第2話
手に持ってみると、ケースは意外にも重量感があった。
何だろう、まさか鈍器や銃器でも入っているのか?
そんな戯言をボンヤリと考えながら、俺は上部の留め具を外し、ケースを開けて中を見てみた――のだが。
「……は?」
その瞬間、俺は完全に硬直していた。
ケースの中に入っていた物が、あまりにも俺にとって、予想外な代物だったからである。
いや。正確に言うなら、別に理解できないような物が入っていたわけじゃない。
グロテスクでも、エッチな物でもなく。
普通の高校生が持っていても、別にそこまでおかしくはない品物。
しかも俺は「こういった物」について、実は多少の知識があった。
友人の男子生徒である猪狩がよく、頼んでもいないのに、勝手に熱く語って聞かせてくるからだ。
問題は「こういった物」を、クラスのマドンナである佐倉さんが、俺に渡してきたという事実の方にある。
しかし、人は見かけによらない、とは言うものの。
まさか佐倉さんに、こんなガチっぽい趣味があったなんて……
俺は視線を上げ、恐る恐る尋ねてみる。
「さ、佐倉さん。これって……」
僅かな沈黙の後、俺は言葉を続ける。
「……今放送中の、オモチャか何か?」
「オモチャ?」
「いや! もちろん別に、佐倉さんの趣味を否定したいわけじゃなくて! ただ、佐倉さんからこんな、子供用ベルトみたいなの渡されたのが、正直メチャクチャ予想外で……」
そう。
ケース内のクッションにはめ込むように、丁寧に詰め込まれていた品物。
それは――いわゆる特撮番組で見るような、なりきりオモチャのベルトだった。
もちろん、俺の知る特撮知識など大したものではない。コアな特撮オタクである友人の猪狩に比べたら、きっと「ニワカ」と言われてしまう程度だと思う。
現在放送している番組のタイトルさえも、俺は具体的にはよく分からないくらいなのだ。
だが、そんな俺にだって何となくは分かる。
ケース内の品物は明らかに「そういう類のオモチャ」に違いなかった。
両手で持つくらいのサイズ感である、重厚な見た目の物体。
全体が青を基調とした派手なカラーリングで、中心部には丸い透明パーツが付けられている。
加えて、中心の透明パーツの周りにある、妙にトゲトゲとした無数の青い突起。
これはアレか? 丸いパーツの周囲で燃え盛る、青い炎のイメージか何かだろうか?
その他にも気付くというか、目に付く要素は山ほどあるのだが……まあ流石にこれ以上、語ってもキリが無いので、後は省略しようと思う。
要するに。ケースの中にあったのは――男児や大きなお友達が喜びそうな、いかにもカッコいい外観をした、ヒーロー的なベルトだったのである。
「というか佐倉さん。こういうのが好きなら、俺じゃなくて、むしろ猪狩を呼べば良いんじゃないかな?」
「猪狩君、ですか?」
「そう。あいつ、こういうオモチャとか番組にはホント詳しくてさ。自他ともに認める、超が付くほどの特撮オタクだから、きっと佐倉さんとも話が合うと思うけど」
俺がサラリと提案をした、その直後。
「あの、高井君」
「ん?」
「そもそも、オモチャではありませんよ。それ」
「えっ?」
「箱の中にあるアイテム、正式名称はバルギャーンギアって言うんですけど」
「ば、バル?」
「それは戦団が生み出した、退魔テクノロジーの結晶……人類最強の切り札とも言うべき、究極のガジェットなんです」
「が、ガジェット……?」
佐倉さんの口から出てくる、固有名詞の数々。
彼女の話を聞きながら俺は、内心割と困惑していた。
佐倉さんは明らかに、何らかの特撮番組の話をしているのだろう。ニワカの俺でも流石に、それくらいなら分かる。
だが、目の前の現実として分かってはいるものの。
正直、今もまだ受け入れがたい、という気持ちは強い。
佐倉さんが、あの猪狩のような、ガチめの特撮オタクだったという事実。
俺が脳内で思い描いてきた、憧れだった佐倉葵のイメージ像が、ガラガラと音を立てて崩れていくような気がする……
「じゃあ高井君。そろそろ、本題に入っても良いですか?」
「えっ?」
「ほら、伝えたい話があるって、ここに来る前に言ったじゃないですか」
「あぁ、そういえば」
「高井君を呼んだ理由は二つ。新型のバルギャーンギアを受け取ってもらうため。そしてもう一つ、とあるお願いを聞いてもらうためです」
「お願い?」
すると佐倉さんは俺を見つめ、恥ずかしがる事もなく。
予想外なくらいに堂々と、こう言い放った。
「高井君!」
「は、はい?」
「どうか、そのギアでバルギャーンとなり、私たち退魔戦団と共に戦ってはくれませんか⁉ 恐るべき悪の軍勢、ノスフェル帝国を倒すために!」
「……」
「高井君?」
「……」
その言葉に俺が呆然とし、空いた口が塞がらなくなったのは言うまでもないだろう。
佐倉さんは今、物語を演じている女優のように、心底ノリノリといった感じである。
私、こういう世界の住人なんです、と言わんばかりだった。
だが、そのテンションを目にした俺の脳裏に、ふと。
嫌な予感というか、疑念が一つ過る。
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