魔法少女は、労働法に守られたい
東京・新宿。
深夜二時。それは、ブラック企業のサラリーマンでさえ帰宅する時間帯である。だが、ビルの屋上で戦闘している一人の少女だけは違った。
「ぜぇ……ぜぇ……今日の討伐、いったい何件目……?」
光の剣を振り回す魔法少女、星宮ほのか。ピチピチの17歳。けれど、髪は乱れ、瞳は死んだ魚そのもの。もはや「魔法少女」というより 「マジカルゾンビ」 といって差し支えない。
倒した魔獣が黒いモヤとなって消えると、ほのかはその場で膝をついた。
「ちょっと……魔法少女って、こんなに……こんなに働く職業だったっけ……?」
スマホを取り出し、勤務時間を確認。
【19時間12分】
「ほぼ丸一日じゃん!!誰が24時間戦えるか!不適切にもほどがある!」
叫びながらよろめくと、背後からドサッという音が聞こえた。
「え、先輩!?しっかりしてください!!」
魔法少女歴5年のベテラン、霧ヶ峰あかねが、白目をむいて倒れた。
「えっ、これ本当に大丈夫!?過労死ラインとか余裕で超えてるよね!?労災申請しても絶対に認められないやつだよね!?てか、魔法少女にも労災あるの!?」
半泣きで先輩を揺するほのか。この状況、完全に修羅場である。
そして——
ピコン!
魔法安全局からのRINEが入った。
【片付け終わった?次は渋谷。よろしくね〜☆】
「☆つけるな!!!!!!」
ほのかは、スマホを屋上から投げ捨てそうになったが、わずかな理性で踏みとどまった。
(……無理。もう無理。こんなん人間の生活じゃない。)
ほのかはビルの縁から夜空を見下ろし、静かに決意した。
「——労基、行こう。」
***
深夜三時の労働基準監督署。誰も来るはずのない時間帯に、なぜか灯りがついていた。
「え、何これ。労基署って深夜営業してるの……?労基職員も、24時間戦ってるの?」
恐る恐るドアを開けると、中にはスーツ姿の青年が一人。流れるように書類を処理している。
まるでブラック企業の戦士。いや、労基署の戦士である。
「あ、こんばんは。魔法少女さんですね?」
「な、なんで分かったんですか!?目の下のクマですか!?それとも、疲労臭ですか!?」
「いえ、『深夜三時に泣きながら駆け込んでくる女子高生』という時点で、ほぼ魔法少女ですよ。」
「いや、偏見でしょ!?」
青年は名刺を差し出した。
「私は 如月 司と申します。魔法少女専門の労基署職員です。」
「魔法少女専任!?そんな専門部署あったんですか!?」
「最近いろいろあって作られました。……もちろん、非公式ですが。」
「非公式!?この国、大丈夫!?」
「大丈夫じゃないので、あなたたちがブラック労働しているわけです。」
「嫌だ、聞きたくない!!」
ほのかは、涙目になりながら頭を下げた。
「私……ほんと、もう限界で……助けてください……!」
「当然です。労働者を守るのが私たちの仕事ですから。」
如月は、ほのかのスマホを受け取り、勤務記録を確認した。
次の瞬間——彼の眉が跳ねた。
「これは……」
「ヤバいですよね……?」
「ヤバいなんてレベルではありません。法が泣いています。」
「え、法って泣くんですか……???」
如月は読み上げる。
「労働時間は1日25時間。超越してますね。休憩時間は0分。論外です。危険手当はなし。犯罪行為。深夜連続勤務は10日。……これって、宇宙のルールですか?」
「いやほんと、宇宙レベルで働かされてます……!」
「すぐに、魔法安全局に労働監査を入れます。」
「ほんとに……守ってくれるんですか?」
「もちろん。あなたたちは『魔法少女』である前に、保護されるべき労働者です。」
「名言出たぁぁ!!」
ほのかは、その場でわんわん泣いた。
と、そのとき。
ピコン!
再び、魔法安全局からのRINEが入った。
【緊急警報!! 魔獣大量発生。近隣の魔法少女は速やかに出動せよ。】
「なんで今なの!? 絶対狙ってるでしょこの魔獣!!空気読めよ!!」
「どうしますか?」
「そりゃ、行きたくないですよ!!でも、行かないと市民が死んじゃう……!!」
ほのかが変身しようとしたそのとき――――
「ちょっと待ってください」
如月が前に出た。
「今日、あなたは労基署に申告しました。つまり、保護対象になりました。これ以上、働かせるわけにはいきません。」
「えっ!? じゃあ誰が——」
「……仕方ありませんね。」
如月はスーツの袖を捲り、静かに言った。
「元日本最強魔法使いの、この私が行きます。」
「えっ、日本最強の魔法使い……?」
「漆黒の魔人『マジカル・ブラック』とは私のことです。魔法少女業界にも轟いているんじゃないですか?」
「すみません、初耳です。」
「あ、そう……。」
***
現場は地獄だった。魔獣が道路やビルを破壊し、車をおもちゃのように踏み潰している。
「スターライト・バーストッ!!」
ほのかの同僚である魔法少女たちが攻撃するも、これまでの疲労で威力は普段の半分以下だ。
「だめ……もう魔力が……!」
同僚たちが諦めかけたそのとき――
「では交代です。」
如月が指を鳴らした瞬間、空間に巨大な文字が浮かび上がる。
【労働安全衛生法 第20条 危険作業の停止】
「え、なにそれ!?」
「西京大学の法学部出身ですから。」
「いや、どういうことですか!?」
「魔『法』なので、もともとは法律なんですよね、たぶん、知りませんけど。」
「知らないんだ……。」
白い鎖が魔獣を拘束し、動きを封じた。
「結構、強い……!!」
「はい、次。【第36条 時間外労働の禁止】。」
魔獣がギャアアと泣き叫ぶ。そして、如月がついにトドメを刺す。
「これで終わり。ギャラクシー・インパクト!!」
「最後は、法律じゃないんかーい!!!」
魔獣がすべて消滅し、市街に静寂が戻った。
***
翌朝。
魔法安全局は、予告なしの労基署来訪で大騒ぎだった。
「星宮ほのかぁ……! お前のせいで労基署が……!!」
上司が怒鳴る。ほのかは堂々と胸を張った。
「覚悟してください。今日から私は——」
「法に守られて働く魔法少女です!!!」
如月がくすりと笑う。
「では始めましょう。——魔法少女の働き方改革を。」
太陽が昇り、東京の街に新しい風が吹いた。
それは魔法でもヒーローでもなく、労働基準法という名の、小さくて、とてつもなく強い力だった。
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