魂鏡三二、竹井の証言
一旦、四人は竹井先生を匿うことにした。
本来ならば区役所なり、MD研究室なりに通報して、そちらで保護してもらうのが正道ではあるが、本人が嫌がっている状態であまり刺激したくないというのが総意だ。
「明日にはもう少しまともな食事を持って来ますから、今日のところは皆のおやつで凌いで下さい。
飲み物は、今、葵ちゃんが自販機に行ってくれてるのでそれでなんとかなると思います」
明里が今後の方針を決める。
叶和は用具室を物色して、運動マットやらタオルを集めて来た。
「寝づらいでしょうけど、床よりはマシだと思います」
「それで先生。先生が拉致された場所についてなんですけど、何処だったか覚えてませんか?」
莉緒が聞く。
「あ……いや、あそこは本当に危ないんだ……君たちだけで行かせる訳には……」
竹井先生が狼狽えながらも、なんとかそう口にする。
だが、それを遮るように明里は何ら隠すことなく、全てを説明する。
「ええと……竹井先生には残念なお知らせかもしれないんですが、生徒会の取り組みで『ムーンディスク』保持者を中心にした『覚醒風紀委員会』というのが組織されまして、私と浅黄はそこのメンバーになったんです。
さらに言えば、浅黄は『MD研究室』にも所属していまして、もちろん、『MD研究室』には竹井先生の意向に最大限、沿う形にしますが何らかの報告は行くと思います」
「な……そんな……」
「『ムーンディスク』保持者になって苦しんでるのは、竹井先生だけじゃないってことです。
まあ、私は今のところ覚醒のかの字もないんで、心中お察しするのも限度があるんですが、『ムーンディスク』保持者になった生徒たちも、それなりに前を向いて進んで行こうとしてるところなんです」
ウンウン、とひとり勝手に納得したように明里が話す。
竹井先生は『魂降りの災禍』から休職してしまっているので、流れに着いて行けてないのが明らかだった。
ずい、と莉緒が身を乗り出す。
「竹井先生が望むのでしたら、『MD研究室』は竹井先生の事情を考慮しての保護もしてくれるとは思いますよ。
警察でも司法でもないんで、そこら辺は融通が効くんだそうです。
ただ『マナガルム』については、今、浮島区全体のトピックになっているので、なるべく早急に対処しないと、浮島区全体がテロ組織扱いされる可能性もあるんです。
何か知っているなら教えていただけませんか?」
「お、俺は……俺は……」
莉緒はそれこそ察しがついていますという風な話し方で、それゆえに竹井先生の混乱は深まる。
しかし、竹井先生の口から「人を殺した」と言わない以上は叱責も慰めも口にはできない。
竹井先生は疲れたように俯いて、ぼそぼそ、と場所を示した。
「東浮島商店街の端、建設途中のビルの地下に、最下層工業ブロックに通じるメンテナンス通路がある……その途中にある、普段は使われていないシェルターブロックを改造した場所を、東のアジトと呼んで使っていた……」
「シェルターブロック……そんなのがあるんだ……」
明里が驚きと共にそう口にした。
「シェルターは聞いたことないけど、浮島区の地下は迷路みたいになってて、動力がうんたら、浮力がなんたらって色んな部屋が、それこそ街ひとつ分くらいあるってお父さんが言ってた」
叶和の父親はメガフロートの補修作業員として浮島区に住んでいる。
そこから得た知識なのだろう。
「まあ、浮島区って超大型豪華客船の超超超超超大型版って感じだから、階層がいくつもあって、私たちが知らない場所もたくさんあるしね。
そういう場所があっても不思議じゃないかも」
莉緒がひとり頷いている。
「それにしても、よくそんな場所から逃げ出して来られましたね。
竹井先生ってそういうの詳しいんですか?」
何気なく明里は聞いただけだが、竹井先生は頭を抱え込んだ。
「……知らない。アイツらがそう言ってただけだ……俺は、仲間になったフリをして、自由になった瞬間に走り出した……無我夢中で走って、とにかく上を目指したら、出られたのが知っている場所だっただけだ……」
「ああ、そういう……」
そんな話をしていると、葵が手に何本ものペットボトルを抱えて戻ってくる。
「お待たせしました!
何がいいか分からなかったので、とりあえず色々買って来ました!」
四本のペットボトルが並ぶ。
「じゃあ、今日のところは帰りますね!
また明日、今くらいに来ますから」
明里が言うのに、竹井先生が声を掛ける。
「お前たちだけで行くなよ……アソコには恐ろしいヤツがいる……」
「行きませんよ。
『ムーンディスク』保持者の暴走は何度か見ましたからね。無茶はしません!」
「あ、ああ……」
では、失礼します、と挨拶して四人は帰路に着くのだった。




