表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

魔法少女は、労働法に守られたい

作者: あっつん
掲載日:2026/02/27

 東京・新宿。

 深夜二時。それは、ブラック企業のサラリーマンでさえ帰宅する時間帯である。だが、ビルの屋上で戦闘している一人の少女だけは違った。

「ぜぇ……ぜぇ……今日の討伐、いったい何件目……?」

 光の剣を振り回す魔法少女、星宮ほのか。ピチピチの17歳。けれど、髪は乱れ、瞳は死んだ魚そのもの。もはや「魔法少女」というより 「マジカルゾンビ」 といって差し支えない。

 倒した魔獣が黒いモヤとなって消えると、ほのかはその場で膝をついた。

「ちょっと……魔法少女って、こんなに……こんなに働く職業だったっけ……?」

 スマホを取り出し、勤務時間を確認。


【19時間12分】


「ほぼ丸一日じゃん!!誰が24時間戦えるか!不適切にもほどがある!」

 叫びながらよろめくと、背後からドサッという音が聞こえた。

「え、先輩!?しっかりしてください!!」

 魔法少女歴5年のベテラン、霧ヶ峰あかねが、白目をむいて倒れた。

「えっ、これ本当に大丈夫!?過労死ラインとか余裕で超えてるよね!?労災申請しても絶対に認められないやつだよね!?てか、魔法少女にも労災あるの!?」

半泣きで先輩を揺するほのか。この状況、完全に修羅場である。


 そして——

 ピコン!

 魔法安全局からのRINEが入った。


【片付け終わった?次は渋谷。よろしくね〜☆】



「☆つけるな!!!!!!」

 ほのかは、スマホを屋上から投げ捨てそうになったが、わずかな理性で踏みとどまった。

(……無理。もう無理。こんなん人間の生活じゃない。)

 ほのかはビルの縁から夜空を見下ろし、静かに決意した。

「——労基、行こう。」


***


 深夜三時の労働基準監督署。誰も来るはずのない時間帯に、なぜか灯りがついていた。

「え、何これ。労基署って深夜営業してるの……?労基職員も、24時間戦ってるの?」

 恐る恐るドアを開けると、中にはスーツ姿の青年が一人。流れるように書類を処理している。

まるでブラック企業の戦士。いや、労基署の戦士である。

「あ、こんばんは。魔法少女さんですね?」

「な、なんで分かったんですか!?目の下のクマですか!?それとも、疲労臭ですか!?」

「いえ、『深夜三時に泣きながら駆け込んでくる女子高生』という時点で、ほぼ魔法少女ですよ。」

「いや、偏見でしょ!?」

 青年は名刺を差し出した。

「私は 如月 司と申します。魔法少女専門の労基署職員です。」

「魔法少女専任!?そんな専門部署あったんですか!?」

「最近いろいろあって作られました。……もちろん、非公式ですが。」

「非公式!?この国、大丈夫!?」

「大丈夫じゃないので、あなたたちがブラック労働しているわけです。」

「嫌だ、聞きたくない!!」

 ほのかは、涙目になりながら頭を下げた。

「私……ほんと、もう限界で……助けてください……!」

「当然です。労働者を守るのが私たちの仕事ですから。」

 如月は、ほのかのスマホを受け取り、勤務記録を確認した。

次の瞬間——彼の眉が跳ねた。

「これは……」

「ヤバいですよね……?」

「ヤバいなんてレベルではありません。法が泣いています。」

「え、法って泣くんですか……???」

 如月は読み上げる。

「労働時間は1日25時間。超越してますね。休憩時間は0分。論外です。危険手当はなし。犯罪行為。深夜連続勤務は10日。……これって、宇宙のルールですか?」

「いやほんと、宇宙レベルで働かされてます……!」

「すぐに、魔法安全局に労働監査を入れます。」

「ほんとに……守ってくれるんですか?」

「もちろん。あなたたちは『魔法少女』である前に、保護されるべき労働者です。」

「名言出たぁぁ!!」

 ほのかは、その場でわんわん泣いた。


 と、そのとき。

 ピコン!

 再び、魔法安全局からのRINEが入った。


【緊急警報!! 魔獣大量発生。近隣の魔法少女は速やかに出動せよ。】


「なんで今なの!? 絶対狙ってるでしょこの魔獣!!空気読めよ!!」

「どうしますか?」

「そりゃ、行きたくないですよ!!でも、行かないと市民が死んじゃう……!!」

 ほのかが変身しようとしたそのとき――――


「ちょっと待ってください」

 如月が前に出た。

「今日、あなたは労基署に申告しました。つまり、保護対象になりました。これ以上、働かせるわけにはいきません。」

「えっ!? じゃあ誰が——」

「……仕方ありませんね。」

 如月はスーツの袖を捲り、静かに言った。

「元日本最強魔法使いの、この私が行きます。」

「えっ、日本最強の魔法使い……?」

「漆黒の魔人『マジカル・ブラック』とは私のことです。魔法少女業界にも轟いているんじゃないですか?」

「すみません、初耳です。」

「あ、そう……。」


***


 現場は地獄だった。魔獣が道路やビルを破壊し、車をおもちゃのように踏み潰している。


「スターライト・バーストッ!!」

 ほのかの同僚である魔法少女たちが攻撃するも、これまでの疲労で威力は普段の半分以下だ。

「だめ……もう魔力が……!」

 同僚たちが諦めかけたそのとき――

「では交代です。」

 如月が指を鳴らした瞬間、空間に巨大な文字が浮かび上がる。

【労働安全衛生法 第20条 危険作業の停止】

「え、なにそれ!?」

「西京大学の法学部出身ですから。」

「いや、どういうことですか!?」

「魔『法』なので、もともとは法律なんですよね、たぶん、知りませんけど。」

「知らないんだ……。」

 白い鎖が魔獣を拘束し、動きを封じた。

「結構、強い……!!」

「はい、次。【第36条 時間外労働の禁止】。」

 魔獣がギャアアと泣き叫ぶ。そして、如月がついにトドメを刺す。

「これで終わり。ギャラクシー・インパクト!!」

「最後は、法律じゃないんかーい!!!」

 魔獣がすべて消滅し、市街に静寂が戻った。


***


 翌朝。

 魔法安全局は、予告なしの労基署来訪で大騒ぎだった。

「星宮ほのかぁ……! お前のせいで労基署が……!!」

 上司が怒鳴る。ほのかは堂々と胸を張った。

「覚悟してください。今日から私は——」

「法に守られて働く魔法少女です!!!」

 如月がくすりと笑う。

「では始めましょう。——魔法少女の働き方改革を。」

 太陽が昇り、東京の街に新しい風が吹いた。

それは魔法でもヒーローでもなく、労働基準法という名の、小さくて、とてつもなく強い力だった。

「面白い!」「続きが読みたい!」など思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします!

ブックマークや評価していただければ、作者のモチベーションが爆上がりします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