第二話 ~ワタシノネガイ~
『待ってぇ!!』
「……なにが、待ってなんだね?夢見?」
「へ!?いや……その……」
状況が全くわからない。辺りを見渡してみる。
幾つもの机と椅子がキレイに並んでいて、その一つ一つに人が座っている。そして奥には緑色の板に、白い文字が書いてある。
そう。教室だ。
「夢見?」
そして私の名前を呼んでいるのは、あの人……ではなく先生だ。どうやら社会の授業中らしい。夢だったのか……
「えっと……あっ!もうOKです」
「何がだ?」
頭のなかで必死に言い訳を考える。
「その……ノートとるのおいつけなくて、待ってもらったんですが、もうできたので大丈夫です。授業を続けてください」
先生は少し考えた後、授業を再開した。
なんとかごまかせたようだ。
少しして、私の視界の片隅に トントン と、机を叩く指が見えた。その指の先にいるのは、隣の席の生意気なくそガキ〈魅輝 ミキ〉だった。
返事するのは面倒だったが、気づかない訳がないので、印象が悪くなると思い、しかたなく魅輝の方を向いた。
魅輝は、私のことを何とも言えない顔でのぞき混んでいた。悲しんでるというか、不安というか……とにかく、いつもの陽気でうるさい感じではなかった。
まぁ、うるさくない分には逆に嬉しいんだけど。
魅輝は、くしゃんと歪んだ顔で口を開いた。
「な、みだ……を、拭け」
「え!?」
何を言っているのか、良くわからない。ナミダ?もしかして……涙のこと?
「涙を拭けと言ってるんだ」
今度はちゃんと聞き取れた。少し照れ臭そうで、心配なんかしてないぞ と付け足されそうな言い方だった。
あわてて目に手を当てる。離したその手には、雫が付いていた。
「私……泣いてる」
つぶやくように言う。泣くことなんて、とうの昔に忘れていた。それほどに涙することは久しぶりだったのだ。
制服のすそを引っ張り、目をゴシゴシとこする。その様子を見た魅輝が、もう一度話しかけてくる。
「びっくりした。その、何てゆーか……悲しんで、悩んで……。奏歌みたいな完璧な人でも、悩みとかってあるんだなって……さ」
「そりゃ、あるよ。人間だもん」
それっぽいことを言いつつ、私は悔やんでいた。
本当の感情は決して無くしてはいけない。でも、表に出してもいけない。少しでも長く生きるためには――そうあの人は言っていた。なのに、見せてしまった。涙を流してしまった。あの人に近づきたくて、あの人に認められたくて、生きてきたのに。
勉強は学年でも一桁に入るほどの秀才で、運動だってできる。顔もよくて、話だってできて、とても気がきく。感情豊かで、人気者。悩みなんてない、完璧な人。みんなは私のことをそう思っているはず。
でも本当は……全部計算の上だった。感情をコントロールして、周りをあざむく。他人なんか信じない、頼れるのは自分だけ。でも、決して自分に嘘はつかない。
全てはあの人に出会えたときのために――
あの人に……会いたい――
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「そりゃ、あるよ。人間だもん」
その言葉のあと、奏歌はすっかり黙り込んでしまった。さっき寝てたときと似た表情だ。奏歌のこんな顔は、正直見たくない。他の男のことを考えて、苦しんでる顔だ。
なんで俺と話してるのに、他の男のこと――
すごくムカついた。その男の方に対してだ。
奏歌が寝ていたときの言葉……思い人がいるとしか思えなかった。その上奏歌の目は真っ赤で、そいつは奏歌のことを苦しめているのだとさとった。
奏歌は苦しめられている。なのになぜソイツのことをを思うのか、わからなかった。そんなに魅力的なのか。俺は苦しめたりなんかしない。ずっとそばにだっていれる。なのになんでソイツなんだ。ソイツは誰なんだ。
一体それは……
「一体誰なんだ」
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「一体誰なんだ」
「……何が?」
魅輝が唐突に口を開いた。私が返事をすると、少し驚いて、顔を赤らめた。相変わらず訳のわからないやつだ。
「奏歌、お前は一体……誰を思っているんだ」
「!!!」
心の内を見透かされたような気分だった。ネヴ……と言うわけにもいかず、言葉に詰まってしまう。すると、耳まで真っ赤になった魅輝が、あわてて言い直した。
「ごめん、忘れて!気にしないで!」
とてもあたふたしていて、少し笑ってしまった。
しかし、危なかった。向こうがさがってくれたから良かったものの、問い詰められたらなんと答えていいものか……。
「誰なんだ」
つぶやいてみる。正直、自分自身わかってはいないかもしれない。私はあの人と、話すどころか出会ったことさえないのだから。しかも向こうは、私のことを知らない。それでも、私はあの人のことが――。
〝ネヴ〟他ならぬあの人の呼び名だ。本名は知らない。
黒い爽やかな短髪に、シャープな顔筋。キリッとした眉に、スッと高い鼻。そして、とてもキレイな瞳。何色と表現したらいいのかわからない……とても澄んでいる。グレーに近く、少し青みのかかったような、美しく深みのある眼だ。その顔立ちはとても美しく、女性とも男性とも見てとれる不思議なもの。
声は心まで響き、風のように流れる。
でも私は、その美しい容姿や声に焦がれているのではない。ネヴの中身、考え、生き様――見えない全てに惚れたのだ。
その美しい声と顔を巧みに変化させ、人々を魅了しあざむく。自分だけを信じ、人と繋がりをもとうとしない。他人を騙し、脅し、利用する。 それでも決して嘘はつかない、筋の通った人。
そして、復習に生きる――
会いたい。とても、とても、焦がれる。会いたくて会いたくてしかたがない。
頭のどこかではわかってるんだ、会えるはずがないと。それでも、いつか会えると信じていたい。現実が怖くて、誰にも言えないこの思い。否定され、そんな人いないと言われるのが怖くて、隠し続けたこの思い。いつまでも膨らみ続けて、会いたいネガイはつのるばかり。
人の為に泣くな。怒るな。溜め息などつくな。生きたければ、他人に隙を見せるな。
全てネヴの言葉だ。閉じ込めていた思いは膨れ上がって、もう制御出来なくなってきている。ネヴの言葉は、ネヴへの思いによって守れなかった。全てはネヴの影響。もう私にとってはなくてはならない存在だった。
押さえきれない想いを、今ここで告白します。
あの人の呼び名はネヴ。
小説の、かっこいい、かっこいい主人公。
いつか逢えると、信じてる――
こんな素人の作品を見てくださり、ありがとうございます。
今回は、軽く状況説明といった感じで書か
せていただきました。いかがでしたでしょうか?
感想、レビュー、評価など、次話の参考にしたいと思いますので、よろしくお願いします☆
次話からは、やっとストーリーらしいものになっていきます!!
会えない人に恋をしてしまった奏歌と、そんな奏歌を一途に思う魅輝。その結末はいかに!!
これからも、どうぞよろしく♪