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双子の妹たちに、すべて譲ることにしました【7.15】後日談2 を追記

作者: ほし
掲載日:2026/07/12

双子の妹たちに、すべて譲ることにしました




「アシーレお姉様、このアクセサリーは私の方が似合うと思うの。だから、ちょうだい?」


「アシーレお姉様、このドレスはお姉様には不釣り合いだわ。だから、ちょうだい?」


 侯爵家の息女アシーレの双子の妹たちは、姉に可愛らしくお強請(ねだ)りした。

 アシーレは心の中で、これで何度目だろうかと呟く。


「でも、それはお父様にいただいたものだから……」


 アシーレが拒否しようとすると、双子の妹たちは一斉に非難する。


「酷い! アシーレお姉様は私たちに意地悪するのね!?」


「酷い! アシーレお姉様は私たちのことが嫌いなのね!?」


 続けて、二人はほぼ同じタイミングで言い放つ。


「お父様に言いつけるわ!!」


 いつもそうだ。

 姉の自室に勝手に入り、クローゼットや宝石箱を漁って欲しいものが見つかると、双子の妹たちはお強請(ねだ)りする。

 アシーレが拒否するようなそぶりを見せると、父親に言いつけると脅し始めるのだ。


「ごめんなさい……貴方たちに譲るわ」


 アシーレは、双子の妹たちと出会った時のことを思い返す。



 半年ほど前のこと。

 アシーレの母親が亡くなり、兄と共に悲しみに暮れていた。

 しかし、喪が明けぬまま、父親である侯爵は愛人と双子の娘たちを邸宅に迎えたのだ。


 すぐに迎えたということは、正妻に隠れて愛人を作っていたのだろう。アシーレは侯爵の様子から、双子の娘たちは愛人との間に作った子供だということを、すぐに理解する。

 今まで家族に向けたことのないほど、満面の笑みを向けていたからだ。


 アシーレの母親とは政略結婚だ。侯爵は他に愛していた女性がいたが、家格の低い男爵家だったために結婚は叶わなかった。

 その愛していた女性が愛人であり、後の継母だ。


「ようやく私、侯爵夫人になれるのね。社交界に復帰するのだからドレスを用意しないと!」


「ああ、やっと、あの女がくたばった。これで心置きなく、本当の家族を愛することができる」


 実母を亡くしたばかりの娘と息子を前にしているにもかかわらず、継母と侯爵は心無い会話をした。

 我慢できなかったのか、アシーレの兄が抗議する。


「やめてください。亡くなった母上に対して、あまりにも酷い扱いではありませんか?」


 息子からの抗議に、侯爵は鼻で笑う。


「お前には分からんだろうな。本当に愛するものと家族になれることが、どんなに幸せか」


 苦虫をかみつぶしたような表情をするアシーレの兄。貴族の子供にとって、父親は絶対的な存在。これ以上、強く抗議することは(はばか)られた。

 アシーレは自身の父親の言葉に、深く悲しむ。


 すると、継母の後ろから双子の娘たちが姿を現した。


「初めまして、お兄様、お姉様。私は双子の姉のミア」


「私は妹のレアよ。よろしくね」


 双子の妹たちは、アシーレとその兄に挨拶をした。

 姉の方がミアで、妹の方がレアらしい。アシーレの二つ年下だった。


「ああ……よろしく」


「こちらこそ、よろしくね」


 兄はぎこちないながらも、あいさつをした。アシーレもそれに続く。


 とても可愛らしい双子の妹たちに、アシーレはあることを心に誓う。

 双子の妹たちは関係ない、愛情を持って接するように心掛けよう――と。


 それからアシーレは、双子の妹たちに愛情を持って接した。

 侯爵家の息女になったのだから高位貴族に相応しい振る舞いをするようにと、時には厳しく注意もした。


 それを鬱陶しく感じたのだろう、双子の妹たちはアシーレを嫌うように。さらに二人は姉からアクセサリーやドレスを奪ったり、壊したりするようになったのだ。


 アシーレは止めるよう諭したが聞かず、双子の妹たちは父親の侯爵に泣きながら告げ口。侯爵は、アシーレの言い分を一切聞かずに叱責した。

 兄だけは味方になったが、圧倒的に侯爵の方が力を持っているので、ほとんど無意味だった。


 それからアシーレは双子の妹たちから距離を取り、二人の思い通りにさせることに。



 この日、侯爵邸では慌しかった。

 双子の妹たち、ミアとレアの社交界デビューの日だからだ。


 本当に愛している女性との間に授かった子供だからだろう、侯爵は双子たちの要望をすべて叶えた。


 ホールの壁紙をピンクにして欲しいと言われれば、すぐに業者を呼んでピンクに変えた。シャンデリアをもっと豪華にして欲しいと言われれば、王城でも使われているようなシャンデリアを手配した。


