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ラストエピソード

 フウセンたちが部屋にはいり、はじめに見たものは……鉄、だった。

「あれはなんなんですか……?」

「あれはなんなんだよー?」

「理解……不能……」

 ものすごく大きな鉄が、大きめの部屋の中心付近に存在。それならばまだ許容範囲だろう。動かなければ……

「気持ちワル!? なにあれ、なんで、鉄がニョロニョロと動いているんだよ!?」

 アカネは虫が苦手らしい。鉄でもニョロニョロ動いていれば、虫っぽくて気持ち悪いのであろう。

「理解……不能……」

「二人とも、驚いていないで戦いましょうよ!」

 フウセンが、大剣をもち、走り出す。後ろに宝箱が見えた。

「といっても、虫は無理! 無理!」

 アカネが逆方向へ走り……出した。

 走り去るアカネをむしして、ソラは、鉄に向かい、炎魔法を、

「燃え盛る世界の理よ、我身に宿り、敵を殲滅せよ!」

 撃った。

 鉄は、目が見えないのか、それがあたった瞬間、ソラの方向を向き、頭部にあると思われる鉄をはがした。

「虫!? 虫!? なんで、鉄から虫が!!?? 誰か!助けて!」

 出てきたのは、緑色の物体だった。さらに付け足すと、芋虫の先頭部分にくっついてそうな。丸みを帯びた緑色だった。

「ちょっと、アカネ……取り乱しすぎ。」

 ソラがセリフを言った瞬間、鉄から顔を出した芋虫が咆哮を放つ。

 ギャォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!

 鉄に近づこうとしたフウセンが、弾き飛ばされた。

 咆哮を聞いて、予想よりも強い敵だと察したアカネは、芋虫の方を向く。

「これはちょっとやばいね……」

 アカネが、鞄から身体強化用の魔法を放てる瓶を出す。

「というか、炎の魔法が効いていない?」

 先程の炎魔法を当てられた鉄を見ても、多少焦げただけだった。予想以上に硬い敵だと思い、なんの魔法を使うか迷い始めた。

 吹き飛ばされたフウセンは、起き上がる。

「どんな肺があれば、あんな声が出るんでしょうかね……」

 いくら強い攻撃を放つ敵にも、剣士は立ち向かわなければならない。

 また鉄をかぶった虫……ギンマムシが動き出す。転がっている剣士は無視して、後方支援のソラに向かう。

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 勇者が叫び出す。ニョロニョロと動き出したギンマムシを大剣で止めようとする。

 剣とギンマムシの頭の部分がぶつかる――と思いきや、ギンマムシが鉄を操る。尻尾、いや、尾?の部分にあった鉄、が剣とぶつかる。

 意外に早い、尾の攻撃と、鉄がぶつかり、勇者は……吹き飛ばされた。

「くっ……」

「やばい!」

 後方部隊に合流したアカネが、回復魔法を詠唱し始める。

「天なる恵みよ、我が仲間の癒しとなり、未来へ繋げ!」

 回復し、意識が戻ったフウセンは、狙いすます。

(虫の部分さえ、虫の部分にさえ、剣が当たれば、行ける……)

 フウセンは、頭を狙おうとする。それを察してか、ソラが牽制目的で、頭に魔法を放つ。

 ギンマムシはそれを避け、

 その瞬間。

 フウセンの剣が頭に命中した。よけるため、頭を下げたところに当たった。

 ギンマムシは後ろに仰け反る。そこへ、ソラが火の魔法を放つ。

ぎゃがあああああああああああああああああああああああああ

 ギンマムシが悲鳴を放つ。その悲鳴で、フウセンが軽く倒れる。

(あいつの声は強いですね……立てません……)

 数秒倒れてから、フウセンが立ち上がった。もう一度、剣を頭に当てようとするが、今度は尾に防がれる。

 またソラが炎魔法を使う。だが、今度は鉄に防がれ、フウセンの剣も避ける。アカネは、後ろで回復を待つ意味はないと判断し、前に出る。

 フウセンができるだけ、剣を当てようと頑張るが、鉄に弾かれる。弾かれる。弾かれる。弾かれる。

(すこし、刃こぼれしてきたか……)

