魂鏡二八、指名手配
「政府報道によりますと、先日から繰り返し起こっているウイルス感染者による怪物化の暴走は悪化の一途を辿っており、浮島区と各都県を繋ぐ橋の封鎖をより強固なものにせざるを得ないとの見解を出しているようです」
テレビではここに来て一気に報道が加熱してきている。
昼日中から大量の銃弾が撃たれる音が橋の向こうから聞こえて来るのだ。
暴徒化したウイルス感染者を一方的に撃ち伏せる、日本のヒーロー自衛隊の活躍をここぞとばかりに各報道機関が喧伝した。
実際に何が起こっているのかは、どうでも良く。
危険区域と化した浮島区を、支援しつつも封じ込めに成功しているという事実こそが大事なのだった。
「派手にやれるようになって来たじゃあないの」
馬面の男がネクタイを結びながら、ほくそ笑む。
「『マナガルム』ね。どうにか土俵に立ちたくて必死なのも、かわいいね……。
力がありながらも、出し惜しみして、浮島区で票集めってことは狙いはディスクかな。
もしかして仲良くなれる道もあるのかねえ」
クローゼットに備え付けの鏡で、ネクタイに乱れがないのを確認して、馬面の男が振り返る。
そこには秘書らしき男が控えていて、盆に載せた腕時計を差し出している。
その腕時計を嵌めながら、馬面の男は続ける。
「三人は分かっているんだよね?」
「はい。犬塚信二という高校教諭、田丸連三郎はロケット整備士で、白鳥彩という女性はホステスです」
「いいね。ロケット整備士辺りから崩せないか、やってみてもらえる?」
「かしこまりました」
秘書らしき男が頭を下げる。
「さあて、今日も国民のために働かなくちゃ!」
謎のガッツポーズを決めて、人好きそうに相好を崩すと、馬面の男は首相官邸を元気に出ていくのだった。
学校内では『マナガルム』の噂で持ち切りだった。
元々の不良グループとしての『マナガルム』を知る者は、なんとも複雑な顔をして、今の『マナガルム』がやっていることを初めて見た者は、これで何かが変わるかもしれないと期待に目を輝かせる者もいれば、余計な刺激を起こしたことを非難の眼差しで見る者もいる。
「黒木くん、『マナガルム』のニュースは見た?
自衛隊に撃たせまくって、自分たちは攻撃しないで主張だけ残してる。
今はテロ組織扱いだけど、世間がその正義に気付くのはもう少しって感じがするんだ」
「猿渡……お前は流されやすい性格してんだから、気をつけろよ。
あの『マナガルム』が瓜生の作った『マナガルム』だとしたら、絶対にろくなことしないからな」
「でも、政治経済担当の犬塚先生が前面に立ってるんだよ。
何か変えてくれそうじゃない?」
「まあ、たしかに変化はあったよな」
義己と猿渡の会話に割って入ったのは燈里だ。
「そうだよね! みんなの心に希望という……」
「封鎖がより強固になった」
「たしかに……今度は対戦車ロケットとか配備されるって噂だしな」
「あ、いや、それはそうなんだけど……」
「犬塚先生の主張も、何か変なんだよな……。
打倒、現行政府って言う割に、具体的な政策は言わないし、みんなを助ける的なことを言う割には、自衛隊を挑発してるだけに見えるし……」
「でも、助けるためには数が足りないとか……」
「あ、分かったかも知れねえ!
つまり、猿渡みたいに流されやすい奴らを勧誘するのが目的じゃないのか?」
義己が思いついたと言う風に、手を叩いた。
「うん、可能性は高いと思う。
それに犬塚先生の言葉の中に選民思想が垣間見えるのも、そういう目的ならわざと言ってる可能性もあるね」
「あ〜、うんうん、そう、僕もね、選民思想的な言動は怪しいなと思っていたんだよ!
政治経済に詳しい先生が『ムーンディスク』に選ばれた方が偉い的な言い方をしているのは、なんか違和感残るなって……」
猿渡は3回転半着地で綺麗な手の平返しを決めた。
「そういうとこだぞ、猿渡……」
義己は小さなため息を吐いた。
「いや、猿渡は素直なんだよ、まっすぐ言葉を聞き入れてしまうというか……」
「うん、素直なのがお前の取り柄だって家族にもよく言われる」
「まあ、『マナガルム』なんて名前で瓜生が関わっていないとは思えないからな。
特に猿渡は勧誘とか気をつけろよ」
「いやあ、僕なんて『ムーンディスク』の制御もまともにできないし、勧誘が来るとは思えないよ」
猿渡が目の前で手を、ナイナイ、と振りながら満更でもなさそうに笑う。
だが、その制御できない部分こそが『マナガルム』に狙われると知っている義己はつい、言いたくなってしまうのだ。
「そういうとこだぞ、猿渡……」
もっとも、義己は猿渡に制御方法を教えるつもりはない。
それは義己の暗い部分を晒すことになる上、素直な猿渡ゆえに、業を背負わせたくないと思うからだ。
「え、どういうとこ?」
やはり素直な猿渡は意味が分からないと頭を捻るのだった。




