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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡三五、脱出


 天使を天使で撃破して、どうにか前方を安定して抑えられるようになった叶和と明里ではあるが、レッドオーガ高桑の投げる天使砲弾は当たれば一撃必殺の威力があり、常に注意を払わなければならない。

 高桑にすれば、天使砲弾は投げれば投げるほど有利になる。

 龍人に変身した莉緒が後ろに飛んで行った天使たちを処理しようと頑張っているが、天使砲弾として補充される天使の全てを一瞬で処理しきるのは、さすがに無理がある。

 天使たちの技量を大幅に上回っている剣道部の面々だが、天使たちもただの木偶(デク)(ボウ)ではない。

 一瞬の油断が命取りになることだってあるのだ。


「あー、もう! キリがない!」


 莉緒がまた一体の天使を斬り伏せて、それでも溜まる鬱憤と共に大きく息を吐いた。


「ハハハッ、ソロソロ疲レテ来タンジャナイカ?

 モット頑張ラナイト、オ前ラ、全員、酷イ目ニ合ウンダゼ!」


 高桑が舌なめずりをする。

 サディスティックでいやらしい笑みだ。


「クソサディスト野郎め! その内、絶対泣かす!」


 莉緒がそう吐き捨てる。

 だが、その一瞬の意識のブレが油断を招いてしまう。

 天使の剣を避けきれず、腕に傷を負ってしまう。


「ツッ……」


 本来ならば、これがただの剣だったならば、龍人の鱗に傷をつけるのは不可能だったはずだ。

 やはり、天使は油断していい相手ではない。


「莉緒!」


 明里がつい、莉緒のくぐもった声に反応してしまう。

 そうなると、今度は明里の意識の隙間を狙って、天使が突きを放つ。

 明里はなんとか突きを躱すも、次の天使の剣をいなしきれず、まともに受けてしまう。

 剣が竹刀を両断しないまでも、竹刀に大きくめり込み、天使の膂力で竹刀は巻き上げられてしまう。

 体勢を崩されるのを嫌って、明里は竹刀を放棄、慌てて莉緒のその場に置かれた竹刀を取って、どうにかそれを前に向ける。

 しかし、三人目の天使はすぐ側まで迫って来ていて、竹刀は大きく弾かれてしまう。


「明里、逃げるニャ!」


 叶和が悲鳴のように叫ぶ。


 だが、三人目の天使の剣は竹刀を弾いた余力をかって、明里の肩口を狙う。

 絶体絶命の危機。

 これだけの天使の群れを相手に良く保ったと言えば、実に良く戦った。

 仲間の怪我に意識を持っていかれてしまった。

 剣道の試合と実戦の多数対少数は違う。

 まあ、頑張ったよね、と明里は覚悟を決めた。


「どりゃあああっ!」


 明里の背後から聞こえた声と共に、別の天使が飛んで来る。

 明里を切りつけようとした天使は、その別の天使に巻き込まれて塩の固まりになってしまった。


「ヒーローは遅れてやって来る!

 ……間に合ったよね?」


 そこにはタックルをかました牛魔人と兎人間が立っていた。


「燈里!」


 明里は大きな声で叫んだ。


 兎人間、燈里は明里の横に並び立つ。


「ま、間に合ったよね?」


 燈里は、どきどきしながら明里の怪我の具合を確かめた。


「ギリギリすぎ!」


 明里はとりあえず文句を言って、手を伸ばした。

 その手を取って、燈里は明里を立たせる。


「トーリ、助けたの俺だぞ!」


 後ろで義己が文句を言った。

 明里は燈里の手を、ぺいっと投げ捨てて、義己へと笑顔を向ける。


「義己ちゃん、ありがとう!」


「お、おう!」


「いや、別に俺が間に合ったとは言ってないじゃん……」


 ちょっといじけたように燈里がぼやく。


「先輩! 大丈夫ですか!」


 義己の後ろから葵が顔を出す。


「葵、もしかして二人を連れて来てくれたの?」


「あ、はい。ぱっと思いついたのが望月先輩だっもので……」


「ナイス判断よ、葵!」


「よくやったニャ、葵!」


「え?」


「叶和ニャ! ついに覚醒したのニャ!」


「叶和先輩!?」


「あまりにセクシーなフォルムにビックリしたかニャ?」


「アンタの場合、ファニーじゃない?」


「あ、あはははは……」


 莉緒のツッコミに葵は笑って誤魔化した。


「それで、この状況は?」


 義己が冷静に聞いた。


「高桑を殴ろうとしたら、逃げられた先が悪の秘密基地だったのよ」


 疲れた顔で莉緒が答える。


「なるほどな……」


 義己は適当に天使を殴る蹴るして、どうしたものかと考えた。

 燈里は納得したように頷いて、手を挙げる。


「おーい! 高桑!

 義己っちに勝てない高桑〜!

 俺が相手になってやるから、タイマンしようぜ!」


 それは随分と軽い物言いで、今までの燈里しか知らない者たちからしたら、青天の霹靂のように響いた。

 高桑が悪さをして、それにケンカを売るのは義己というのが普通で、例え義己が不利だとしても、あくまで傍観者に徹するのが燈里の基本スタンスだったからだ。


「てめぇ、望月……俺から一度逃げおおせたからって、勝てるとでも思ってんのか!」


「楽勝だね! あの時は慣れてなかったからさ。

 ごめんな、野放しにしちゃって!」


 燈里は片手を顔の前に立てて、めんごめんご、と仕草で示した。


「……あ?

 天使ども、道を作れ。

 そこまで言うなら、来いよ! 相手してやる!」


 天使たちが人ひとりがちょうど通れる道を作る。


「おい、トーリ……」


「大丈夫だって、義己っち。

 もう昔の俺じゃないから。

 ……んじゃ、ちょっくら皆の分まで、高桑、殴って来るわ!」


「望月先輩!」


「ん?」


「が、頑張ってください!」


「おほう……勇気百倍! 兄ちゃんに任せとけ!」


 葵の精一杯の応援に、中々に気持ち悪い声をあげて応える。


「燈里、大丈夫なんでしょうね?」


 明里は懐疑的な目を向ける。


「おう、草食動物舐めんな!」


 燈里は明里の方を見もせずに、片手を挙げてそう言った。


 天使が空けた狭い空間を燈里は悠々と歩いて行く。

 高桑は剣呑な目を光らせて、今か、今かと待っている。

 あと少しというところで、燈里が走り出す。


「あ、トーリの奴、まさかまた……」


 義己が今、気付いたという風に頭を抱えた。

 燈里の売りは死なないことだ。

 特殊部隊との戦いの時も自分を犠牲にして、その危険性を義己たちに教えた。

 自己犠牲という言葉が義己の脳内を駆け巡る。


「トーリ!」


 義己が追おうとした時には、すでに天使たちの道は閉ざされた後だった。


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