 フウセンが後ろにアカネが来たのを感じ取った。

「アカネ! すこし、前で耐えてください!」

「了解!」

 フウセンが下がり、剣を研ぎ始める。アカネが細剣を鉄と鉄の間に入れようと刺し始める。ソラは、炎魔法を撃つ。

 ギンマムシが、尻尾をフウセンに狙う。

「堅き守りの魔術よ!我らを守れ!」

 簡易版の防御魔術を、アカネが撃つ。

「ありがとうございます!」

 フウセンは、剣を研ぎ終わり、前線に出る。

 フウセンの剣で鉄の攻撃を止める。防ぐ。守る。アカネは、細剣で攻撃しながら、時々後方に下がり、回復を撃つ。ソラの炎魔法が、所々の鉄を焦がす。

 戦闘は長期戦になっていた。

 ギンマムシの尾が振り回される。フウセンが、なんとか受け止める。アカネの細剣が鉄と鉄の間に滑り込む。ギンマムシが仰け反る。ソラの炎魔法が頭にあたる。ギンマムシが怯む。

 10分間の戦闘……その末。ギンマムシは倒れた。

 最後には、鉄が5枚程剥がれ、虫の部分が半分以上露出していた。

 ギンマムシが倒れたとき……勇者たちも、

 

 ――倒れた


 扉の向こう。コガネたちは見た。鉄。虫。人。箱。鉄は床に散り、虫は死に、人は倒れ、箱は存在していた。

「どうするか……」

 コガネが小声で呟く。人の顔が見えない。気絶しているのか、ただ倒れているだけなのか、判断できない。

「行ってもいいと思いますけどね。僕的には、倒れてても勝てそうだし」

「いくら相手が疲れているとはいえ、3対2だ。部が悪い」

(即効性の麻痺針を撃つか……だが、手の内は、隠しておきたいし)

 コガネは悩む。悩む。倒れているのが罠の可能性もないわけではない。悩む。

「なら、僕が行きましょう」

「は!?」

 ミドリが走る。宙を。空を。気を。驚くべき速さで。

 動き出した影があった。3人倒れている人間の中で、唯一の男だ。フウセンだ。視認できる速さギリギリなミドリの動き。それに気づくフウセン。フウセンは走る。が、疲れているのか、動きが遅い。

 ミドリが宝箱を開けようとする。コガネが駆けつける。動き出した奴がいるんだ。加勢しないと仕方がないだろう。ミドリは宝箱を開けようとする。開かない。鍵がかかっていたようだ。

 フウセンが叫びながら走る。周りの奴を起こそうという魂胆か。ソラとアカネが何かと気づく。宝箱にいる不審な影。気づく。

 アカネとソラも走り出す。ミドリが鍵開けを始める。だが、フウセンが追いつく。コガネは気づかれないように、4人のあとを追う。

 フウセンの斬撃。斬られそうになるミドリはよける。

「なんの目的でここにいるんですか?」

 フウセンは質問する。怖い顔に、睨みをきかせ。

「なんでだと思いますか?」

 ミドリは微笑む。天使の微笑みではなく、小悪魔。それが一番しっくりくるような笑みだった。

 

