがに少し照れる。奏歌も顔を赤らめているように見えた。


――違うな。


奏歌も照れている……そう思って、すぐに違うと感じた。顔は赤らんでいる。けれど、その大きなパッチリ二重の瞳が見つめているのは、俺だけど俺じゃない。視線は俺の目に届いているが、瞳はどこか翳り、遠くを見つめているように見えた。


――また、誰かのことを……


頭に血がのぼる。俺は奏歌から目をそらし、席に着いた。すごく不愉快だ。いつでも奏歌の頭の中には俺じゃない誰かがいる。奏歌を苦しめる誰かが。

この不快感は、ホームルームでも、授業中でも続いていた。


国語の授業中。先生が甘くて、全然怖くないので、周りがすごく騒がしい。俺のイライラが倍増する。いつもなら、ここで奏歌ととびきりの笑顔で話しているところだが、今はそんな気分ではない。それなのにも関わらず、奏歌から話しかけてきた。

「魅輝さぁ……ウチ、なんか気にさわるようなことしたか なぁ……?」

ぎょっとして振り返ると、目に涙を溜めた奏歌がいた。そんな表情も、めちゃめちゃ綺麗だ。普通ならこんな顔を見てしまえば、〝何でもないよ〟と、満面の笑みで答えてしまうのだが、今の俺は不機嫌だ。

逆にイライラする。俺は奏歌のことを気遣っているのに。いつも他のヤツのことばっかり考えて。怒るのも当然だ。なのにあんな顔されたら……許したくなってしまうじゃないか。まったく奏歌はずるい。


高ぶる感情が押さえきれない。

「……ず、……いん……よ」

「何?聞こえな」

『ずるいんだよ!』

奏歌の言葉を遮るようにして、怒鳴り付ける。ポカンと口を開けて、呆然としている奏歌を見て、我に返った。

さっきの泣き出しそうな顔が頭に浮かぶ。


――泣かせてしまったら、奏歌を苦しめる誰かと同じじゃないか。


奏歌を思うあまり、奏歌を苦しめていたら意味がない。そう気がついた。


――この気持ちに、踏ん切りをつけなきゃ……


奏歌には、いつも笑っていてほしい。奏歌の笑顔を守りたい。でもそうするには、思いが強すぎて、逆に苦しめてしまう。だから、ダメだとわかっていても伝えるんだ。そうすることで、変われるはず。好きという気持ちは変わらない。それでも、俺がこんなことをしていても、奏歌は笑顔になれないのだ。


「……ごめん……こんなこと……言いたかった訳じゃ…… 」

素直な気持ちを伝えよう。奏歌の笑顔のために。

「放課後……放課後、体育館裏に来て。待ってるから」


放課後になった。

決意した俺は、確かな足取りで教室を出た。




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の印で囲われてるところは、魅輝サイドのストーリーです♪



今回も読んでくださり、ありがとうございました!!


一週間に一度くらい更新できるよう頑張ります!

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