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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡七追記、通学路

 

 翌日、朝の通学路でこんな噂話が流れる。


「おい、高桑のやつ、捕まったらしいぞ……」


「そうなの!? 東商店街の方で逃げ回る高桑を見たって五組のやつが言ってたけど……」


「高桑なら、まだ逃げてるって話だよ。親父にアイツが行きそうな場所に心当たりはないかって聞かれたし……」


「ああ、齋藤の親父さんって浮島署の偉いさんだっけ?」


「偉くはねえよ。中間管理職だし、今じゃ警察なんて『宇宙開発公団・MD研究室』や『浮島区役所・特別事案対策課』より権限が低くて、何にもできねえって嘆いてたしな……」


『直居覚醒』から警察機構は役たたずのレッテルを貼られてしまっている。

『直居覚醒』を果たした怪物たちと言えど、元は一般市民であり、それが錯乱のために暴れているとなれば、超法規的措置を取る訳にもいかず、被害は拡がるばかりで、信頼は一気に崩れ去った。

 だからといって、治安維持を放棄する訳にもいかない、警察という組織は苦しい立場にいるのだった。


「……ったく、高桑のやつ、何やったって言うのよ」


 明里がイライラを隠すことなく、そう口にする。

 一緒に歩くのは剣道部のいつものメンバーだ。

 浅黄莉緒(アサギリオ)藍沢叶和(アイザワトワ)、一年生の吹田葵(フキタアオイ)、全員が竹刀袋を背負っての登校である。


 部活動は禁止中だが、明里と莉緒の発案により、護身用に持ち歩くことにしたらしい。


「高桑だからね……万引きしたとか、喧嘩したとか、どうせ馬鹿なことじゃない?」


 鼻をふん、と鳴らして莉緒が吐き捨てるように言った。


「……あの、せ、先輩!」


 それまで静かに歩いていた葵だったが、急に意を決したように声を上げた。

 

「どうしたの? 葵ちゃん?」


 気勢を上げる明里と莉緒をよそに、そういう話にあまり興味がなかった叶和が葵の話を促す。


「あの……その……私なんです……」


「ん? 何が?」


「高桑って人が追われてるのって、私が……その……」


「何? 高桑と何かあったの?」

 

 明里が優しく聞く。


「えっと、実は……」

 

 葵は随分と言いにくそうにしながら、つっかえ、つっかえで、消え入りそうになりながらも、何とか昨日の顛末を話した。


「くっ……高桑ぁぁぁああ……」


「明里、大きい声、出さない!

 葵ちゃんが困るでしょ!」


「ぐぬぬ……あのくそ野郎……」


 明里が激昂しそうになるのを叶和が諌める。

 この話が広められて困るのは葵だ。

 噂話になってしまえば、いらぬ尾ひれ背びれがつくのは目に見えている。


「それにしても、まさかあの橙里が助けに入るなんてね……義巳ちゃんと違って、暴力反対派だと思ってたけど……」


 莉緒が明里の意識を逸らそうと、橙里を話題に上げる。


「凄かったですよ、望月先輩!

 殴られて踏んづけられて……それでも食らいついて、ばーんってパンチ一発!

 それから、私の手を取って、逃げようって二人で走って……」


「おりょりょ? 葵ちゃん、もしかして……?」


 葵のキラキラとした話し方に何かを感じ取ったのか、叶和が悪戯っぽい目を向ける。


「……あ、いえ……その……明里先輩がいるのに、そういうことではなくてですね……」


「え? 私?

 いや、違う、違う……橙里とは腐れ縁なだけで、別にそういうんじゃないから……」


「え? 違う、んですか?」


「うん、違う、違う。

 あんな軽薄軟弱野郎なんて、私は別に……」


「そう……そうなんですね……」


 葵が俯いて、少しだけ嬉しそうに笑った。


「おいおい、いいのか、明里〜。

 そういうこと言ってると、葵が本気にしちゃうぞ?」


 莉緒がからかうように言う。


「いや、本当に違うってば!

 それに誰を好きになるとかは、相手の気持ちだって必要になる訳でしょ……」


「ほうほう……明里は自信あり、と……。

 葵ちゃんは接点少ないですし、頑張らないとですねぇ」


 叶和が面白がって茶化す。


「いや、本当に違うから!」

 

「でも、妹的とはいえ、葵は橙里から好き好き言われてるし、女子力もある。

 葵の方がワンチャンあるかもだよね?」


「だーかーらー!」


「まあまあ、橙里君の気持ち次第って言うなら、葵ちゃんが取っちゃっても問題なかろう、でしょ?」


「キーッ、なんで叶和はすぐそっちの方に話を持っていくかなぁ!

 それよりも、高桑が逆恨みとかするかもしれないんだし、ちゃんと身を護る方法とか探した方が良くない?」


「まあ、それは一理あるよなぁ。

 放課後にダメ元で部活できないか、もう一回話しに職員室行こっか?」


 莉緒は叶和ほど恋バナに熱心になれず、明里の話に乗る。


「そうですね、部活ができれば先輩たちと一緒に帰れますし、そうしたら怖い目に合うのも減りそうですし……」


 葵も思い出してしまったのか、身震いすると恋心は一度、棚に上げて、そちらの話に乗ることにしたようだ。


 そうして四人はかしましく通学路を歩くのだった。


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