ソラは詠唱を始めた。アカネは細剣を取り出した。コガネは麻痺針を、手に構え――

 刺した。

「!!」

 声にならない悲鳴。詠唱に集中していたソラは、倒れた。

「一人……か」

 コガネがつぶやき、アカネと相対する。アカネが細剣を刺そうとするが、コガネがよける。そのままコガネが、懐から忍者刀を出す。

「シャァァァァァ!!!」

 コガネがアカネに刀を切りつける。アカネはよける。よけたところから、細剣を刺そうとするが、コガネが軽くよけ、かすっただけだった。

「チッ」

 アカネが舌打ちをする。気にせずコガネが刀を振るう。アカネが細剣で……

 止めた。

 否。折れた。細剣がまっぷたつに。カランカランと金属が床に転がる音がする。アカネが落ちた剣先を取り、取ろうとしたところをコガネが刀で斬り付ける。

「チッ」

 さらに、アカネが舌打ちをする。よける。アカネが足を使い、蹴る。コガネが難なくよける。

「終わりか?」

 コガネが最後通告の様な雰囲気で聞く。絶対的な勝者のオーラを纏いながら。

「チッ」

 アカネが三回目の舌打ちをする。カバンから瓶を出す。

 瞬間。

 コガネが足を地から離し、刀を振るった。アカネは取った瓶を投げつけた。

「!?」

 コガネが疑問の声をする。よけようとした。

 瞬間。

 瓶が弾け、閃光を発した。コガネがそれをまともに目に浴びる。否。浴びた。コガネが目を閉じる。そして、アカネが新たな瓶を出し、詠唱を始めた。

「天からの恵みの光よ。我らの助けとなり、敵を討ち滅ぼせ。」

 アカネの詠唱が……終わった。天から発した光は、コガネの体目掛け、向かってくる。そしてコガネは……倒れた。

「さて……フウセンの助けに行きましょうか。」

 アカネはそう言い、フウセンとミドリが戦っている戦場に向かう。


 ミドリは微笑み終わった。そして、短剣を抜いた。神速と評される速度で、フウセンに向かう。胸に……当てる。

 否。

 フウセンが大剣を使い防いだ。

「なかなかやりますね」

 飄々とした様子で、ミドリが言う。

「そっちこそ」

 フウセンが言う。敵意を込めて。世界の敵だと。敵意を込めて。

 二人は向かい合い……走り出す。神速の速度と、闘気高き、勇者の走り。ミドリは短剣を持ち、フウセンは大剣を持ち、打ち合う。

 パシッ――

 弾き飛ばされる音がした。弾き飛ばされた剣は……短い。短剣だった。

「チッ」

 ミドリが舌打ちをする。勇者は大剣を振るう。

「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 叫びながら、フウセンは剣を振るう。

「仕方ないですね。そろそろでしょう」

 フウセンが剣を振るっているのを知っていても、気にせずに呟く。フウセンは今から死ぬのに、何を言っても変わらないじゃないか、と当然のことを考える。

 ――――剣が当たる直ぐ前だった。コンマ単位で、剣が当たるところで、ミドリは剣をよけた。当たると考えていたフウセンは全重心を傾けていた剣に振るわれ、体制を崩す。

「え!?」

 フウセンが疑問の声を上げる。それを見ず、ミドリは第二の剣――刀。特徴的な短めの刀。を取り出した。俗に言う忍者刀だ。

「晦君には、気づかれちゃったねー」

 本人と言った人しか気づかない名前を呟く。体制を崩したフウセンが起き上がろうとする。剣を持ち。この瞬間に刺せば勝てただろう、ミドリはそんなことも気にせずに、向かい合う。

「早いですね。起き上がるのが」

「なんで、よけられたのかが不思議で自信を失いそうです」

 軽口を女忍者と勇者が交わす。

「もう少し、剣を振るう速度は早めたほうがいいですよ…… このようにね!」

 言った瞬間、ミドリは走り出す。目にも止まらない速度で。だが、それに気づいたフウセンは防ぐように動き出す。フウセンは大剣を持ち、吹き飛ばせるように構える。その細い腕からどう振るわれたのか疑問な程の速度で、ミドリは忍者刀をフウセンに振るう。

 衝突すると思われた忍者刀と大剣が――

 当たらなかった。

 疑問に思ったのはフウセン。当てなかったのはミドリ。フウセンが謎の行動に一瞬ひるむ。その隙を突き、ミドリは忍者刀を振るった……

 バギンッ!!!!

