プロローグ
プロローグ 忍者
コガネは、忍者になるための英才教育を施されていた。
コガネは忍者の里の長の息子として生まれた。
幼少期からの、過酷な訓練は、親の過度の期待からくるものではなく、忍者として生きていくために必要なことだと、コガネは親から教わっていた。
「父さん……なんで、俺はこんなことをやるんですか?」
と、親に聞いたときも、
「忍者になるからに決まっているであろう」
と、さも当然のように返されていた。
コガネが、少年、青年、となるうちに、その訓練はさらに過酷なものになっていった。忍者の里での友人と己を高めあうという、崇高な目的もあったらしい。その過程で、コガネは友を得、技術を得、体力を得た。
だが、青年になる頃には、頭のなかに疑問の声がいつも響いていた。
――このまま忍者になっていいのか?
――ほかの道があるんじゃないのか?
――ほかのところを見てからでも遅くはないんじゃないか?
コガネは迷った。親に相談しても、里から出してはくれなかった。相談の翌日は訓練が一層厳しくなった気がした。
相談から、数週間がたった頃、コガネは里から逃げ出した。友と親を里に置き、技術と体力を使って逃げ出した。里の忍者の力を使えば、捕まえることは容易かっただろう。だが、コガネは捕まらなかった。
友人とあえなくなることには、寂しさを感じた。だが、過酷な訓練への嫌気と、外の世界への羨望は、それを遥かに超えていた。外の世界に、出た時の、胸の高鳴りは、今でも覚えているらしい。
だが、外に出てからの道は、さらに厳しかったらしい。まず第一に、視線を感じる。里の忍者の監視があったのだ。それに、職がない、食がない。働こうにも、外の世界は不況だった。そして、忍者の技能と体力しかなかったコガネは、力仕事につくしかなかった。だが、その力仕事でさえも、働き手で溢れている。コガネが入る隙間はどこにもなかった。
コガネは考えた。そして決めた。視線から逃げ、職がある場所……
――噂で聞く、海外に行けばいいじゃないか。
こうして海外で、コガネは冒険者となった。忍者の技能を存分に扱えるということで、天職と言っても、差し支えはないだろう。
プロローグ 勇者
「お前に、この剣を託す……」
城の謁見の間に、威厳のある王の声が響く。
「はっ、有り難き幸せ」
勇者であるフウセンの声が響く。まだ、幼さが残る声は、国の政治部の人に聞かれることとなった。
「ついては、お前に魔王討伐任務を命じる。期限は設けない。魔王めを討伐して、この国を救ってくれ」
国王の依頼に対して、
「当然受けさせていただきます。魔王を倒し、国民の顔に笑顔を倒すのが、私の使命です。幼馴染二人と一緒に、討伐の旅に出さてていただきます。」
勇者の声が謁見の間に響いたとき、盛大な拍手が巻き起こった。
「ということで、旅に出ましょう」
唐突なフウセンの発言に、ソラと、アカネは驚きを隠せなかった。
「はい……?」
「はー?」
二人は疑問の声を上げる。
「国王主催でやった、『魔王討伐コンテスト~これで、君が勇者だ!~』に応募したんですよね。そうしたら、見事当選しまして」
「まぁ、私は問題ない……フウセンとは、昔から遊んでいる仲だし、討伐の旅も別に止める人はいない……親はもういないし」
ソラが言う。ソラは孤児だ。現在はフウセンと二人暮らし。フウセンと旅に出ても、何ら問題はない。
「まじですかー」
アカネは親と暮らしている。簡単に旅には出れない。
「まぁ、私もフウセンと旅にでたいしねー頑張って、親と交渉してみるよ。いい結果を待ってて欲しいね!」
アカネらしい元気な声で、答えた。
「まぁ、この三人で旅にでたなら、楽しく道中過ごせるでしょう。ソラやアカネとの旅なんて、ワクワク感しかありませんしね」
「楽しみ……」
「おっしゃー頑張って、交渉するよー」
こうして三日後、勇者たちは、旅立ったのだった。
プロローグ、魔王
異形、異形、異形。異形のモノたちでひしめかれている、部屋。魔王城の、作戦会議室。そこで、弁舌振るっている、ひとりの人間。正確に言うと、人間なのは見た目だけで、彼こそが魔王なのだ。
「今代の勇者が旅立った。先代、先々代の勇者は退けることが容易だったが、今代の勇者がそうだとは限らない。何より、王宮が血筋より、剣の腕や、魔法の知識などの選考基準で、民間から選ぶこと自体、稀というか、前代未聞と言っていいだろう」
その、魔王がハッキリと、言う。作戦会議室からは、ぶっ殺せー等と、不穏な言葉が響きわたる。
「そして、魔王様、今回の作戦は、如何お考えで?」
魔王の近くに居た、側近らしき女……見た目だけは人間だが、実際には魔族だ。が、魔王に提言する。その声に、どうするんですかー魔王様―? とか、俺ら一族使ってくださいよー貢献したいですー とか、武功をあげたいのか、さらに魔族の声が大きくなる。
だが、当の魔王は、何も気にしていない様子を出し、
「今回は、シースの隊のモンスターをメインで使っていく。今回の勇者は、血筋ではないこともあってか、殆ど、いや、全くノーマークだ。情報収集に長けているシースの魔物を使うのが、手っ取り早いだろう」
「有難うございます。魔王様」
魔王の隣に居て、先刻魔王に提言した女が、言う。名前はシースというらしい。
「だが、シースの軍だけじゃ手薄なのも、事実だ。なので○○隊や、××隊も、シース隊の補佐として使う。また、予備兵力として、△△隊も、城内に待機だ!」
「「「「「は!!!!」」」」」
いくつ重なったかわからないほどの、大きな声で、魔族が返事をする。
「よし! いい返事だ! 今日は解散!」
それに応えるように、魔王も大きな声で返す。満足したのか、魔族たちは扉を乱暴に開けて、部屋から出ていく。それを見ながら、
「頼もしいわね」
と、素に戻ったシースが言う。その目を形容するならば、自分の子供を慈しむ様な目で見る、母親のようだった。
「先代魔王が、死んでから、苦節何十年以上。ついに魔王軍も戦力が整ってきたな」
魔王が言う。
「さて、俺は人間観察にでも行ってくるよ。現場の動向とかも知りたいからな」
そう魔王はシースに言うと、魔王城から、転移魔法で転移していった……