魂鏡一八、レッドキャップ
︎︎生徒会長、楠木による校内放送が鳴り響く。
「覚醒風紀委員会、生徒会執行部、各員は捕獲フル装備の上、各教室待機!
暴走者は赤い帽子に体長八十センチほどの白髭の小人の姿をしている。
力は強く、俊敏な動きで壁をすり抜ける。C棟三階を暴れながらB棟へ移動中。
暴走者は女子の衣服を破くことに異常な執着を示している。
女子生徒は赤い帽子を見かけたら、逃げるように!
繰り返す。女子生徒は赤い帽子を見かけたら、逃げるように!︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎」
︎︎燈里たちのクラスでは、燈里、義己、明里の三人が教室隅に置かれた鋼鉄製の鍵付きロッカーからネットランチャーと短銃型の麻酔注入器を出して、装備していく。
「女子の衣服を破くだとぅ!」
「うらやま、許せんやつめ!」
「まさか、ウチのクラスに来るなんてことは……」
︎︎クラス内のバカな男たちは、女子に向けて妄想を膨らませながら、ジロジロとした視線を向けている。
「皆、タオルとか体操服とか持っている人は準備して!
危なくなったら、それで隠せるように!
それから、男子はバカなこと考えたら、ぶっ飛ばす!
女子全員で、後で吊し上げるから、危なくなったら目を逸らしなさいよ!︎︎︎︎︎︎」
︎︎明里が怒りの形相で周囲を見わたす。
「「「ヒィィィ!!」」」
︎︎クラス内男子たちが、恐怖しながら壁を見つめる。
︎︎校内放送が逐次、最新の情報を知らせて来る。
「暴走者がB棟三階からB棟二階に移動。
覚醒風紀委員会、及び生徒会執行部以外は無理に暴走者に触らないよう注意してくれ!
三年のクラスで多数の怪我人が出ている!︎︎︎︎」
︎︎燈里たちのクラスはC棟二階。
︎︎赤い帽子の小人は、二階に移動したことによって、緊張が走る。
︎︎A棟は体育館や図書室、専門教室などで、授業に自習の穴がたくさんある今の状況では、生徒の移動教室などたかが知れている。
︎︎そうなると次は、一階に降りるか、C棟に戻るかの二択になるだろう。
︎︎生徒会長、楠木は敢えて全校生徒に避難を呼び掛けなかった。
︎︎避難のために校庭に全員を集めたりすれば、小人は喜んでその人の波の中に飛び込むだろう。
︎そうなれば被害は計り知れないし、多数を巻き込んではネットランチャーも使えなくなってしまう。
︎︎英断である。
︎︎B棟の教室で悲鳴が上がる。
︎︎ネットランチャーを持つ誰かの発砲音も響く。
︎︎窓ガラスが割れ、壁に重い物がぶつかる音もする。
︎︎騒動が近づいて来ている。
「やべぇ……俺、当てられる気がしねえ……」
︎︎義己が今更のように泣き言を零した。
︎︎明里が何かを閃いたのか、大声で指示を出す。
「男子、机を後ろにまとめて!
女子は全員、黒板前に集まって!
ぐずぐずしない!早く!︎︎︎︎︎︎」
︎︎ガタガタ、と男子が机をまとめ始める。
「男子は机をまとめたら、廊下に避難!
義己ちゃんは私の右、燈里は左!
いい、情報通りなら暴走者は壁をすり抜けて、あっちから来る。
三人で一列になって、私の合図で義己ちゃんと燈里が撃つ。
女の子を狙うなら、暴走者は私に向かって来るしかない!
二人のランチャーで道が特定されていれば、絶対に当ててみせるわ!︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎」
「明里、かっこいい……」
︎︎女子の一人が呟く。
「大丈夫かな?明里が女の子って認定されればいいけど……︎︎」
「ああん?」
︎︎燈里の軽口に、明里が憤怒の形相になる。
「いや、嘘、嘘……カンペキな作戦です!」
︎︎ちょっと燈里は変身した。
「近づいてるな……」
︎︎義己の言葉に答えるように校内放送が響く。
「暴走者はB棟二階からC棟二階に向かっている。注意してくれ!」
「セレクターは連続、セーフティは外れてる、弾は入ってる、電池も大丈夫……」
︎︎義己は緊張しているのか、呪文のように最終確認をしている。
︎︎となりのクラスで騒ぎが始まる。
「けーっけけっけー!
