第4話
「まあ、とにかく。俺がその、ハイパー因子とやらを持ってる人間って事か」
「はい。高井君は数百万人に一人とされる、ハイパーギャーン因子の貴重な保有者。そして、私がずっと探してきた逸材なんです」
「探してきた?」
俺からの問いに対し。
佐倉さんは唐突に、自分の制服の右袖を軽くまくると、右手首を俺に見せる。
「うわ……」
今まで袖に隠れていて分からなかったが、佐倉さんの右手首には何らかの、腕輪のような物が付けてあった。
……いや、もう正直に言おう。
佐倉さんの右手首には、いわゆるヒーローへの変身ブレスレットみたいな、妙にデカいアイテムが確かに装着されていたのである。
というか、明らかに大きすぎるだろ、それ。
どう考えても袖口の布で、隠し切れるサイズ感じゃないんだが、一体いつ付けたんだ?
まさか、アレか……アタッシュケースの時と同じで、問い詰めても無駄な話なのか?
「この退魔タイマーには、近くのギャーン因子、およびハイパーギャーン因子の保有者を探し出す、レーダーの機能があるんですが」
「いや、ダジャレ……何その酷すぎるネーミング」
「私はこの端末を使い、あらゆる街で因子保有者を探してきました。そして先程、遂にハイパーギャーン因子の保有者を見つけ出したんです」
「ああ、そっか。要はそれが、同じクラスの俺だったってわけだ」
「はい。灯台下暗しとは、まさにこの事。自分のクラスに保有者がいるなんて偶然、あまりにもあり得ない事なので。当然のように私も、今までスルーし続けていたんです」
「……なるほど。まあ、辻褄は合うか」
俺は淡々と、でも呆れた態度は決して見せないよう、佐倉さんの話に調子を合わせていく。
そんな時。佐倉さんは不意に俺の顔を、食い入るように見つめてきた。
続けて、さっきから俺が手に持っていた、問題のギア入りアタッシュケースに視線を移すと、静かな雰囲気で話を切り出す。
「高井君」
「ん、何?」
「今ここで、バルバルチェンジしてみて下さい」
「えぇっ? 何で?」
「バルギャーン、戦団、ノスフェル帝国。高井君が信じられない、荒唐無稽だと思う気持ちも、私だって、正直少しは分かるんです」
「……少し、なんだ」
「それで私、思ったんです。高井君に全てを信じてもらうには、実際にここでギアを使用し、バルギャーンになってもらうのが最適だと」
「えぇぇぇ……? マジに言ってんの? それ」
「はい、もちろんです。実際に自らバルギャーンの姿になれば、高井君だって後は信じるしか無くなりますよね」
「そりゃ、まあ……ホントになれれば、の話だけど」
「だからこそ、お願いします。たった一度、チェンジしたらすぐ、解除してもらっても良いんで……駄目、でしょうか?」
そう言うと佐倉さんは再び、例の一撃必殺、恐るべき奥義を繰り出してきた。
先程も見せた、懇願するような、上目遣いの眼差しである。
佐倉さん……恐らく、分かっててやってるよな?
その目で見つめられたら、殆どの男子は、首を縦に振るしかなくなるという事実。
それを分かり切った上で、こうやってわざと、お願いしてるんじゃないだろうか?
「……いや、ズル過ぎるでしょ、流石に」
「本当に一度だけで良いんです。どうか、お願いします」
「……」
「高井君?」
「まあ、ここまで来たら、やるつもりだったけどさぁ……」
俺は溜息と共に、持っていたアタッシュケース内から、問題の「バルギャーンギア」とやらを取り上げた。
銀色のアタッシュケースを足元に置き、中にあった重厚そうなギアを手に持って、じっと眺めてみる。
「えっと、一応聞いとくんだけどさ。これ腰にセット、で良いんだよね?」
「凄い、どうして分かったんですか⁉」
「いや、何となく、そうだろうなと思って……」
「流石は高井君。既に感じ取った、って事ですよね⁉」
「うん、まあ、それで良いけど…」
勝手に感心している佐倉さん。
そんな彼女を軽く無視し、俺は腰の前面、ベルトでいうバックルに当たる部分に、そっと。例のバルギャーンギアを当てたのだが――
瞬間、予想外の出来事が俺を襲う。
「うぉっ⁉」
突然、ギアの片側から音を立て、高速でベルトのようなものが飛び出してきた。
それは俺の腰の周りを一周し、すぐにギアの反対側へと装着される。
つまりほんの一瞬で俺の腰回りに、全自動にてギアのベルトが巻き付いて、しっかりとセットされたのだ。
「……」
俺は腰のバルギャーンギアを見つめ、呆然と考える。
ちょっと待ってくれ……
俺が知らないうちに、現代のオモチャって、ここまで技術が進化してたのか?
いやいや、そんなわけあるか!
今のベルトの動き、あれは明らかにオモチャの域を超えていた。
個人個人の腰回りに合わせ、全自動でピッタリ巻き付くベルトなんて聞いた事もないし、何より現実的に考えて作れるわけがない。
そんなものが今実在するなら、それはもう、オーバーテクノロジーみたいなものだろう。
「……ま、まさか」
俺はそこでようやく、本当にようやく――ある結論に辿り着く。
いや、辿り着いてしまう。
佐倉さんが今まで見せてきた、よく分からない奇行の数々が、一つに繋がっていくような感覚が、瞬時に脳内を駆け巡る。
そして頭の中が、混乱で埋め尽くされていく最中。
俺はふと、腰に巻かれたベルトの両側に、丸いボタンが二つ、左右それぞれに付いているのに気付く。
「こ、このボタンって……」
「流石は高井君! 左右のそこを同時押しする事で、バルバルチェンジが始動するという仕掛けです!」
「やっぱり、だと思った」
そして俺は彼女に促されるように、何気なく、左右のボタンへ両手を近付ける。
「……ば、バルバルチェンジ?」
勢いもなく、キレもなく、しかも謎に疑問形。
そんなボソッとした呟きと共に、俺は左右のボタンを軽く押してみた。
――その瞬間。
「うっ⁉ うわぁぁぁっ⁉」
バルギャーンギアは突如、車のエンジンが始動したような轟音を響かせ、同時に中心部の丸い透明パーツから、凄まじく眩しい光を放ち始める。
その強烈な光に俺は驚き、思わず腕で目元を覆った。
轟音と閃光は強さを増し、俺の全身はすぐに、激しい光の中へと包まれていく――
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