魂鏡三三、帰路
「いや〜、びっくりだったね。
まさか、あんなことになってるとは……」
帰路、叶和が辺りに目配せしながらも、やはり話題は竹井先生のことになってしまう。
「でも、どうしたらいいんでしょうか?
匿うにしても、限度があるでしょうし……」
葵は不安を隠せないようで、そんなことを口にする。
それに答えるのは莉緒だ。
「私の方で研究室に話しておく。
先生の心が決まるまでは、先生のことは黙っておくけどね」
「そういえば、何かトラウマでも抱えてるっぽいけど、莉緒は何か心当たりがあるの?」
そう聞いたのは明里だ。
「あー、なんとなくはあるんだけど、確信がない内は何も言えないから、悪いけど聞かないでいてくれると助かるかな……」
「むむむ……まあ、莉緒がそう言うなら……」
「ん……アイツは?」
明里がどうにか納得しようとした時、莉緒が急に足を止めた。
大きな体で偉そうに肩で風を切って歩く男は、ダウンジャケットにジーパン姿だが、たしかに記憶に引っ掛かる。
「わぶっ……莉緒、急に止まらないでよ」
「どうしたんですか、莉緒先輩?
あ……」
後ろを歩いていた叶和と葵が、何事かと莉緒の視線の先を見た。
男はちょうど道を曲がろうとしていたところで、それを見た葵は、ぞわぞわと薄ら寒いものを感じて、動きを止める。
「ん? 何?」
明里が遅れて、三人が止まったことに気付いて、振り返った。
莉緒の眦が瞬間的に吊り上がる。
走り出すと同時に叫んだ。
「たぁーかーくーわぁー!!」
「ちょ!」「莉緒!」「先輩!」
それは高桑亮吾、明里の学校に来なくなったクラスメイトで、図書室で葵を襲った張本人だ。
見つけたら殴る。そう決めていた莉緒は、すでに猟犬モードだ。
鞄を放り出し、竹刀袋だけ持った状態で一気に駆けて行く。
高桑が気付いた。
自身を追う人間を目の当たりにして、本能的に逃げ出した。
「待て、コラ、高桑ぁぁぁっ!」
高桑は燈里の通報によって『浮島区役所・特別事案対策課』と『宇宙開発公団・MD研究室』から指名手配されている身だ。
逃げ出すのが当たり前といえば、当たり前だ。
高桑は体格に優れているが、運動が得意という訳でもない。
剣道部員の莉緒、明里、叶和に追われては、その差は、グングンと詰まる。
襲われた恐怖心と莉緒の荷物を拾って追う葵は少々遅れ気味だが、高桑が追い詰められているのに変わりはない。
逃げる高桑は、それでもなんとか東商店街端の建設途中のビルへと入った。
「逃がすかっ!」
高桑を追って、莉緒、明里、叶和がビルへと突入する。
「ここって……」
一人、冷静になった葵が止まる。
そこは竹井先生の証言にあった、『マナガルム』の東アジト入口だ。
あれだけ入るなと言われていたのに、問答無用と突入した三人を尻目に、葵は足が動かなくなるのだった。
高桑は三段飛ばしで階段を駆け下りる。
踊り場を回ったところで、ぱーん! と明里の投げた竹刀が踊り場で転げ回った。
あと数瞬早ければ、高桑の足に絡まった竹刀によって、高桑は転び、取り押さえられていただろう。
「ああ、もうっ!」
明里が悔しそうに竹刀を拾って、また走り出す。
高桑は地下階、スチール製の扉を開けて飛び込む。
そこは更に下へと続く階段だ。
「馬鹿が! 地獄に連れて行ってやるぜ!」
高桑は誰に追われているのかも分からず、そう言ってメンテナンス通路を進む。
そうして走った少し先、『警備詰所』と書かれた扉に飛びつく。
少しもたついたその時、莉緒と叶和が目の前に止まった。
少し遅れて明里もやって来る。
「高桑っ! ウチの部員を襲ったこと、後悔させてやる!」
莉緒が高らかに宣言する。
「あ? なんだ、剣道部の筋肉女たちかよ……。
まあ、いい。俺を追ったことを後悔させてやるぜ!」
言って高桑が『警備詰所』のドアを開ける。
「出て来な、仕事だぜ!」
『警備詰所』から出て来たのは、この場にはそぐわない不思議な者たちだった。