 特別な日なのだから、何度もドレスを着替えたいと言われれば、人気の仕立て屋に依頼し、無理を言って何着も作らせた。大きい宝石を使ったアクセサリーが欲しいと言われれば、侯爵家の財政が圧迫するほど価値のある宝石を手に入れ、職人に作らせた。


 侯爵が跡継ぎの息子やアシーレのために、ここまで力を入れたことは無い。


「この度は私の愛する娘、ミアとレアのためにお集まりいただき、ありがとうございます」


 侯爵があいさつすると、ミアとレアは笑顔を浮かべながら周囲に手を振る。

 ミアは侯爵に、レアは兄にエスコートされていた。


 侯爵の勧めで、双子たちはある男性に挨拶をすることに。

 この国の王太子でアシーレの婚約者、エリオンだ。


「二人の社交界デビューに招待してくれたことを嬉しく思う」


「こ、こちらこそ!」


「あ、ありがとうございます!」


 エリオンがあいさつすると、双子たちは顔を真っ赤にした。


 それもそのはず。エリオンは周辺国の王族の中では、非常に見目が良い。

 緩やかに曲線を描く金色の髪とまつ毛。整った顔立ちに、美しい紫色の瞳は宝石のよう。身長も高く、ほどよく筋肉も付いている。

 まさに、絵本に出てくるような王子様だった。


 当然、双子の妹たちの変化にアシーレはすぐに気付く。



 双子の妹たちの社交界デビューを終えると、二人はアシーレの悪評をばら撒き始めた。


 意地悪をする。アクセサリーやドレスを取られる。服に隠れる場所に暴力を振るってくる。


 どれも事実無根だ。アシーレの方が長く社交界にいたこともあり、信じる者は少ない。

 しかし、侯爵や後妻に収まった継母が、双子たちの言ったことを事実だと証言。徐々にアシーレは立場を悪くすることに。


 侯爵が双子たちの味方に付いていることが、大きく影響しているのだろう。

 アシーレが無実を訴えても、効果は非常に薄かった。


 今では、アシーレを社交の場に招待する者は、ほとんどいない。



 伯爵家の息女が主催するお茶会。

 アシーレにとって久しぶりに招待された社交の場だった。


「この度はお招きいただき、ありがとうございます」


「良いのよ。侯爵令嬢には、つまらないかも知れないけれど」


 伯爵家の息女に棘のある言い方をされても、アシーレは顔に笑みを作る。

 その様子を、周囲はヒソヒソしながら見ていた。


「よく来れたわね」


「異母妹を(しいた)げているくせに」


「王太子妃に相応しくないのではないかしら?」


 アシーレは冷静だった。王太子の婚約者に選ばれた自分に、嫉妬している者が存在することは分かっていたからだ。

 そんな中、どこからか視線を感じる。

 視線を感じる方に目をやると、双子の妹たちが、こちらを見ながら嘲笑の笑みを浮かべていた。


 この時、我慢の限界を迎えたアシーレは、ある決断をする。



 侯爵邸にて皆で夕食を取っていると、アシーレが話し始める。


「お父様、私からお願いがあるのですが宜しいでしょうか?」


「はあ……なんだ、言ってみなさい」


 侯爵が溜息を吐きながら許可を出すと、アシーレは話し始める。


「私とエリオン殿下の婚約を解消したく存じます」


「な!? き、急にどうしたんだ!?」


 侯爵が理由を聞くと、アシーレは悲しげな表情を浮かべた。


「社交界での私の評判は非常に悪いです。このような私に、王太子妃は務まらないのではないかと」


「しかし、お前と殿下の婚約は王命であるし……」


 侯爵としては、双子のどちらかに王太子妃になってもらいたい。

