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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡二〇、オフィス街の捕物

 

「ちょっとよろしいですか?」


 ︎︎男性実務員がびしょ濡れの釣り男の肩を叩く。

 ︎︎釣り男は、大事そうにクーラーボックスを抱えたまま振り返るが、実務員のツナギを見た瞬間に案の定、逃げ出そうとした。

 ︎︎しかし、その時には少し前の曲がり角から出てきた燈里ともう一人の男性実務員が道を塞ぐ。


「なんだ、てめえら!」


「悪いがそのクーラーボックスの中身を改めさせて貰う」


「ふざけんな、なんの権利があって、お前らに見せなきゃいけねえんだ!」


「ムーンディスクがあった場合、その所有権は我々、宇宙開発公団にある!」


 ︎︎声掛けをした実務員は、クーラーボックスの肩紐に既に手を掛けている。


「触るんじゃねえよ、コノ野郎!」


 ︎︎釣り男はクーラーボックスを抱えたまま、身体を捻り、勢いで背負っていた釣竿袋が実務員に当たる。


「痛っ……」


「貴様っ!」


 ︎︎他の実務員が釣り男を取り押さえにかかる。

 ︎︎釣り男は抵抗して逃げ出しそうにしていたが、実務員二人がかりでは逃げ出すことは敵わない。


「くそっ……俺を怒らせんじゃねえ!

 俺は……俺は!」


 ︎︎揉みあっている内に、ついに釣り男はクーラーボックスを取り落としてしまう。

 ︎︎偶然か必然か、クーラーボックスはパンドラの箱よろしく、その蓋を大きく開けた。

 ︎︎転がり出るのは『ムーンディスク』だ。


「あっ!」


 ︎︎その場に居る誰もが思わず手を伸ばそうとして、釣り男以外の全員が、一瞬だけ躊躇した。

 ︎︎『ムーンディスク』は素手で触ってはいけない。

 ︎︎直居教授からの薫陶である。

 ︎︎釣り男は知っていたのかもしれないが、失念したか、元々危機意識がないのか、とにかく躊躇せずに『ムーンディスク』へと手を伸ばした。


 ︎︎『ムーンディスク』は釣り男の手の中に、文字通り消える。


「くそっ!」


 ︎︎釣り男もクーラーボックスに入れて持ち帰ろうとしていたくらいだ。

 ︎︎自分が『ムーンディスク』を体内吸収するのは予定外なのだろう。


「なんなんだよ!

 俺の計画が台無しじゃねえか!︎︎」


「計画?

 その辺りの話は研究室でゆっくり聞かせてもらいます。

 大人しく着いて来て下さい」


 ︎︎実務員の一人が時間を稼ぐようにゆっくりと話す。

 ︎︎実際、これは時間稼ぎに過ぎない。

 ︎︎班長である高見がもう一人の実務員と覚醒を解いた莉緒を車に乗せて、こちらに来る手筈(てはず)で、それはもうすぐにでも到着することになっているからだ。


「誰がお前らの実験動物になんかなるか!

 なお……︎︎」


「止まりなさい!こちらはMD研究室です!

 ムーンディスクの不当使用は刑務所行きですよ!︎︎︎︎」


 ︎︎MD研究室のバンから、スピーカー越しに高見が叫ぶ。

 ︎︎状況は燈里からの無線で把握していた。

 ︎︎刑務所はなくとも、言葉のあや、というのがある。


 ︎︎バンから降りた実務員はネットランチャーを装備しているし、莉緒も他の実務員に渡すべくネットランチャーを担いで降りて来る。


「畜生が!誰が捕まるか!

 直居覚醒!︎︎︎︎」


 ︎︎釣り男はそう叫ぶと変異していく。

 ︎︎サイズはあまり変わらないらしい。

 ︎︎しかし、頭の皿、口から生える乱ぐい歯、ぬめりのある肌は緑に変色していき、手には水かきができていく。

 ︎︎そう、河童である。


「お、お、おおおぉぉぉぉっ……分かる……分かるぞ……なんだ、簡単なことじゃねえか、瓜生の奴、俺が欲しいモノを選んでやるとか言っておいて、コレじゃねえか!」


「瓜生?もしかして瓜生(ウリュウ)(ハジメ)?︎︎」


 ︎︎燈里がその名を口走ったのは、それしか知らないのもあるが、なんとなく嫌な予感がしたからだ。


「なんだよ、もうそこまでバレてんのか……もう関係ねえ、と言いたい所だが、ついでだ。

 口封じくらいしてやるぜ!︎︎」


 ︎︎釣り男が剣呑な瞳を燈里に向ける。


勇器来臨(ゆうきらいりん)、【宿禰締込み(すくねのしめこみ)】!」


 ︎︎腰を落とし、片手を地につけるかつけないかの所で、気合いを溜める。

 ︎︎腰の周りに注連縄が回って、ふんどしになる。


 ︎︎じり、と釣り男の意識が研ぎ澄まされていくのを感じる。


「放て!」


「はっけよい!」


 ︎︎それは同時に起こった。

 ︎︎実務員たちのネットランチャーが釣り男だった河童にまとわりつく、河童は河童で尖らせた意識の先、不要な発言をした燈里に向けて相撲タックルを放つ。

 ︎︎ネットランチャーは激しく放電して、河童の動きを止めようとしたが、時すでに遅し、燈里はもんどり打って吹っ飛ばされた。


 ︎︎河童もネットランチャーの放電を全く意に介さない訳ではなく、燈里を吹き飛ばしたまでは良かったが、放電を食らって、めちゃくちゃに暴れた。


 ︎︎そうなると、実務員たちもタダでは済まない。

 ︎︎ネットランチャーの肩掛け紐ごと引き摺られて、総崩れになってしまう。


 ︎︎一方、その吹っ飛ばされた燈里はといえば、たまたま停めてあった乗用車のフロントガラスに後頭部から突っ込み、血塗(ちまみ)れの姿を晒していた。


「きゃー!」「うおっ、なんだ!?」


 ︎︎フロントガラスの破砕音で周囲の人々の耳目が集まる。


「望月……っ!

 よくもやってくれたわね……︎︎」


 ︎︎それを見ていた莉緒の闘志に火が着いた。


「この変態ずぶ濡れ男……私が相手よ!

 直居覚醒!︎︎」


 ︎︎莉緒が一瞬で龍人へと変異する。


 ︎︎仕事帰りの人や座り込みを終えた人々の雑踏の中、河童と龍人という異質な化け物同士が睨み合う。


「ひぃー、化け物!」「助けてー!」「くそ、こういうヤツが暴れるから、島に閉じ込められるんじゃないのか……」


 ───皆さん、落ち着いて現場から離れて下さい。

 ︎︎こちらは『宇宙開発公団・MD研究室』です。

 ︎︎現在、暴走ムーンディスク保持者の拘束・沈静化に向けて、活動中です。

 ︎︎繰り返します……───


 ︎︎MD研究室のバンから放送が流れる。

 ︎︎高見班長の声だった。


 ︎︎じり、と放電を耐えきった河童が逃げ出しそうに動けば、莉緒が逃がすまいと、そちらに身体を向ける。


「ちっ……もうお前らに関わりたくねえんだがな!」


 ︎︎河童は莉緒の視線をどうにか外して、逃げ出したいのが分かる。

 ︎︎分かるだけに、莉緒は絶対に逃がさないと河童の一挙手一投足に集中している。


「逃がしてくれねえなら、覚悟しろよ……」


「アンタがね!」


 ︎︎河童が腰を落としたのを見て、莉緒は硬く拳を握った。



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