忍者side2 勇者side2
忍者side2
コガネとおっさんは、酒場での話が盛り上がっていた。閉店時間に近くなっても、その話は終わっていなくなった。
店主は言った。
「そろそろ店じまいだ。早く出てけよ、ガキとおっさん」
「お客さんにそんな態度をとっていいのかい? マスターさんよ」
おっさんは反抗した。というか、まだ話が終わっていないので。ここで切るのは消化不良らしい。
「まぁ、マスターもこういっていることだし、俺はそろそろ、家に帰るよ。じゃあな、マスター、ニセクロ」
今日初めて、コガネはおっさんの名前を言った気がした。
「なら、俺も帰るわ。コガネが居ない中で、マスターと話を咲かしても仕方がないからな」
そうして、おっさん改めニセクロが席を立とうとした時だ。鐘が――鳴った。酒場の入口上部に取り付けられている鐘が鳴ったのだ。金を告げる鐘。依頼を告げる鐘なのか、閉店間際に来る不思議な冒険者なのか――
「いらっしゃいと言いたいところだが、もう店じまいだ。早く帰りな」
マスターが、来客者に向けて言い放った時だった。三人は絶句した。入ってきたのは、形容しがたい程の美少女だったのだ。全体的に緑を基調としたゴスロリ風の服。だが、そこにあるのは、確かな意思。荒くれ者の巣窟にくるような顔をしていた。少し間をおき、彼女は言った。
「依頼を、受けていただけませんか?」
とても、綺麗な、透き通るような声だった。
「わかった。とりあえずここに、住んでいる町名、名前、依頼内容を書いて、すぐ帰れ。俺はさっさと店じまいして寝たいんだよ」
マスターは美少女がきたと言うのに、気にせずに言い放った。彼の中では、美少女に丁寧な物腰で話すのより、深夜をすぎて、丑三つ時も超えた時に寝ることの方が大きいらしい。当然のことな気がしてきた。が、マスターは、酒場のマスターだ。昼夜逆転の生活をしていて当然ではないのだろうか?
「いえ、大衆型依頼ではなく、個人型依頼を、そこの彼に頼みたいんですよ」
マスターの睡眠に関することなど、我関せずとばかりに、彼女は言い放った。
「え? 俺?」
コガネが、素っ頓狂な声で、疑問を口にした。
「チッ、俺じゃないのか」
ニセクロは、舌打ちをした。仕事がないから、仕方がないことだ。冒険者としても、仕事がないのはいただけない。
「大衆型依頼ではないのなら、ここを使わないでいただけませんかね。早く寝たいんで。というか、もう店を占める時間なんだよ、さっさとでてけ、おまえら」
完全に気だるそうにしているマスター。それを察し、マスターに悪い気持ちはさせられないな、と思った美少女は、
「すいません。では、コガネさんを連れ出しますね」
と、急かした。
「えっ? というか、なんで俺の名前知っているの?」
当然な疑問を口にするが、それをほかの二人が気にすることはない。なぜなら、この世界にも情報屋という便利なものがあるからだ。
「俺に仕事ないんなら、さっさと帰るわ。じゃあな、マスター、コガネ、そこの、俺に仕事をくれないよくわからない奴」
そう言って、ニセクロは席を立った。それに続き、コガネも席を立ち、美少女が居るドアの方へ向かった。
眠そうなマスターを置いて、コガネ、ニセクロ、謎の美少女は店を出た。
勇者side2
勇者であるフウセンは、獣を斬っていた。
「ここは獣が多いですね。少し疲労がたまりそうです」
フウセンは、数えるのも面倒になったほどの獣を斬り倒ながら、言った。
「疲労回復使う?まだ、疲労回復の瓶はたくさんあるし」
アカネは、魔法起動用の瓶を持っていた。魔法を使える瓶。便利なものだ。と思うが、意外と精製は楽ではない。そんなものは使うものにとっては些細なことでしかないのだが。
「まだ大丈夫です。なんで、瓶に魔法が貯められるんですかね?」
フウセンは疑問になったことをつぶやいた。所詮興味。これほど意味の無いことはない。そんなことをつぶやいている時にも、周りの獣はフウセンが斬り裂いている。王様から貰った大剣。斬れ味は悪くないようだ。
「そんなこと考えてもしょうがないよー。魔法の起源を勉強したところで魔法が上手くなるわけじゃないんだからね」
アカネはつぶやきに反応する。反応している間にも家宝の短剣を使い、獣を、フウセンほどの速度ではないが、斬り倒している。
「それもそうですね、っと」
勉強するのは悪いことではないし、新しい発見があるかもと思いながらも、勇者は同意する。
悩んだところで、少し隙ができ、それにつけこもうと獣がフウセンに噛み付いた。
「この獣もうざったいですね。町の被害も考えたら、倒さないわけにもいかないですけど」
フウセンが不満を漏らす。だが、勇者にあったほうがいいはずの正義感はしっかりと持っているらしい。
「向こうから敵襲…獣型……ここにいる獣と同一種……」
話に混じらずに。淡々とサポートをしながら、獣を市販の弓で撃っていたソラが報告をする。
「まじですか……ここにいるのだけでも辛いですし、どうしますか……」
フウセンが、少し悩むような素振りを見せる。斬れ味がいい大剣を持っているとはいえ、獣に数で押されたら厳しいようだ。それを見たアカネが、剣で斬るのは、限界だと悟ったように、
「まぁ、倒しちゃえばいいんじゃない? フウセンだって、魔法使えないわけじゃないでしょ?」
と、言った。
「それもそうですね。光の瓶は貯蓄が楽ですし、使っちゃいますか」
楽天家なアカネの提案を、フウセンは、承諾した。
「まぁ、瓶に魔法の呪文を言うのはだるいですね、『天なる恵みを持つ光よ、我ら人の子の助けとなり、邪なる者を討ち滅ぼせ!』」
フウセンが詠唱をすると、獣が全て、焼け焦げていた。
「お、全滅ですか、運がいいですね。さて、獣も倒したことですし、次の町に向かいますか、その町の近くに、魔王城の鍵が隠された洞窟があるらしいですしね」
「全面的に同意―というか、さっさと魔王倒して、討伐後勇者パーティーライフを送りたいねー」
「右に同じ……前半部分は……次の町で、弓矢は補給したい。魔法の瓶は、時間がかかるから、とりあえず、補給はなしで行きたい……」
「じゃぁ、ソラの意見を採用しましょうか。次の町で、最低限の弓矢と薬草、武器の手入れを軽目にやっておきましょう」
そうして、フウセンたちは歩き出す。コガネとニセクロがいる方向へ。