 本当に愛している女性との間に授かった子供を王太子妃に――そして、未来の王妃にと。


 だが、これは王命による婚約。

 高位貴族である侯爵であっても、覆すことは不可能だ。


 すると、双子たちや継母が会話に割って入る。


「お父様、アシーレお姉様のお願いを叶えてあげるべきよ!」


「そうよ! アシーレお姉様のお願いですもの!」


「貴方、陛下にミアとレアを推薦してはいかが? あんな性悪な娘なんかより、ずっと王太子妃に相応しいじゃない」


 アシーレが辞退すれば、自分たちにお鉢が回ってくるかもしれない。そう思った双子の妹たちは、姉の願いを叶えるよう侯爵に迫った。

 愛しい双子の娘たちや妻に説得され、侯爵は考えを改める。


「そうだな。陛下には私から奏上しよう」


 侯爵や継母、双子の妹たちが楽しく会話をしているのを尻目に、アシーレの兄は妹に声をかける。


「アシーレ……本当に良いのか?」


 優しく問いかける声は、心の底から心配しているようだった。

 兄は、双子の妹たちがアシーレに何をしてきたのかを知っている。王太子の婚約者の座まで譲って良かったのか? と。


 アシーレは悲しげな表情をしたまま答える。


「ええ、今の私の立場では……」



 その日から、双子の妹たちがアシーレに意地悪することは無くなった。



 代わりに、仲の良かった双子の妹たちの関係は日に日に悪化し始める。



 アシーレの代わりに、自分たちが王太子と婚約するために躍起になっているのだ。


 アクセサリーやドレスはいくらでもある、この国の王子も複数、在籍している。

 しかし、王太子は一人だけ。さらに、その王太子は見目も良い。

 ミアとレアは、王太子妃――未来の王妃の座を狙っているのだ。


 二人は互いを蹴落とすために、アシーレにしていた嫌がらせを相手に行っていた。



 ある夜会でのこと。

 ミアとレアはそこでも互いの評判を落とすために、周囲に悪評を振りまいていた。


「レアが着ているドレスは、アシーレお姉様から奪ったものなのよ」


 社交の場で、双子の姉ミアがレアの悪口を言う。

 それを聞いた双子の妹レアは、近くにいた息女にミアの悪口を言い始める。


「ミアが身に着けているアクセサリーは、アシーレお姉様の部屋から盗んだものなの」


「レア! 嘘を言うのは止めてよ!」


 レアが自分の悪口を言っているのを聞いたミアは、妹に怒鳴った。

 ミアの言葉にレアが反論する。


「本当のことでしょ!? アシーレお姉様の部屋から盗んでいたじゃない!」


「レアだって、嫌がらせでアシーレお姉様のドレスに、わざとインク壺をこぼしたり、破ったりしていたくせに!」


「ミアだって、アシーレお姉様が大切なものだと言っていたアクセサリーを、わざと床に叩きつけて壊したでしょ!」


 二人の醜い言い争いに、周囲は認識を改め始める。


 “アシーレがミアとレアを虐めていた”のではなく、“ミアとレアがアシーレを虐めていた”のではないか――と。


 これはアシーレの策略だった。


 どんなに無実を訴えても、侯爵や継母が双子たちを擁護するので無意味だ。

 そこで双子の妹たち本人に、自分たちが今まで、どんな悪逆非道な行いをしてきたか暴露させようとしたのだ。

 双子の妹たちが、王太子の婚約者の座をめぐって争うだろうと。


 その余波は、侯爵や後妻に収まった継母にも及んだ。

 悪態をつく双子たちを諫めもせず、何をしているのだと。その影響か、信用ならないとして、多くの家から事業の取引を打ち切られることに。

 

