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第三話 ~ミキノネガイ~


その日から私は、毎日ネヴの夢を見た。


地面は見渡す限りの草原で、空は晴れ渡り、所々に真っ白な雲が浮かんでいる。息を吸い込むと、あたたかい、やさしい空気が入り込んできた。とても美しい地だ。そしてどこからともなく、彼は風と共にやって来て、私に一歩いっぽ歩みよって来る。その美しい顔には、嘲笑に似た笑みがうかべられていた。彼は数多の笑みを使い分けている。風が流れた。優美なしぐさで手がさしのべられ、私がその手を受けとると、風に流されるかのような感覚で、現実世界に引き戻された。


そのとき私は、いつも、目に涙をうかべている。

その涙は、悲しみによるものなのか、喜びによるものなのかは全くわからない。


夢の中で、ネヴの表情や動きはハッキリとわかるのに、顔立ちは霧のようなものがかかっているかのようだった。文章で見たものを画像にしているから、細かい部分はハッキリしなくて当然なのかもしれない。だが、そのことは、実際にネヴを見たことことがなく、想像上であるから起こることなのだ。その上夢だったのだから、目が覚めたときの落胆はハンパじゃない。

しかし、何度もネヴに会う夢を見ていることで、〝これから会う〟というお告げ、正夢ではないとも思える。しかも、たとえ夢の中でさえネヴに会えると嬉しい。


夢を見る度に、想いはどんどん強くなり、ネヴについて考える時間も増えていった。


初日は動揺を隠せず、すごい形相をしていた……と、周りの友人だと思い込んでいる人たちが言っていたが、今ではすっかり隠しとおしている。頭の中ではいつもネヴのことを考え、悩んでいるが、見た目は満面の笑みでガールズトークをしていたり、数学の方程式を解いていたり。

ただ、一つ心配なことがある。

それは――








今日も私は学校に向かう。今朝もネヴの夢を見たが、もういい加減慣れてきてしまった。


学校に着きクラスに入ると、なんだか私の机の近くに人が群がり、騒がしい。正確に言うと、私の隣の机――魅輝の周りだ。いつものことではあるが、あまり賑やかなのは好きではなかった。

「おはよう」

いつもと何一つ変わらない、爽やかな笑顔で挨拶をした。

「おはっ!」

「おはよーさん♪」

口々に挨拶が返ってくる。


「……おはよう」

このビミョーな返事をしたのは、私の心配事、魅輝だ。魅輝は人気者で、クラスの中心的人物。魅輝の周りに人が集まるのもそのせいだ。つい三秒前までは元気にみんなとはしゃいでたはずなのの、私と会った瞬間、妙におとなしくなる。魅輝とは、あの日からずっと、なんだか気まずい雰囲気なんだ。てゆーか、少し怒ってる感じがする。


脈アリだと思ってたんだけどな……


自慢じゃないが、私はよくモテる。魅輝の態度や行動は、私の経験上、〝好き〟のサインだったんが……違ったのだろうか。まぁ別にいいけど。私が好かれたいのはネヴだけだし♪今まで告白されたことはたくさんあったけれど、他に好きな人がいると言って全て断っていた。好きな人とは、もちろんネヴのことである。


キーンコーンカーンコーン……


予鈴が鳴った。皆がガタガタと自席に移動し始め、私と魅輝が取り残される。きまずさを感じつつも、目をそらせない。無言のまま、見つめ合う。恋人どうしみたいだ。

ネヴと――こんな風にできたら幸せだな♪

こんなときでも、ふと考えてしまう。

すると、今まで立ち尽くしていた魅輝がいきなり、ふいっとそっぽを向いてしまった。そして、かなり大きな音をたてながら席についた。よくわからないが、やっぱり怒っているらしく、私への態度だけ、そっけない。

授業中もおとなしく、しかめっ面をしていて、全く話しかけてこない。


いつもはしつこいくらい話しかけてきたり、ニコニコヘラヘラしてるのに――


おかげで、周りからは、私が何かして怒らせた、と思われてしまった。魅輝がいくらおとなしくても全然かまわないのだが、変な噂をたてられては黙っていられない。


あぁ、めんどくさい。

「魅輝さぁ……ウチ、なんか気にさわるようなことしたかなぁ……?」

こういうときは、少し目に涙を溜め、うるうるっとした瞳で上目使い。これで口答えする男はいないね!


魅輝はこっちを見て、少し間をあけて、また背を向けてしまった。なにか呟いている。

「……ず、……いん……よ」

「何?聞こえな」

『ずるいんだよ!!』

あっけにとられた。何のことを言っているのかわからない。狂ってしまったのかとも思ってしまっまほどだ。しばらく沈黙が続き、消え入りそうなほど小さな声が聞こえてきた。

「……ごめん……こんなこと……言いたかった訳じゃ……」

感情の上下が激しすぎてついていけない。

「放課後……放課後、体育館裏に来て。待ってるから」

今度は、真っ直ぐで、固い決意の言葉だった。












最後の授業がおわり、そそくさと教室を出ていく魅輝。周りからの放課後のお誘いをていねいに断りながら、周りに群がる人の中を抜けるのは大変そうだ。その様子を見ながら私は考えていた。


魅輝はかなりの人気者で、休み時間にはいつも人が集まっている。元サッカー部で、運動神経が凄くいい。体育の授業中は、いつもかなりの女子ギャラリーがいた。頭も悪くないし、顔も悪くない。しかも、とてもユニークだ。

よーするに、モテる。とにかくモテる。


そんな彼に呼び出された。今までは断ってきたが、そろそろ彼氏の一人くらい、いてもいい頃かと思う。しかし〝好き〟と口にすることは偽りになってしまうのでできない。何か工夫しないと……


まぁとにかく、アイツ人気者だし、お似合いの二人ってことで、告白OKしちゃおうかな♪




そんな思いを胸に、私は体育館裏へと向かっていた。魅輝の思いも知らずに――



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