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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡四ニ、後始末


 榎田が目を覚ましたのは、瓦礫の中だ。

 幸いにも、大きな瓦礫に潰されたりすることもなく、五体満足だったのは救いだったのかもしれない。

 上の階の電灯が点いたり消えたりしていて、火花が散っている場所、何かのパイプがひしゃげていたり、冷却液らしきものが漏れている場所もある。


 ガラガラ、ゴドンッ、瓦礫を退かす音がして、そちらに視線を動かせば、汚い身なりの兎が鉄棒を梃子代わりに仲間を探している。


「……う、あ……お……」


 口を開こうとしたが、まともに発声できない。

 口の中が、じゃりじゃりする。


「ごふっ……ごふっ……」


 榎田は噎せた。


 ガラン、と音がして、兎人間が走って来る。


「榎田、さん?

 榎田さん!」


 兎人間が榎田を引っ張って、平面に寝かせてくれる。

 榎田が持ってきたリュックには、当然、水も入っている。

 兎人間はリュックを瓦礫から拾って来て、ペットボトルの水を榎田に含ませた。

 一、二度、口中の砂をうがいして吐き出してから、少しだけ水を飲んだ。


「……すまない。何がどうなった?

 ……皆は?」


 瓜生の腹から出てきた大蛇が暴れて、あちこちがめちゃくちゃになり、その余波を食らって榎田は吹き飛んだ。

 そこまでは覚えているが、そこから先は気を失ったのか、覚えがない。


「すみません……瓜生が暴れたのは分かるんですが、気がついたらこの状態で……怪我はなさそうなんで、少し休んでいて下さい。

 藍沢がまだ見つかってなくて……」


「う、うう……」


 呻き声に、榎田がどうにか身体を起こすと、人間に戻っていた下根が横に寝かされている。

 その横には、浅黄、黒木もそれぞれに人の体に戻って寝かされていた。


「や、やられました、ね、でゅふ……」


「下根くん、無事だったか!」


「無事、というか……瓦礫に埋まったまま変身が解けてしまい、潰されそうだったところを望月くんに助けられて、このざまです、でゅふふ……」


「そ、そうか……」


「自分の覚えている範囲ですが……大蛇が暴れて、上階が落ちてきて、辺りがぐちゃぐちゃになりました……浅黄さんを庇ったまでは良かったのですが、崩落が止まず、二人で生き埋めになりました……残念ながら、攻撃を食らいすぎていたようで、運悪く壊された魔凱の隙間から鉄骨が腹を貫通しまして……浅黄さんと二人で串刺しでした……そこから先は耐えられず……申し訳ない……でゅふ……でゅふふ……」


 下根の自虐的な笑いが虚しく響く。


「下根くんは動けるか?」


「いえ、不甲斐なくも、まだ力が入りません……でゅふふ……」


「いや、いい。もう少し休んでいてくれ……」


 榎田はそう言って、何とか立ち上がろうと踏ん張る。


「藍沢さんはたしか……この辺りで戦っていたと思うけど……」


 大蛇が暴れた時に逃げるなり、吹き飛ばされるなりしていれば、大きく場所がズレている可能性がある。

 だから、望月くんは離れた位置で耳をそばだてている。

 見れば、兎人間は立って歩いて、藍沢さんを探しているが、表面的には一番重症だったかのような格好をしている。

 腹に大穴の痕が見える。おそらく能力で塞いだのだろうが、大蛇の毒が身体から抜けていないのか、その肌は、じゅくじゅくと膿んでいて、その他にもあちこちに火傷や裂傷が生々しく残されている。


「望月くん。藍沢さんは僕が探す。

 まずは自分の状態を治して!」


 集中しすぎて聞こえていないのか、兎人間は幽鬼のように歩きながら、方々に意識を向けている。


「望月くん!」


 ピクリ、と兎人間が顔を動かす。

 それから脱兎の如く走る。

 未だ燃え盛る炎の壁を越えて、瓦礫を退かし、両手で穴を掘る。


 榎田も何とかそこに行こうとするが、炎の壁が邪魔をする。


「ダメだ、藍沢! 逝くなっ!」


 炎の壁の奥で、兎人間が虚空を殴っている。


 オーラを叩き戻すことで救える生命があるんです。

 望月くんに聞き取り調査をした時、そんなことを言っていたはずだと、榎田は思い出す。


 なにくそっ、と榎田も炎の壁に嬲られるのを厭わず、望月の傍らまで、どうにか走った。

 やはり変身が解けた藍沢がボロボロの状態で瓦礫に埋まっている。


「藍沢さん!」


 榎田も必死になって、瓦礫から藍沢を引っ張り出す。


 生きている。


 兎人間が虚空を叩くことで、少しずつ藍沢の顔に生気が戻っていくのが分かる。

 もう大丈夫だろうという所まで藍沢の肉体が修復されると、兎人間の肉は、ゲッソリと削げ落ち、白かった毛皮が、ポロポロと禿げていく。

 まるで、お釈迦様に食べさせる物が見つからないからと、自らの肉を差し出す兎のように、自身を削って他者を回復させているのだと、榎田はその時、ようやく気付いた。


「望月くん、もういい。もう大丈夫だ!

 全員、助かった。もういいんだ!」


 榎田は思わず望月を抱き留めた。

 そのあまりの軽さに、今、一番危ないのは彼だと思いながら、その動きを制止しようと腕に力を込めるしかなかった。




 ややあって、どうにか全員の意識が回復し、惨状を調べる。

 結果的に、シェルターブロックは無事で、その周辺が上階ごとぐちゃぐちゃにされていたことが分かる。

 シェルターブロックは放棄していったのだろう。

 十数人分の生活痕が発見され、中はもぬけの殻だった。

 浮島区の地下は広大で、全てを調べて回ることなどできない。

 だが、榎田は今回の急襲作戦で死者が出なかったことをまずは喜ぶことにしたのだった。



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