 事業が打ち切られて実入りが悪くなり、苛立つ侯爵。贅沢ができなくなり、周囲に当たり散らす継母。

 二人の関係にもヒビが入り、次第に悪化していった。


「お前がミアとレアをしっかり躾ておかないから、こんなことになるんだ!」


「なによ! 貴方だってミアとレアを甘やかしていたくせに!」


 侯爵は継母に双子たちの教育の悪さを、継母は侯爵に双子たちを甘やかしたことを非難した。

 そして、喧嘩の絶えない二人はとうとう離縁することに。


 継母は実家を頼ろうとしたが、男爵家は出戻りを拒否。悪評の立っている者を受け入れたくないのだろう。

 実家に拒否された継母と双子たちは、平民として生きていくことになった。


 愛していた家族を失った侯爵は早々に息子に爵位を譲り、自分は隠居することに。

 世話をしている使用人によれば、一気に老け込んでしまったとのことだ。



 侯爵邸の応接室。

 ホールと同時にピンク色にされていた壁紙は以前のクリーム色に戻され、落ち着いた雰囲気を取り戻す。


 侯爵邸にはアシーレの婚約者、エリオンが訪れていた。


「やはり、この色が落ち着くね。ピンク色に変わった時は、少し居心地が悪かったよ」


「ふふ、私もです」


 エリオンは隣に座っているアシーレの手を握る。


「異母妹たちに虐められていたんだって? 私に相談してくれたらよかったのに……」


「あら、この程度のことで殿下のお手を煩わせるわけには参りませんわ」


 アシーレはあっけらかんとしていたが、内心では虚勢を張っていた。


「でも、感謝しております」


 優しい笑顔を浮かべながら、エリオンを見る。


「陛下に婚約を解消しないよう、働きかけてくださったのでしょう?」


 王家に迎えるのだから、国民に愛される女性でなければならない。将来、王妃になるのだから、なおさらだ。

 醜聞が出回っていた自分を婚約者に留めておくのは、とても大変だったに違いない。


 そうアシーレは予想していたのだが、エリオンは首をかしげる。


「さあ? 私は何もしていない。陛下は特に、気にしていらっしゃらなかったよ。大臣たちもね」


 訳が分からないといった様子の婚約者に、アシーレは小さく笑う。

 そんなアシーレを愛おしいと、エリオンの紫色の瞳は強く訴える。


「アシーレ。君と人生を共にできることが嬉しいよ」


「私もですわ。エリオン」



 部屋には真新しさを象徴するかのように、壁紙を貼るために使用された糊の香りが、少しだけ漂っている。


 しかし、アシーレには新たな始まりを祝福しているかのよう感じた。




【追記 2026.7.14】後日談




 侯爵家を追い出され、実家の男爵家にも頼れなかったアシーレの元継母と双子の妹たち。

 今は、田舎の町に移り住んでいた。


 元継母と双子のミアとレアは元貴族ということもあり洗練されていたので、田舎の町では目を引いた。

 特に、ミアとレアは男性たちを魅了し、毎日のように交際を申し込まれている。しかし、双子たちはすべての男性の申し出を断っていた。


 どうしても見目麗しい王太子、エリオンを思い浮かべてしまうからだ。


 そんな彼と比べると、田舎の町に住む男性など興味が持てない。

 地位、権力、外見、血筋……どれをとっても、エリオンの方が遥かに上回っている。


 双子たちは毎日、食堂や農家の手伝いをしていると、いつも考えてしまう。


 王太子と結婚できていれば、このような苦労など無いのに――と。



 日が暮れ、皆が夕食を取る時間。

 元継母と双子たちも、少し古びた小さな家で夕食を取っていた。


「ちょっとレア! スープを自分の皿によそう時、肉をたくさん入れたでしょ!」


「言いがかりよ! ずっと見てたけど、ミアの方こそ肉ばかり入れていたんじゃない!?」


 ミアが非難すると、レアも同じように非難した。双子たちは、どちらの方が肉を多く取っていたかを争いだす。

 肉を口にできるのは一ヶ月に一度だけ。別に誰かに決められたわけでも、町の風習というわけでもない。

 ただ、経済的に許されるのが一ヶ月に一度が精一杯というだけだ。


 王太子の婚約者の座を争って以来、双子たちの仲は悪いままだった。いや、些末なことで言い争いに発展するようになった分、さらに悪化しているかも知れない。


 双子たちが言い争っていると、ダン! という大きな音が響き渡る。

 驚いた双子たちは静かになり、音がした方に顔を向ける。

 元継母が拳で机を叩いたらしい。


「いい加減にしなさい! 誰のせいで、こんな生活を送っていると思っているの! あんた達が社交界で、醜態をさらしたせいでしょ!!」


 元継母が怒鳴ると、双子たちは項垂れる。

 自分たちの行いのせいで社交界に居場所がなくなり、醜聞が出回ったせいで両親の仲まで悪化した。

 罪の意識がある双子たちは、自身の母親に謝罪した後、食事を再開する。


