魂鏡三四、尻尾
最下層、工業ブロックに通じるメンテナンス通路、中は複雑な迷宮のようになっていて、そこの一部を私物化、アジトとして使う『マナガルム』の一員と思われる高桑亮吾は、同じ高校に通う明里、莉緒、叶和の三人に追われてアジトと思われる辺りに逃げ込んだ。
しかしてそこは、敵の巣窟となっており、誰かの能力で生み出された天使が群れと化して襲ってくる要塞のような場所へと変貌を遂げていたのだった。
無数の天使の群れとレッドオーガとして覚醒した高桑に追い詰められてしまう剣道部の三人。
高桑の使う戦術、天使を砲弾として投げ込み退路を塞ぐ作戦によって、数の暴力という窮地に立たされてしまうのだった。
「明里、叶和、少しだけ前をお願い!
私が退路を作る!」
三人の中の唯一の覚醒者、龍人と化した莉緒が青龍偃月刀を手に前方の敵を一瞬、押し込む。
「悔しいけど、この数だもんね」
剣道部の後輩である葵を襲った高桑を許せない気持ちと彼我の戦力差を考えた時、明里は唇を噛んで、撤退を口にした。
「ううう〜、高桑みたいな馬鹿に馬鹿扱いされるとは……」
叶和も相当に悔しいのだろう。
莉緒と入れ替わり前方の敵をいなしながらも歯噛みする。
たが、そんな時だ。
叶和の中で変化が起こる。
ふっ、と身体が軽くなる感じがする。
お尻の辺りが、ムズムズして、辺りの音がやけに鮮明に聞こえてくる。
「うっ……なんニャ?」
顔が痒い。
それもそのはずで、叶和の変化は叶和の中だけに留まらない。
スカートが勝手に捲れ上がる。
「うニャ!?」
思わずお尻を抑える叶和。
その手にはたしかに毛を逆立て、戦闘態勢を取る尻尾があった。
「ちょっと叶和、私一人じゃ……叶和!?」
明里が驚きに目を見張る。
明里が見たのは、猫顔、猫尻尾という猫コスプレした叶和だった。
「あわわわわ……どうしニョ〜、明里〜!」
唐突に始まった叶和の変異、一番戸惑っているのは叶和自身だ。
「ナイスよ、叶和!
そのまま、直居覚醒、叫んで!」
莉緒は叶和を信頼しているのだろう。
暴走することはないと考えて、覚醒を促す。
「ニャ……『直居覚醒』!」
叶和が促されるままに叫ぶ。
ぞわわ、と叶和の腕に黒い毛が生える。
出し入れできる爪ができたのが分かる。
だが、変化はそれだけだ。
つまり、叶和の魂鏡に封じられた幻獣は猫人間ということだ。
叶和の魂が震える。
蹂躙せよ。本能が命じるままに。
まさしく猫が鼠を追い詰めて遊ぶように、動くもの全てに手を出す。
一瞬で天使たちは総崩れになる。
しかし、猫人間に覚醒したものの、叶和にあるのは俊敏に動く身体と猫爪程度のもので、その猫爪でどれだけ天使を引っ掻いても、天使たちは、オオーーー! と叫ぶばかりでダメージが与えられない。
「分かった! 莉緒がやってたあれニャ!
勇器来臨ニャ!
……あれ? 勇器来臨ニャ!」
『直居覚醒』が文言だけで使えるのなら、『勇器来臨』も文言があればいいと考えた叶和だったが、それはそうはならなかった。
立ち直った天使たちの猛攻を、ひょいひょいと躱しながら、武器よ出ろ、と念じたが、それは無駄に終わってしまった。
叶和が「なんで、出ないのかニャ〜?」と悩んでいると、レッドオーガ高桑の投げる天使砲弾が直撃しそうになる。
それを本能的に避けた叶和だったが、はたと気付く。
「同じことをしてやればいいニャ……」
ニヤリ、とした暗い笑みを見せて、叶和は天使の一人を引っ掴んだ。
もちろん、天使も高桑の時と違って、されるがままに投げられたりはしない。
だから、叶和は天使の腕を引っ張りながら回転した。
遠心力で動きを操られた天使は、ハンマー投げのハンマーとして飛んだ。
「飛んでけニャー!」
叶和が投げた天使は、残念ながらレッドオーガまでは届かず、別の天使にぶつかって砕けた。
そう、音を固めた物質は、同じく音を固めた物質ならば傷つけられる。
天使は天使によって倒すことが可能なのだ。
「ふっふっふ、さすが私ってば、天才なのニャ!」
叶和が次の天使を掴んで回る。
苦戦しながら、どうにか相手を押し返している明里の目の前にいる天使に天使をぶつけてやる。
同時に二体の天使が砕けた。
「叶和、凄い!」
「任せろなのニャ!」
しかし、多勢に無勢、劣勢なのには変わりがないのだった。