 ガラスが割れた。

「フウセン! 大丈夫!?」

 アカネがフウセンの心配をする。

 一瞬何が起こったかわからなかったフウセンだが、瞬時に理解をして、

「はい。大丈夫です!」

 と言い。刺された――

「は!?」

 疑問の声をあげたアカネに、声もあげれず、倒れるフウセン。その前に立つのは……コガネだった。

「ちゃんと殺したかは確かめないとダメだぜ」

 キザな雰囲気を纏わせ、コガネは言う。

「なんで!? 私の魔法が、破られたの!?」

 光魔法に関しては、絶対の自信を持っていた、アカネが悲鳴を上げる。

「破ってないぜ。耐えただけ」

 なんでもないようにコガネが言う。

「あとさ、戦場では後ろに注意しろよ?」

 そうコガネは続け、

「え?」

 と疑問の声をあげたアカネが……刺された。

「注意不足だよね。戦場的に考えて」

 ミドリが言う。地面に音を立てながら、アカネは倒れた。

「というか、こいつら強いのに戦い方がお粗末だよな」

「そんなこと言ってたら、足元救われますよ?そろそろ麻痺毒も治ってきたでしょう」

 そう言いながら、ミドリがソラの方を向く。確かにソラは少し動き始めてた。

「おっと。忘れてた」

 そう言いながら、コガネがミドリと同等かそれ以上の速度で走る。

 ――

 一筋の刀。コガネの刀がソラを刺した。

「まぁ、とりあえず……殺すのもなんだし、麻痺毒でも与えて、鍵盗って、さっさと逃げますか。呷さん?」

「もう変装がバレたんですか……早いですね」

「お前だって、俺のことを本名で呼んでただろうが。変装して俺に近づいて、何をしたいんだよ。俺は里に帰る気はないぞ?」

 コガネがミドリを睨む。呷は晦をにらみ返す。改めた名前と騙すための名前。その二つがにらみ合う。

「まぁ、こんなところで、睨み合ってていても、仕方がないですよね」

 ミドリが睨むのをやめる。仕方なくといった感じで、コガネがそれに続いた。

「で、お前らの目的はなんなんだ?俺なんかを追ってもしょうがないだろう?」

「いえいえ、晦君は、忍者の里でもピカイチの強さだったんですよ?自分で理解してます?まぁ、変装術は僕に敵わないんですけどね」

 ミドリが尊敬半分侮蔑半分というような調子で言った。

「まてまて、俺はお前ら全員に対して、敵わないような術が一つ以上あるんだよ。どこがピカイチの強さだよ」

 昔の自分を思い出しながら、コガネが言う。

「いえいえ、晦君はピカイチの強さでしたよ。汎用性という面で」

 当然のことのようにミドリが言う。

「どーせ、俺は器用貧乏だよ」

 自嘲するように、コガネが言った。

「とりあえず、さっさと鍵とって帰りましょうよ。面倒ですし、こんなところにいるよりさっさと里に帰りたいですね」

「俺はこっちにいるぞ……」

「いえ、連れ帰るまでが任務です」

「破棄する。速攻で破棄する」

「早く回収してくださいよ。破棄させませんから」

 仕方ないような調子で、コガネが三人に麻痺毒を射つ。そして、宝箱を開ける。

「おぉ。かっけぇな」

 そういった先には、金色に輝く鍵があった。

「ただの成金趣味じゃないですか?」

「鍵の持ち主に殺されるぞ?」

 そう言って二人は、部屋を出ようとした――――


 ニセクロとシースは走っていた。またかよ、と思うかもしれないが、走っていた。

「おい! ギンマムシが倒れたのはわかったが、その後の勇者共はどうなっている!?」

 ニセクロが叫ぶ。

「知らないわよ! 部下からの報告では、『鍵の間』に勇者以外の不確定因子が侵入したらしいわ! 絶賛戦闘中よ!」

「まじかよ! 不幸だな! 俺ら」

 叫びながらも。走る、走る。


 着いたときにあったのは、寝転がる勇者、寝転がるその仲間、そこに立つ――友人。

「コガネ!?」

 反射的にニセクロは叫んだ。隣のシースは、呆れ半分驚き半分といった表情で、ニセクロを見た。

「ニセクロか?」

 コガネが振り向く。横に居たミドリも一緒に振り向いた。

「なんでお前がこんなところにいるんだよ?」

 ニセクロが言う。言った後に、少し思案して……

「いや、依頼の場所がここだった」

 思案した答えとコガネが言った言葉は同様の意味だった。そして、シースが横をむき、

