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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡二七、胎動


 浮島東、東浮橋入口付近、街頭座り込みデモでのことである。

 東京都二十三区内と浮島区を繋ぐ橋を渡りたい者たちが集まる場となっている東浮橋入口付近。

 橋一本渡れば、当たり前の人々が当たり前に暮らす都内に入れる。

 しかし、その橋一本が渡れないもどかしさ。

 日に日に人は増える一方で、その橋を封鎖する自衛隊の物々しさも増すばかり。

 橋の中は鉄条網が引かれ、土嚢が積まれ、自衛隊の兵員輸送トラックとキャンプ地が作られ、防疫服に身を包んだ自衛隊員が入口を塞いでいる。

 ほんの奥にあるキャンプ地では、顔を晒して飯を食う姿すら見えるというのにだ。


「国家の横暴を許すな!」


「「「許すな!!!」」」


「ウイルス説は悪質なデマだ!」


「「「デマだ!!!」」」


 堪え切れなくなった年老いた女が、座り込みの中から飛び出す。


「お願いします……調べて貰えば分かるんです!

 ウイルスなんて持ってません!

 『ムーンディスク』だって触ってないんです!

 あの日は家で炊事をしていただけで、家から一歩も出ていないんです!

 あなたたちだって、本当は分かっているんでしょう?

 なんで、私たちだけいじめるんですか!」


「下がりなさい!

 ここは封鎖中です……」


 もう何度も繰り返されている光景だ。

 自衛隊員たちも、連日同じような問答をしていれば、辟易して次第に慇懃無礼な態度にもなっていく。

 初期の頃はもう少し人道的に、我々にはそれに答える権限がない。だが、上申はしておく、くらいの受け答えもあったが、数カ月に渡る座り込み、非難の声、上申しても全て規則厳守、何も教えられないまま、浮島区民とその日、浮島に居た人々を封鎖し続けなければならない現状、ウイルスが蔓延しているはずの浮島区から百や二百メートルの距離で設置されたキャンプ地、様々な要因が、座り込みデモをする者たちと自衛隊員たちの鬱屈を溜めていった。


 その場に居る全員が矛盾に気付いていて、何もできない現状。


 運悪く、『ムーンディスク』保持者が暴走することもある。

 今までの暴走者たちは『魔凱着奏(マガイチャクソウ)』を使える者がなく、怪物に対しては銃器の使用が許可されている為、鎮圧も可能だったが、その日は違ったのである。


 座り込みデモの中から一人の若者が立ち上がる。

 その若者は橋の奥、都内に向けて指を突きつけると、その手をそのまま上に向けて宣言する。


「我々は『ムーンディスク』によって選ばれた古代超越種の魂を受け継ぎし者……『マナガルム』である。

 我々はここに現日本政府の腐敗と欺瞞と偽りに満ちた政治体制に義憤を持って立ち上がることを宣言する!

 打倒! 現行政府! 超越種たる我々が断罪の裁きを下すものなり!」


「現行政府に裁きを!」「断罪の裁きを!」


 若者に続いて、壮年の男性、二十代と思しき女性が同じく天に指を突きつけて立ち上がる。


 座り込みデモの人々は驚いて、三人を見つめる。

 三人は同時に腕を降ろすと、自衛隊員たちを睨みつけた。


 自衛隊員たちも危険を感じ取ったのか、腰に下げた暴徒鎮圧用の電極式スタンガンを向ける。


「そこの三人、下がれ!

 我々には暴徒鎮圧の用意がある!

 一歩でも近付けば、撃つ!」


 若者は鬼の首を取ったように笑う。


「見たまえ、諸君!

 暴力による脅しが当たり前のようにまかり通る……これが法治国家、日本の現状だ!

 現行政府が腐り、その末端すらも考えることを放棄して命令に従うだけの腐臭を放つ!

 本当の意味での法治国家など成立しないのだ!」


「黙れ! それ以上は国家安全保障に抵触すると見なすぞ!」


 一触即発の空気が流れる中、若者は緊張を解いた。

 それから、気楽に、当たり前のことのように足を前に踏み出した。


「警告はしたぞ!」


 バスンッ! とスタンガンの電極が撃ち出される。

 若者は呻きながら、前のめりに倒れた。

 他の二人は大した動揺も見せず立ち尽くし、群衆は、わっ、とその場から離れた。


 電極の電源が切れるまで、若者の体は小刻みに震え、それが収まるとどうにか立ち上がろうと藻掻く。


「ふ……ざ……ける……な……。

 こんな……程度で……より強い者が……意志を押し通せる世の中だとしたら……俺たちこそが……」


「「「魔凱着奏!!!」」」


 三人が叫んだと同時に、自衛隊側が土嚢に隠していた兵員を一斉に動かした。


「怪物化、確認!

 火器使用を認める!

 各個人の判断で射撃してヨシ!」


 若者は黒い犬男のような姿に、壮年の男性は沼男だろうか、もしかすると泥田坊かもしれないが、土くれの肉体に目だけが浮き出る姿となり、女性は見たことのない怪鳥へと変じていく。

 そして、三人ともがその全身を鎧のようなもので包んで立っている。


 銃声が響く。

 足や腕など末端を狙った無力化目的の銃撃だ。


 リィィィン、キーーーン、コーーーン、とそれぞれに別の音を発しながら、三人の鎧は銃弾を止めた。


「無駄ダ……現行ノ兵器群デハ、コノ鎧に触レルコトスラ不可能ダト知レ……」


 何発、何十、果ては何千発という銃弾が三人に向けて撃ち込まれるが、それらは全て何かの壁に阻まれるように、鎧に当たる直前で止まり、ボロボロと下に落ちた。


「今ハマダ、ココニ居ル人々を守ルニハ戦力ガ足リナイ。

 ダガ、確実ニ同志ハ増エテイル。

 心シテオクコトダ。断罪ノ日ハ近イゾ……」


 泥田坊の体から、泥が溢れ出し、他の二人を包み込むとそのまま地面に馴染んで消えていった。



 その日から、『マナガルム』を名乗る『ムーンディスク』保持者たちはそれぞれの橋に現れては、打倒現行政府、とプロパガンダを打っては隠すことなく変身、しかしながら、誰も傷つけることなく去っていく。

 少しずつ、だが確実に『マナガルム』の認知度は上がっていくのだった。

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