魂鏡四六、白象巨人
藤井と猿渡。
白象巨人とガーゴイルが暴れ出した。
教室にいた生徒たちは、我先にと逃げ出す。
「誰か、生徒会長に報告して!」
明里は二人の戦いに意識を向けながらも、そう叫んだ。
「お前も『ムーンディスク』に選ばれてイタトハナ!
ダガ、弱いやつが選ばれたトコロデ、俺たちの仲間にはナレナイんだよ!」
藤井が尊大な物言いで、猿渡を見下すように言った。
「僕は黒木くんや望月くんの味方ダ!
テロリストの勧誘ナンテ、こっちから願い下げダ!」
猿渡が藤井の丸太のような腕を逆に掴んで、ガーゴイルの翼を動かす。
バサバサ、と教室中に暴風が吹き荒れる。
「きゃあ!」
明里は立っていられず、なんとか吹き飛ばされないように、身を低くするので精一杯だ。
「お前ミタイナ奴は、教室から出テイケ!!」
猿渡が藤井を掴んだまま、身体を回す。
翼の力を使い、白象巨人の身体を浮かせると、そのまま校庭の方に向かって砲丸投げのように白象巨人をぶん投げた。
白象巨人は教室の窓をブチ破って、校庭へと落下していく。
「アイツは僕がヤッツケル!」
猿渡は明里にそう宣言すると、今度はあまり暴風にならないように翼をはためかせて、白象巨人を追って空を飛んだ。
「猿渡くん!」
明里が叫んだ時には、既にガーゴイルは空の上、白象巨人に向かって急降下していた。
明里はどうにか立ち上がると、二人を追うため、廊下を走り出した。
明里が校庭に出ると、二体の怪獣がお互いの身体をぶつけ合って戦っていた。
見たところ、ガーゴイルは空からの一撃離脱を戦法としていて、白象巨人は防戦一方のようだ。
「黒木くんが高桑にケンカをふっかけナキャ、殴られてたのは藤井くんダロ!
黒木くんダッテ、好きデケンカしてたハズないじゃないか!」
「ソレガ、余計なんだよ!
僕は高桑の寂シサヲ埋めてヤロウとしてたんだ!」
「殴られて、一方的にイイヨウニ使われることで、寂しさガ紛レルとか、嘘言うナ!」
「僕ダッテ、ただ殴ラレタリナンカ、しない!
ちゃんと抗議シテタ!」
「ソレデ、止まらないから、黒木くんが割って入っタンダロ!」
「黒木は正義漢ブリタイだけだ!
高桑ニ勝てる体格がアルから、それをヒケラカシたかっただけだ!」
「ああもう……この、ワカラズ屋め!」
猿渡が、歩行者を狙うカラスのように、かぎ爪の付いた足でキックを見舞う。
藤井がいかに象の分厚い皮膚を誇っていようと、石のようなかぎ爪にガーゴイルの体重を載せて放たれるキックはそのまま食らう訳にはいかない。
丸太のような腕で頭を守るが、腕には深々と傷が付いた。
彼は王の中の王たる者の乗り物である。
故にこそ、彼もまた王の中の王なのだ。
そしてまた、彼には王の中の王たる者の分け身でもある。
そして、その性質は王の暗い部分、負の分け身という性質を負っている。
王たる者、神たる者、その身は善性に包まれているが、神の善とは独善に他ならない。
王ゆえに女を好き勝手に娶る。神ゆえに他者を試す。更に従わぬ者には鉄槌を下す。力ある者としての独善。
それが時に、他者に善性を疑わせることもあるが、それを一身に負うのが分け身たる彼の役割なのだ。
それでも、王の分け身。
王が呪いにより千の女性器を刻まれ、それを千の目に変えれば、その千の目を。
王が雷帝として、雷を武器とすれば、また彼も雷の武器を。
藤井が幻視と共に口にする。
「勇器来臨! 【独鈷杵】!」
先端が尖った手のひらに握り込める程度の金の棒。
それは雷を呼び込み放つ、雷帝の雷霆である。
「いつまでも飛べると思うなよ!
唸れ! 【独鈷杵】!」
藤井の握る金の棒に火山雷のように地中から雷が集まる。
そして、集まった雷は猿渡こそが避雷針だというように、一斉に猿渡を打った。
「ガ・ガ・ガ・ア・ア・ア・アッ!」
一瞬で猿渡は何十発という雷を食らって、ぶすぶすと黒い煙を噴き上げて、地に落ちた。
「そんな……猿渡くん……」
明里は電磁ネット砲を手に下げたまま、呆然とする。
そんな明里の呟きが聞こえたのか、藤井は、ゆっくりとそちらに目を向けるのだった。