「この人たち、誰?」

 と聞いた。

「ああ、俺の人間の時の友達。コガネだ。隣にいる奴は「人間の時の友達?」え?」

 ニセクロの説明を途中でコガネが切った。人間の時の友達ということは、人間ではない場合があるのでは、とコガネは思ったらしい。

「いや、うん。まぁ」

 歯切れが悪い様子で、ニセクロは呟いた。コガネは何か事情があるんだな、と察した様子で達観することを決めたようだったが、横に居るミドリが、

「歯切れが悪い返事をしてないで、しっかり答えてくださいよ」

 と、言った。

「まぁ、ぶっちゃけるとさ、俺、魔王なんだわ」

 ニセクロが本当のことを言う。コガネは納得し、シースは顔面蒼白になって、横を見る。

「あんた、何言ってんの?」

 常識的に考えれば、人間の世界で、魔王なんてことを言えば、頭が痛い人扱いされるだけだろう。だといえ、本当のことを言うのは魔物内で、結構問題らしい。

「いや、コガネは、昔からの付き合いだしさ、確か三年くらいだよ」

 ニセクロが釈明をする。それでもシースは納得しない様子で、

「じゃぁ、その、コガネ?君はいいとして、横にいる、そういえば名前を聞いていないわね。まぁ、全体的に青っぽいから、蒼ちゃんでいいわ。その、蒼ちゃんは、どうするの?」

 コガネとミドリは、惜しいなーすごい惜しいなーと思い、ニセクロは、緑色と青色って、微妙な関係だよなーと的はずれなことを考え、答えるのを忘れた。

 十数秒後、待っているのに飽きたシースが、

「ちょっとぉ? 聞いているの!?」

 と急かした。それで、思い出したのか、ニセクロは、

「おう、多分大丈夫だろ」

 と楽観的なことを言った。

「適当すぎない?」

「大丈夫、なんか、普通の人間の気がしないから。雰囲気的にさ、ミドリちゃんは」

 一瞬でミドリは殺気を持つ。

「まぁまぁ、殺気なんて収めて、話し合いをしようぜ」

 先程までと変わった雰囲気で、ニセクロが言う。

「なぜお前がここにいるのかは聞かないでおく。お前が魔王だというのもスルーしておく。そして、お前はここで戦闘をする気は無い。ということか?」

 コガネが言う。

「まぁ、そういうことだね。と言っても、その鍵は返してもらうけど」

 ニセクロが平常心を戻しながら言う。その言葉に、忍者側二人はひどく驚いたようで、

「「は?」」

 と、疑問の声を上げた。横にいるシースが、鍵の回収はしないとまずいと言うことを思い出す。

「なんで、この鍵を返さないといけないんだ?」

 冷静になったコガネが言う。

「それ、俺らのなんだよね。具体的に言うとさ、魔王城の鍵なんだわ」

 ニセクロが説明する。それを聞いたコガネが驚き、

「俺はそんなものを取る依頼に付き合っていたのか!?」

 と驚愕を露わにした。

「まぁ、そうなりますね」

 反省の色は全く見せずに、ミドリは言った。

「で、返すの?」

 コガネはミドリに聞く。本心では返したいのだろうが、依頼人の横だ。うかつな行動は出来まい。

「返しませんよ。もちろん」

 当然のようにミドリが言う。

「それは、オレら二人に喧嘩を売るってことでいいんだな?」

 にらみながら、ミドリにニセクロは言った。ミドリは睨まれたことに若干苛立ちながら、

「まぁあなたたちが僕たちに勝てるとは思いませんけどね」

 と、挑発するように言った。横に居たコガネが、

「本当に戦うのかよ……今代の魔王と言えば、最強と名高いぞ……」

 そう言った。だがミドリはそれを制して、

「魔王が先頭をしたことはほとんどなく、だいたいの魔王討伐兵士は、部下に殺されて帰ってきてますね。魔王自体が大したことがないという可能性が高いです」

 と、言った。完全に馬鹿にされたのが分かったのか、

「おい、それは本気で行っているんだな?」

 と、怒りながら言った。一触即発。そのような雰囲気のミドリとニセクロを、それぞれの隣にいるコガネとシースが防いでた。

「ちょっとぉ、わざわざ戦うことはないでしょう。別に魔王城の鍵を別のものにするくらい造作もないことでしょうし」

 と、シースが言った。それを聞いたコガネは、なぜ最初から偽物の鍵をここに置かなかったのかと考えた。言葉から嘘がわかる、真贋鑑定士は、国家に一人程度しかいないはずだ。

