その後の神殿 〜マリアver.21〜
って、現実逃避してる場合じゃなかった。
ファティマ様が結界から出て、地獄に向かって治癒魔法を放ってた。こんなに距離あるのにちゃんと届いてた。凄い。
「っ、ファティマ様、危ないですよ!」
わたしは我に返ってファティマ様を結界内に戻そうとした。でもファティマ様は止まらなかった。
「危ないのはむしろ『現場』の方達です。
ナターシャ様、マリア様、この場はお願い致します。セシル、先輩方のおっしゃることをよく聞いて、いい子にしていてね」
「ファティマ!」「ファティマ様、まさか……!」
ナターシャ様とわたしの叫びはほぼハモリ。ハッピーアイスクリーム! ……とか言ってる場合じゃなかった!
「私は参ります。このままでは死人が出ます」
「参ります、って……」
わたしは絶句した。
第二王子の護衛の人が、ポイズンビーのスタンビードに聖女1人が駆けつけたところで何になる的なことを言ってたけど、ファティマ様はアルカイックスマイルでひとこと。
「有能なマジシャンは一個師団に値する、って格言を貴方、ご存じ?」
「しかしファティマ様、貴殿は魔術師ではなく聖女。『掟』に触れることがあっては……」
「そんな掟クソ食らえ……コホン失礼致しましたお下品でしたわ、おうんこ召し上がれ! ですわ!」
いや気にするのそこと違うやろ……と、ツッコむ気力も余裕もない。ファティマ様は自分で自分に何かの魔法をかけて、そして固まるわたし達を見て、あらあら、って苦笑して、
「皆様、そんな悲壮なお顔をなさらなくとも。死にに行くでもあるまいし。
大丈夫です、ちょっと行って立て直してくるだけですから、ねっ?」
そんな、可愛く小首を傾げてちょっとそこまでお使いにみたいなノリで……って気が抜けて力なく笑っちゃったけど、多分それがファティマ様の狙いだったんだろう。マリア様は笑顔がいちばんですわ、ってそんなイケメンの殺し文句みたいな捨て台詞吐いて地獄に直行しないでくれるかな?
まったく、そういうトコですよファティマ様!
ファティマ様はどこまでも有言実行の人だった。
ファティマ様が地獄いや『現場』に駆けつけるや否や、何やようわからんけど魔法みたいにスタンピードは終わった。……って魔法か、魔法そのものか。羽虫の群れが何かの魔法と弓矢とでボトボト落下してく光景は軽くトラウマ……遠目からでもクラクラした。吐き気がぶり返してきた。
第二王子の護衛の人が、奇跡だ……とか呟いてた。あーあ、またひとりファティマ教信者増えちゃったよ。積極的に勧誘しなくても自動で信者が増えてくファティマ教凄い。神殿も神様よりもファティマ様を前面に出して推してけばいいのになあ。……なんて考えて、どうにか吐き気をやり過ごそうとしてたら、
「なんか来る! おっきいハチ!」
セシルの甲高い声に引き戻された。はっとして我に返るのと、結界が破れた手応え(?)が、ほぼ同時で。
「ヒッ!」
セシルが怯えて顔をひきつらせるのと、
「きゃーっ‼︎」「キャアァァァーーー‼︎」
ナターシャ様とわたしが特大の悲鳴を上げたのも、ほぼほぼ同時……ハッピーアイスクリーム!(号泣)




