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忍者side1 勇者side1

 忍者side1


 その場所では、酒、人、食べ物等の臭いが、充満し、独特の臭いを放っていた。そして、人々の怒声が飛び交い、喧騒と呼ばれるような雰囲気を醸し出していた。その酒場のカウンターに、青年は座っていた。

「勇者ね、俺らにそこまで関係あるのか?」

「知るか、適当に情報をくれって言ったのはお前だろうが、この引きこもり冒険者が」

 元忍者、現時点では冒険者のコガネは、おっさんと話していた。おっさんって表現しても、実際は筋肉隆々で、無骨な鎧を付けている。所謂冒険者だ。この酒場での実績も、コガネより高い。それでも、コガネとおっさんは、中堅クラスレベルの存在で、広い範囲に名が知れ渡っている、上級のクラスではなかった。

「引きこもりとはひどいじゃないか、ひと月程金に余裕ができていたから、食料を買い込んで、部屋で寝たきり生活を楽しんでいただけだよ」

 引きこもりと称されたことに、多少憤りを感じたのか、コガネがおっさんに反論する。

「それを世間様では引きこもりと呼ぶんだよ」

 当然だと言った様子で、おっさんは言い返す。コツコツ仕事をしていた自分と、時々の大きな依頼しかやらないコガネが、同じ中堅ランクというのが、気に食わないのだろうか。

「いいじゃん、金はあるんだし、まぁ、買い込んだ食料だと、干肉がメインの食べ物になるのが辛いかな」

 大きな依頼を成功させ、その金で引きこもる。そんな生活サイクルを平然と語る。

「なら外に出やがれ、引きこもり」

「外に出るのが嫌だから干肉で我慢しているんじゃないか」

「まぁ、お前に聞かれたとおり、最近の近況は伝えた。勇者がこの街に、魔王のヒントを得に来ること、そのおかげで、この街に勇者見物の観光客が多く来て、その護衛の冒険者も集まって、冒険者の飽和状態ってことだ」

 依頼に対した冒険者が多過ぎると、依頼を受けられない冒険者が増える。コガネとおっさんは、見事に依頼を受けられない冒険者なようだ。ぱっと見二人ともパーティーを組んでいる人がいない。依頼を受けるには、パーティーを組んでいることは大きなアドバンテージになるのだ。

「それを俺の状況に表すと、金ない! 職ない! 未来もない! ってとこかな?」

 コガネは自嘲した。実際、ひと月の生活で、貯蓄はそこを付き、仕事である冒険をしようにも、依頼がない。

「だから、貯蓄くらいはしとけと、あれほど言ったんだがな」

「仕方ない、別の街にでも行くかな。ひと箇所で飽和状態ってことは、別の街では、足りないんだろう?」

「まぁ、それも一理あるが、勇者様は行く村、行く町、行く街で人助けという名の依頼をを達成しているらしいぜ。相場より安い価格で。そのせいで、俺らしがない冒険者に下る依頼までもが、安くなりやがった。『勇者様ファックユー!』って叫びたいな」

「まじかよ……俺が豪邸で暮らすのはいつになるのかね……

 おっさんと青年の会話が勇者についてヒートアップしている頃、そこにいる酒場のマスターは、つぶやいた。

「まだ依頼がないとは言っていないんだがな……」


 勇者side1


 その頃、勇者は、旅していた。周りの視線が降り注がれるところ、街にいたのだが、勇者、いや、勇者たちには、もうその視線に慣れていた。勇者のフウセンは言った。

「行く街、行く町で、人々の視線がすごいですね。僕たちに向けられた期待も分かるものです。早く魔王を倒さないと……」

 焦るような声色だった。やはり世界を救うために立ち上がった男。一味違う気がする。確かに、民間上がりだが、民衆にそんなものはあまり関係がない。この苦境から救ってくれる可能性があるものだというだけで、尊敬の眼差しにはなるのだ。

「まぁまぁ、そんなに気にすることはないじゃん! まだ旅は始まったばかりだし、魔王の情報も得ていない。急いだって、ろくなことがないよ! 昔の人は言ったじゃないか、急がば回れってね」

 勇者の仲間である、アカネは言った。勇者とは正反対の、軽快な口調で、楽観的な考え方だった。

「まだまだ、先が長いというのは同意します…情報を得ないといけないのも同意です。ですが、フウセンが言った、早く倒さなければというのも、否定する理由はありません」

 これまた、勇者の仲間である、ソラが言った。形容してみるとすれば、生真面目という様な言葉が一番似合う、雰囲気と口調だろうか、軽薄なイメージは何もない。

「とりあえず、次の目的地に向かって、旅を続けながら、人々を救いましょう。魔王を倒すのだけが、勇者の使命では、ないですからね。」

 彼らは先を目指す。魔物を倒しながら、魔王を倒すために。


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