「この国にも一人いますよ。真贋鑑定士。だいたいの噂はそいつが調べるので、魔王軍はデマを流すのは厳しかったのでしょう」

 コガネが思ったことを見透かしたようにミドリは言う。

「そうか……」

 それに対して、コガネが返す。そんな二人を見て、ニセクロは

「まぁ、そんなとこだよ」

 と言い。

「じゃぁいいよ。鍵は変える。勝手に持ち帰っとけ。その鍵は」

 そう言った。そこにどんな心境の変化があったのかはわからない。

「そうか……」

 と、コガネが言うと、

「じゃぁな」

 最後の別れのように、コガネは言った。


 フウセンが起き上がると、そこに見えたのはソラとアカネが寝ているところ、開けられた宝箱、倒れたギンマムシ。その瞬間、フウセンは理解した。俺たち勇者パーティーは、敗北者になったということを。

 そこからのフウセンの行動は迅速だった。剣を返すことはしなければならない。それは、直接王に合わず、宰相に返した。ネチネチと小言を言われたが、

「もう、僕たちは負けたんですよ」

 そう言って、逃げた。

「なんでこんなことをするの? 魔王を倒しにいかないの?」

 そう、アカネは聞いた。フウセンは答えられない。世間から認められないから正義を捨てた。そんな自分の姿は見せたくない。だが、敗北者は惨めな末路しかたどれない。セーブなのないのだから。

 それからフウセンは、逃げるように王都を後にした。ソラは、何かを理解したのか、何も言わずに付いてきた。アカネは……理解できない行動をするフウセンに愛想をつかした……と、フウセン自身は語っている。

 逃げた。逃げた。王都の記者は、勇者に対して取材を試みようとした。だが、それはフウセンたちの長旅によって培われた経験によって、躱された。フウセンが、

「しつこかったですね」

 と、にこやかに笑うと、

「そうだね……」

 と、ソラは悲しげに答えた。

 フウセンは、小さい農村についた。勇者だったということは隠し、村長のところに行く。

「お願いします。僕たち二人を、この村に住まわしてください」

 そう、フウセンは言った。王都にいたら向けられる憎悪の目、落胆の目、侮蔑の目。僕はそれに耐えられうると思う。だが、ソラは?

 そうフウセンが思ったことで、フウセンたちが王都を出ていくのは決定づけられていた。あくまで、フウセンのなかで、だが、誰も反対するものはいない。彼らは敗北者。日陰者なのだから。

「まぁ、仕方ないな」

 若者の目から、何を受け取ったのかはわからない。だが、村長はフウセンたちを受け入れた。

「有難うございます!」

 本心なのか、建前なのかはわからない。だが、フウセンは感謝した。

「そうか」

 と、一言村長はつぶやくと。

「金はあるのか?」

 と、聞いてきた。フウセンは、

「はい、今まで達成した依頼で、一年程度は暮らせると思います」

 少ない報酬で受ける依頼。ただの便利屋という名で勇者は依頼を受けた。その金も積もれば糧となるらしい。

「そうか」

 また老人はつぶやき。

「家と土地は貸してやるよ」

 こうして勇者は、農民になった。糧を作り、世界を支える。そんな職業。救えなかったんだ。支えたっていいじゃないか。






「私が言うのもなんだけど、本当に鍵を渡しちゃってよかったの?」

 そう、シースは言う。

「鍵が古かったのは事実さ。壊されても文句は言えないほどもろくなっていたからな。こういうきっかけでも無いとさ、鍵なんて変えないだろ?」

 そう言いながら、魔王城の鍵を壊す。バキッと、金属が壊れる音が響く。それを見て、ニセクロは、父親を思い出した。この鍵は父親に貰った鍵だ。それを、壊した。長い間使っていた鍵で、なかなか壊しにくかったのも事実だ。親の世代から使っていたのだ。古びて当然だ。親から託して貰った鍵は、コガネたちに渡した。また、会えるかな、と考え、戦わなくて、よかったな。と感じた。