オンナ、ハダカ、見放題! オンナ、ハダカ、見放題!︎︎︎︎」
「きゃーっ!」「いやぁーー!」「やめてっ!」
「やめろーーっ!」
︎︎バスンッ!︎︎バチバチバチ!︎︎ガシャーン!
「けけけけけっ!
バーカ! バーカ! 当タルカ、そんなモン! 親器君臨【妖精の小道】︎︎︎︎︎︎︎︎」
︎︎小人はいつのまにか、手にヤドリギの若枝を持っていて、それで壁に円を描く。
「義己ちゃん、まっすぐ撃てばいいからね!」
「お、おう、まっすぐな、まっすぐ……」
「まだよ、まだ、まだ……」
︎︎並んだ机の奥、真っ黒な穴が開く。
︎︎ぬるり、と小人がそこから這い出してくる。
「けーっ! 生意気ナ!︎︎」
︎︎這った姿勢の小人は、並ぶ机の先に等間隔に配置された三人のランチャー使いと、さらにその奥に固まる女子生徒の群れを見る。
︎︎少しは考えたようだと小人は馬鹿にする。
︎︎空間を確保して、ネットランチャーを存分に使える上、ランチャー使いを越えなくては、女子生徒に近づけないフォーメーション。
︎︎さらに、他の足でまといになる男子を遠ざけて、小人が盾に使うこともできないようにしてある。
︎︎今まではランチャーを撃たれても、他の生徒を巻き添えにするのを恐れて、電撃が流せなくて、取り逃がす、ということがあったため、それを存分に利用させて貰ったが、今回は少しばかりオンナのハダカが遠そうだと感じる。
︎︎だが、たった一度の過ちでエロ動画が携帯で起動したがために、その後の三年間、エロ魔人というあだ名で呼ばれて、女子からゴミを見るような目で見られ続けた俺の溜まりに溜まった衝動を、甘くみるなよ、というのが小人の感想だ。
︎︎小人は、机の下を、右に左に、超スピードで動いて陽動をかける。
「まだよ、まだ、まだ……」
︎︎小人から見て、左の筋肉質なランチャー使いは、完全に小人の動きに踊らされている。
︎︎ここだ、と小人は左から出るフリをする。
︎︎フェイントだ。
「撃って!」
︎︎バスン!︎︎ バスン!
︎︎左右の男たちはランチャーを撃った。
︎︎引っかかった!︎︎と小人はほくそ笑む。
︎︎しかも、真ん中の女子は命令を出すのに必死で、出遅れている。ならば。
︎︎小人は真ん中から距離を詰めることにした。
︎︎机の下から抜け出る。
︎︎真ん中の女子の口角が上がる。
︎︎しまった。と小人は今更ながら気づく。
︎︎まんまと誘い出されてしまったのだ。
︎︎バスンッ!