 口の中に肉を放り込むが、質が悪いのか、いつまでも繊維が残っていた。



 翌日、ミアが広場の前を通ると、レアがいることに気付く。レアの視線の先を追うと、なにやら催し物の準備をしているところらしい。

 全体を眺めていたレアも、ミアの存在に気付く。

 昨日のことがあったので気まずいながらも、双子たちは準備している人の元へ。

 男性が手で汗を拭っていると、双子たちに気付く。


「やあ、ミア、レア。なにか用?」


 男性に声をかけられ、双子たちは問いかける。


「何をしているのかなって……」


「何かあるの?」


 すると、男性は快活に答えた。


「ああ、王太子様が明日、結婚するんだ! めでたいから、祭りの準備をしているんだよ」


 男性の言葉に、双子たちは衝撃を受ける。


「相手は貴族様――侯爵家の娘だったかな? お二人は仲が良いって噂だ」


 自分たちがいたのは侯爵家。侯爵家は他にもあるが、相手は異母姉のアシーレである可能性が高い。

 追い出される前、結局アシーレがエリオンと婚約を解消したという話は聞かなかったからだ。


 もしかして、最初から婚約を解消する気が無かったのでは……。



 双子たちは茫然と立ち尽くしながら、祭りの準備をしている様子を眺めていた。




 結婚式の前日の夜。


 移り住む王城の廊下。アシーレは置かれている長椅子に腰掛け、窓の外を眺めていた。

 夜空の月や星がよく見える。きっと、明日の朝は晴れるだろう。


 そう思っていると、アシーレの元に誰かが近付いてくる。


「眠れないの?」


 この国の王太子でアシーレの婚約者、エリオンだった。

 長椅子に座っていたアシーレは少し移動し、エリオンが座れるほどの空間を作る。その空間に、彼は腰を下ろした。

 エリオンが座ったのを確認し、アシーレが答える。


「緊張してしまって……エリオンは?」


「私も……それにしても、王城の中を散策して良かった」


 アシーレに会えたからね――エリオンが微笑みながら囁く。


 月明かりに照らされているだけだが、少し顔を赤らめているのが分かる。

 いつもは王太子らしく冷静沈着に振舞う彼が少し顔を赤くしているだけで、アシーレは愛しく感じていた。


「明日から、夫婦になるのね……」


「ああ」



 寄り添う二人。


 夜空に浮かぶ月と輝く星を、静かに眺めていた。




【追記 2026.7.15】後日談2




 結婚式当日。


 二人は大聖堂で永遠を誓い、馬車に乗ってパレードをしていた。

 パレード用の馬車は天井が無く、乗っている者の上半身がよく見えるよう、壁も半分ほど無い。


 繊細なレースを施され、真っ白のドレスに身を包んだアシーレは夫となったエリオンと共に、沿道に集まった国民に向かって手を振っていた。国民もそれに応えるように、笑顔で声をかけながら手を振る。

 王都中の国民が集まっているのではないかと錯覚するほど、大勢の人が押し寄せていた。


 長い時間、手を振るアシーレをエリオンは気遣う。


「疲れた?」


「いいえ。私たちを歓迎してくれていると思うと嬉しくて、むしろ力をいただいているわ」


 アシーレは目を細め、頬を赤くしながら答える。

 本心だと悟ったエリオンは、なら良かったと、呟くように言って安心する。


「そうだ。地方に住む国民も、各地で祭りをしているみたいだよ」


「まあ! 私たちの結婚を祝福してくれているのかしら」


 アシーレとエリオンは楽しそうに会話をする。

 その様子を沿道にいた新聞記者が、カメラを手にレンズ越しで見ていた。



 仲睦まじい二人の様子は王都中――もしかしたら、田舎の小さな町にも広まるかもしれない。

【追記 2026.07.13】

少し加筆修正しました。

加筆修正したといっても描写を補強したくらいなので、物語の進行に全く影響はありません。


【追記 2026.7.14】

後日談を追記しました。


【追記 2026.7.15】

後日談2を追記しました。

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― 新着の感想 ―
なるほどアシーレ、賢いですね。 それにしても双子は、父親は侯爵でも母親は低位貴族の元愛人、高位貴族の教育も受けていない。 王太子妃、無理でしょう。 両親があれでは仕方がなかったのかもしれませんが、少な…
まぁ因果応報ではあるけど、双子妹の立場になれば気持ちは分かるんですよね。 ・自分の母親は日陰の女、以下の不貞で子供を産んだ痴女で自分たちはその結果。 ・常々そのことへの不満を隠してなかったっぽい両親…
双子は見事に騙されましたね。最初、何で双子の設定なのだろうと思いましたが、このようなら展開にもっていくためだったのですね。私も見事に騙されました。
感想一覧
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