「黙りこくってどうしたの?」

 横に居たシースが聞いてくる。

「あぁ、ちょっと昔を思い出してな」

 もう、ニセクロは魔王なのだ。昔、親が魔王で、シースたちと遊んでいた日々は戻らない。遊び場のダンジョンは血肉で汚れ、親とのつながりである鍵は失った。

「あたらしい、伝統でも作ろうかな」

 そう、ニセクロは呟いた。

「伝統?」

 シースが聞き返してくる。それを聞き、ニセクロは怪訝な感情を持つのは当然だな、と自嘲する。いきなり伝統などと言われても、訳が分からないだろう。

「あぁ、親の遺産……まぁ、魔王城とかはあるがな。なんとなくだ。つながりとかあった気がするさ、鍵とかがなくなったし、思い出の場所である、この場所も汚れた。ここは結構好きだったんだよな」

 自分で言ってて訳が分からなくなってきた気がする。だが、続ける。

「それでさ、俺も次ぐ奴らに、何か残したいと思ったんだよ」

 伝統とはつながるものだというのを、ニセクロは改めて認識した。

「やっぱさ、何も残さないのは……違う気がするんだよ」

 言い訳じみた口調をシースは聞き、

「そうね」

 と、一言答えた。そして、

「それには、まず子供を残さなくちゃね」

 と、言った。ニセクロは一瞬訳が分からなくなったが、

「ああ、俺から言わせてくれ」

 と、一言シースを制すと、

「昔から好きだった。結婚してくれ。一緒にさ、魔王軍をもっと発展させようぜ」

 ニセクロがそう言うと、シースは一言、

「ありがとう……」

 そう言うと、頬には一つ水滴が落ちていた。

 二人は、魔王城に帰った。



「どうするかー」

 海辺にコガネは居た。海の向こうを見る。島は……見えた。

「帰りましょうよ、晦君」

 コガネの昔の名前を、ミドリは言う。

「そうだなぁ。またその名前を名乗ることになるのか……」

 コガネは、軽く悲観する。

「大丈夫ですよ。きっと晦君の父さんももう怒っていませんよ」

「何年も無断で家を空けた息子にか?」

 そう聞き返す。

「たしかにそうですね」

 と、軽く笑みを帯びた風に言う。

「それでも、僕は、晦君を歓迎しますよ。ほかの誰でも拒んでも、晦君だけは」

 コガネは悩む。目は宙を向き、どうするかと悩む。

「俺は、ここに残りたいんだけどな」

 と、一言。

「そうですか……」

 と、ミドリは言う。少し悲しげな顔になって、

「なんで僕が変装してまで、晦君に近づいたか、わかります?」

 と、続けた。

「え?」

 と、コガネは一瞬疑問を露わにした。冷静に考えると、それはおかしいことに気づいた。俺に近づきたいだけなら、昔の顔でも、全く問題はないからだ。

「それと、まだ『仮面』を付けている理由はわかりますか?」

 正体を知っている俺に対して、なぜ仮面を解かない?そういえば、故郷の呷は、仮面を付けると、戦闘能力が……

「気づいたようですね」

 一瞬で、コガネは戦闘態勢に入る。だが、既に動き出していたミドリの動きは止められない。驚愕に包まれた目。それが向けられていたのは、コガネの腹部。よけようと、一瞬の判断で、体を右にねじる。が、よけられなかった。

「また後で会いましょう」

 そう言うと、コガネの意識は闇に包まれた。麻痺針を刺されたのだ。悲鳴を出す間も無く、コガネは地面に倒れた。

「さて、どうやって日本に戻りましょうかね。まぁ、晦君を連れて変えれば、忍者の里の権力争いで、上位に立てるでしょう」

 そう一言、ミドリはつぶやき、あらかじめ準備してあった船を、探した。


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