︎︎小人の脳がフル回転する。
︎︎音と同時に、小人は自分を信じた。
「間に合えーーーっ!」
︎︎小人は跳んだ。そして、真ん中の女子は勘違いしている。
︎︎小人は何も三人を飛び越える必要はないのだ。
︎︎真ん中の女子に辿り着けばいい。
︎︎しかも、見ればなかなかに良いカラダをしている。
「ウォォォォォォオンナァァァァァッ!」
︎︎小人はネットランチャーが基本的に一発しか撃てないことを知っている。
︎︎開いたネットが、先程まで小人がいた位置で、電撃を放って、バリバリと鳴っている。
︎︎美しい弧を描いて、小人は見事、真ん中の女子に届いた。
︎︎胸倉を掴む。ひん剥いてやる、と両腕に力を込める。
︎︎興奮が小人の脳内を駆け巡り、スローモーションのように、胸元のボタンが弾け飛ぶ。
︎︎ひとつ、プツッ……、ふたつ、プ……。
︎︎小人が跳んだ。その瞬間、燈里は驚くべき早さで、腕を変異させていた。
「義己っち!」
︎︎燈里の声に、義己は阿吽の呼吸で応える。
「おう、こっちなら得意だ!」
︎︎燈里の白い毛に覆われた拳と義己の赤茶色の毛に覆われた拳が、小人を左右から捉えた。
「谷間゛ーーーっ……」
︎︎小人の意識が一瞬で、ぶっ飛んだ。
︎︎最後の瞬間、ふたつ目のボタンが弾けると同時に、深い魅惑のスリットが見えたような気がしたが、それは意識と一緒に記憶の彼方へと消え去ってしまうのだった。
「きゃあああっ!」
︎︎ぺたん、と明里が尻もちをつく。
︎︎慌ててブラウスの両端をカバーする。
︎︎だが、被害は大したことはない。
︎︎ボタンがひとつ飛び、もうひとつは、ほつれてしまったが、それだけだ。
︎︎少し上の空間に、変異した二人から挟むように殴られて、ぴくぴくする小人が居た。
「……あ。ありが、とう……」
「お、おう……」「あっぶな……気をつけろよ、もう……」
︎︎少し火照った顔で目を逸らしながら応える義己と、ホッとした反面、素直に応えられず憎まれ口を叩く燈里。
「な、なによ、普通なら絶対当たるタイミングよ!︎︎」
︎︎明里も気恥しさを隠すためか、つい反論してしまう。
「まあ、最後のジャンプは鬼気迫る、というか、執念みたいなもんがあったよな、コイツ……」
︎︎義己も明里の言わんとする所が分かったのか、明里に同調する。
「そうだよね、絶対、最後だけ速かったよね!」
「うわ、義己っちが味方についた途端、これかよ……さっきの殊勝に感謝してた時はかわいかったのによ〜」
「なにその、今は可愛くないみたいな、言い方!」
「かぁーっ、やだやだ……ちょっと注意しただけだろ……」
「燈里が、そういう言い方するから、こっちだってケンカ腰になるんでしょ!」
「ストップ、ストップ!
ケンカすんなよ……まずはコイツを何とかしようぜ!︎︎」
︎︎義己は小人を指さし、二人を仲裁する。
「いやあ、怖いなぁ、女のヒステリー。
これがマイ、フェイバリット、理想の二次元妹、葵ちゃんなら絶対こんな受け答えしないのにさ……︎︎あ、義己っち、ロープ持ってきて……」
︎︎言いながら、気絶した小人を、テキパキと拘束して押さえ込む燈里。
「ヒステリックになるのが誰のせいか、分かって言ってる? そもそも、葵は関係ないでしょ。それに毎回思うけど、生身の女の子捕まえて、二次元とか、本当に失礼なの、理解してる?︎︎」
︎︎明里は短銃型の麻酔注入器を出して、注入量を調節、燈里が押さえた小人の向きを打ちやすくした場所に麻酔を打ち込む。
「別に葵ちゃんが二次元とか思ってねえし、そんなの言葉のあやってやつだろ。
あ、それとも高尚すぎて理解できない?︎︎︎︎」
「高尚? 理想の二次元妹のどこにそういう成分があんの?
あ、もしかして頭痛薬の半分は優しさって、成分表に書いてあると思ってるタイプ?︎︎︎︎」
︎︎義己が持って来たロープを使い、明里と燈里が小人を縛り上げていく。
「お前らさぁ……ケンカしながら、完璧な連携見せつけんの、仲が良いのか、悪いのか、どっちかに……むぐっ……」
︎︎義己が文句をつけようとすると、女子たちが義己の口を塞いだ。
「黒木く〜ん。ちょっと黙ってようね……」
「今、良いとこだからね〜」
︎︎何故か女子の輪の中に隠された義己は、頬を上気させた女子たちに恐怖を覚えるのだった。




