第3話
「佐倉さん、あの」
「はい! 戦ってくれるんですね⁉」
「いや、そうじゃなくて。もしかして、これ……ドッキリか何か、だよね?」
「え」
「佐倉さんの友達が、今もカメラで撮影とかしてて。運悪く俺は、そのターゲットにされただけ、みたいな……」
軽い調子で言いながら、俺は周囲を眺めてみる。
だが建物の陰、木々の近く、どこにも人の姿は見当たらなかった。
いや、だとしても。最初から俺自身、ドッキリの線を疑うべきだったのである。
クラスのマドンナである佐倉さんが、俺を呼び出し、二人きりで告白のようなシチュエーションを始める。
そんな都合の良い話、容易く起こるはずもないのだ。
これはドッキリ。佐倉さんはただ、誰かに頼まれただけの仕掛け人。
そして人影が無いなら、隠しカメラの可能性だってある。
そう考え、俺が再び辺りを見回そうとした、次の瞬間。
「……ひど過ぎます」
消え入りそうな呟きを耳にし、俺はすぐさま視線を戻す。
すると、そこには――辛そうな面持ちで俯いている、佐倉さんの姿があった。
彼女は気持ちを抑えるように、言葉を続ける。
「私、嘘なんかついてません……高井君ならきっと、戦況を変えてくれる。私たちの救世主になってくれると、本気で、思ったのに……!」
「えっ、ちょっ……さ、佐倉さん⁉」
彼女が見せた、予想外の反応。
その、あまりにも悲痛な表情を目にした俺は、大慌てでフォローを入れるしかなくなる。
「ご、ごめんって! 別に俺、何も佐倉さんを嘘つきだとか、そんな事は思ってないし!」
「では、信じてくれますか?」
「えっ、いや……それは、流石に」
「信じてくれないんですか⁉ これだけ全て、何もかも話したのに⁉」
「あぁ、もうっ! 分かった、分かったって! 信じる、信じるから。ホントに」
「……本当、ですよね?」
「ホントのホント。ギアとか、戦団とか、なんとか帝国とか。どれもマジに信じるから。もう絶対、オモチャとか演技だとか言わないからさ……」
必死になだめようとする、俺の気持ちが伝わったのだろうか。
佐倉さんはようやく、俺もよく知る平常時の、おしとやかな雰囲気に戻ってくれた。
それに俺は少し安堵し、大きな溜息をつく。
「……」
イマイチまだ状況が掴み切れていないが、それでも少し考えてみる。
佐倉葵――彼女はヤバい。
さっき俺は「猪狩のような」なんて言ったが、それは大きな間違いだったと、今は強く思う。
あの猪狩だって流石に、フィクションと現実との区別はついている。
あいつは大の特撮オタクではあるが、あくまで愛しているのは特撮番組なのだ。
現実にヒーローがいるとか、ベルトのオモチャで自分も姿が変わるとか、そんな事は流石に思ってはいない。
そもそも、そういうのが許されるのは、せいぜい幼稚園児くらいまでのはずだ。
それが当たり前、世の常識だと思う。
なのに、目の前にいる佐倉さんにはどうやら、それが当てはまらないらしい。
さっき俺がドッキリを疑った時、佐倉さんは分かりやすいくらいにショックを受けていた。
俺が変わらず追及していたら、最後には涙目になっていた可能性さえある。
それだけの「本気っぽさ」が、今の彼女にはあったのだ。
「何なんだ、これ……」
眼前に佐倉さんがいるというのに、俺の口からはそんな、疲れたような小声が漏れる。
「……つーか佐倉さん。こういう話、他の人にもしてるの? 戦団とか、例の、バルギャーンとかさ」
「いえ、それは全く」
「全く?」
「必要な場合を除き、戦団やノスフェル帝国に関する情報を外部に漏らすのは、協定違反なんです。だから私も、戦団のエージェントではありますが、普段は徹底して、一般生徒を装っています」
「ああ、そう……」
俺はぶっきらぼうに相槌を打つ。
既に、三十分ほど前の期待感やテンションは、もう殆ど失われている。
今俺の頭の中にあるのは、一刻も早くこの話を切り上げる方法、ただそれだけだった。
まあ、そのためには全否定しても始まらないのかもしれない。
ある程度、適当に佐倉さんの話に乗ってあげて、彼女をたっぷり満足させた方が、より早く帰宅できるような気もする。
なので俺は仕方なく、もう少しだけ、この「なりきりトーク」に付き合う事にした。
「とりあえず佐倉さん。まず、デカい質問、一つ良い?」
「はい、もちろんです。是非どうぞ」
「そもそもさ、何で俺を選んだの? 繰り返しになるけど、こういうタイプの話なら、絶対に猪狩の方が適任でしょ。あいつなら聞いた途端、任せろ……俺が世界を救ってやる! くらい言うだろうし」
「理由は単純ですよ。そのバルギャーンギアは、誰にだって扱えるような、簡単な代物ではないので」
「どういう事?」
「まずですね。ギアを起動するには、装着者が体内に、ギャーン因子を宿していなければ駄目なんです」
「ギャーン因子……」
「しかも、それだけじゃ足りません。魔甲戦士バルギャーンへの、完全なバルバルチェンジには、よりハイレベルな因子、ハイパーギャーン因子が必要不可欠なんです」
「……」
「高井君、どうかしましたか?」
「いや、さっきから出てくる固有名詞、全て死ぬほどダサいなと思って……」
「――私は特に、そうは思いませんが」
何食わぬ顔で平然と、当たり前のように言い切る佐倉さん。
正直ツッコミの一つも入れたくなったのだが、ここはあえて気持ちを胸にしまい、俺は更に話を続ける。
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