第5話
数秒後。もしくは数分後だったかもしれない。
轟音、そして眩しい光が完全に収まったのに気付き、俺がゆっくり目を開けてみると――
「ん? ……んんっ?」
俺は妙な違和感に、すぐさま両手で、顔の各所を触ってみる。
まず一つ目の驚き。
いつの間にか俺の頭部全体は、ヘルメットのような何かの装甲で包まれていた。
そのため視界も今は、重厚なバイザーのようなもので完全に覆われている。
そのまま視線を落とし、自分の全身を見てみると、更なる驚きが俺を襲う。
両腕、両足。いや、全身のあらゆる部位。
それらが今、青を基調とした派手な蛍光色っぽいカラーリングの、ゴテゴテとしたヘビー級の装甲のようなもので、全身ガッシリと覆われていたのである。
端的に言うならば、メタリックな青いフルアーマー。そんな外観であった。
だが一方で、見た目的には重装備だというのに、そこに重量感は殆ど感じないのが不思議で仕方がない。
そして俺は自分の姿をじっと見て、率直に、思った事を口に出す。
「マジか。俺、ヒーローのスーツ着てんじゃん……」
パニックにもならず、興奮する事もなく。
冷静に事実を述べていた自分に、我ながら少し驚かされる。
アレか? 今までの、佐倉さんとのツッコミ甲斐のあり過ぎるやり取りのせいで、心の準備というか覚悟というか。
それらが充分に出来ていたせいだろうか?
特撮番組そのままの、ヒーローへの大変身を遂げたというのに、俺自身はぶっちゃけ、ドン引きにもハイテンションにもなってはいなかったのだ。
「凄い、本当にバルバルチェンジを成功させた……しかも、ここまで完璧に!」
その声に俺が視線を上げると、佐倉さんは今、心から嬉しそうに興奮していた。
まるで念願が叶った、と言わんばかりの、歓喜に包まれたような表情である。
「え、何? このバルバルチェンジって、そんなに凄い事なの?」
「もちろんです! 本来、装着者のギャーン因子レベルが低ければ、ギアからの強烈な拒絶反応がありますから」
「拒絶反応?」
「でも高井君にはその反応が無かった……即ち、それが貴重なハイパーギャーン因子保有者だという何よりの証です!」
「ごめん。その拒絶反応っての……何?」
「簡単ですよ。条件に満たない者がギアを使用した際に起こる、副作用のようなものでして。具体的な例だと、過去には確か……全身を炎に焼かれ、再起不能の後遺症を負った方がいたような」
「再起不能⁉ 怖っ! つーか俺に今、そんなヤバいもの使わせたわけ⁉」
「安心して下さい。高井君の持つ因子レベルなら、元々チェンジの成功確率は七割を超えていましたから!」
「七割⁉ 失敗の可能性も、割とあったって事⁉」
「ですが結果として、バルバルチェンジは成功しました! なら、それで充分じゃないですか!」
「いやいやいや! いくら何でも結果論すぎるでしょ、流石に……」
全身にメタリックなスーツを着込んだ俺と、興奮している佐倉さん。
俺たち二人が、噛み合わない問答を続けていた――その時。
「いやぁ、素晴らしい。君の因子レベル、どうやら確かに本物のようだね」
「えっ?」
不意に。
どこからか、知らない男の声と、パンパンと何度か手を叩くような音が聞こえてきた。
俺は怪訝な顔で振り返り、佐倉さんと共に、声のした方を見てみる。
俺と佐倉さんのいる位置から、少し離れた場所には、一本の木があったのだが。
今、その木の傍には、一人の若い青年が立っていた。
ちなみに。その青年が唐突に現れた事に対して、俺はもういちいちツッコミを入れる気にもならなかった。
ツッコミたい事は他にもまだ、山のように溢れていたからだ。
「うわ、絶対同類でしょ、あれ……」
俺は青年の姿を見て、思わず、呆れたように小声でボヤく。
その青年の外観は、あまりにも、コスプレそのものだった。
西洋風なスーツに赤黒いマント、髪は紫色に染められ、何となく目にはカラーコンタクトを付けているように見える。
その容姿を端的に言うならば――
少し気恥ずかしいのだが、闇の貴公子、とでも表現するのが恐らく適切かもしれない。
「グスコード、いつからそこに!」
「ああ、やっぱり。佐倉さんの同類か」
「同類なんかじゃありません! 奴の名はグスコード。ノスフェル帝国の上級幹部である、暗黒四天王のうちの一人……つまり、私たちの宿敵そのものです!」
「宿敵だなんて、そんな悲しいこと言うなよ。戦団のお嬢さん?」
「馴れ馴れしく呼ぶな! この、悪鬼外道の集団め!」
「ふん、つれないねぇ。今日は僕も、あくまで下見に来ただけなのにさぁ」
「下見?」
「そう。これから戦う事になるであろう、新たな好敵手。その姿を軽く、一目見たかっただけなんだから」
謎の青年グスコードはそう言って、ニヤリと笑みを浮かべる。
次の瞬間。突然、青年の全身が紫色の炎に包み込まれた。
轟々と燃え上がる紫の炎。
それを見た俺が慌てふためいていると、すぐに炎は収まり、その中から――恐るべき怪物が姿を現した。
紫色に覆われた巨大な全身、凄まじく立派な角と牙。
そんな怪物なのに、先程までの人間の姿と同じく、今でも赤黒いマントは変わらず背に付けている。
その怪物は軽く足を交差させると、ギョロリと血走った瞳で、装甲に包まれた俺の顔を睨みつける。
「えっ⁉ ちょ、何あれ⁉」
「落ち着いて下さい、高井君。これこそが奴ら、ノスフェル帝国の連中の真の姿。むしろ人間態の方が、世を忍ぶ仮の姿なんです」
「そういう事。君……えっと、君は……」
少しエコー掛かった声で、平然と人間っぽく話す、怪物グスコード。
そんな相手に俺は、とりあえず普通に答えを返す。
「あ、高井です。高井伸二郎……」
「高井伸二郎、ふん、なるほど。悪くない名前じゃないか」
「はあ、そりゃどうも」
「では高井伸二郎、また会おう。明日から始まる、君の地獄の日々。それを楽しみにしているよ……」
「は? 明日? ちょっと、それどういう……うぉっ!」
俺が質問するよりも先に、怪物と化した青年グスコードは、自らの大きなマントを翻した。
すると彼の体はいきなり、突風のようなものに包まれてしまい、あっという間にその全身は、吹き荒れる風と共に、跡形もなく消え去ってしまった。
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