魂鏡一二、MD研究室・榎田
︎︎数日後、昼休み、校内放送にて『覚醒風紀委員会』と生徒会執行部の人員は視聴覚室に集まるようにと伝達される。
︎︎燈里、義己、明里の三人は視聴覚室に入る。
︎︎待っていたのは生徒会長の楠木で、今日は風紀委員と執行部の人間は、午後の時間を使ってやることがあると説明される。
︎︎昼休みを経て、ジャージ姿で再度集められた面々は、校庭に立っていた。
︎︎校庭には、『宇宙開発公団・MD研究室』のトラックが乗り入れられていて、トラックからは前回会った、榎田幸太郎と白衣を着込んだ細面の男が出てくる。
︎︎生徒会長が皆の前に出てくる。
「えー、先程も説明したが、ウチの学校と宇宙開発公団のMD研究室、連携の一環として、対覚醒者、捕獲装備の貸与、及び使用方法のレクチャーを受けることになった。
使用方法のレクチャーをしてくれる、榎田さんと土屋研究員だ。
本日はよろしくお願いします︎︎︎︎」
「ああ、こちらこそ。
では、ここからは我々が進行させてもらう。
土屋さん、まずはアレを……︎︎︎︎」
︎︎榎田が土屋に持ってこさせたのは、ネットランチャーと呼ばれるものだ。
︎︎大きさは一メートル三十センチくらいはある、砲身が大きなアサルトライフルという形をしている。
︎︎マガジンはなく、中折れ式で一発ずつバズーカみたいな弾を入れるらしい。
「ここの装填スイッチを押せば、砲身が折れて、ネット弾を装填できるようになる。
それから、この銃床部分はスライドで取り外しができ、この銃床が丸ごとバッテリーになっている。
トリガーは二段階で、一段階目で発射、二段階目まで引ききると高圧電流で相手をスタンさせることができる。
トリガーの上にあるセレクターで高圧電流を
何秒流す︎︎︎︎︎︎か決められて、五秒、三十秒、連続の三種類が用意されている。
弾丸を発射すると、十メートル、もしくは弾頭衝撃時にネットが広がる。
覚醒者は総合的に筋力が増大する傾向があるため、このネットは特殊繊維を使って五トンまで︎︎︎︎の耐荷重性能がある。
予備弾丸、予備バッテリーは随時供給予定だが、一発の排莢、再装填は試してもらえば分かるが、時間が掛かる。
撃たなければならない時は、一発必中の気持ちで使用して欲しい︎︎︎︎」
︎︎榎田が説明している間に土屋が台車に載せたネットランチャーを用意してトラックから運び出す。
「では、各々で試してみて欲しい。練習弾は青いテープが貼ってある。
練習弾は耐荷重性能も低く、高圧電流は流れない。
ただし、人体に向けて発射すれば、骨折くらいは覚悟した方がいい。
そんなバカはいないと思いたいが、くれぐれもふざけないように︎︎︎︎︎︎」
︎︎燈里も土屋研究員からランチャーを受け取って、触ってみる。
︎︎弾体には本体に引っ掛ける導線部分があって、向きを間違うと、弾が入らない。
︎︎これはたしかに、一発必中だと確認する。
︎︎覚醒者が暴れているところでは、とてもじゃないが、再装填している暇はなさそうだった。
「こりゃ大変だ……」
︎︎久しぶりに学校に来た義己は、セレクターや安全装置を、カチカチ動かして、その感触を確かめていたが、細かい作業が苦手なのか四苦八苦している。
「すいません、質問があります!」
︎︎誰よりも真剣なのが明里だった。
︎︎明里は照準のつけ方や、どういう場面でセレクターを変化させるのかなど、その使い方を細かく聞いている。
全体で言えば︎︎、やはり、男子の方が扱いは流暢で、女子は腰が入っていない者が多い。
︎︎それから、短銃型の麻酔注入器も支給された。
「こいつはなるべく太い血管に押し当てて、トリガーを引く。
注入器の側面にあるガイドラインを左右の血管に合わせて︎︎打つのが基本になる。
薬液は成人男性一人分に合わせてあるから、身体の小さい相手、身長百五十センチの普通体型相手なら四分の三、子供なら半分くらいで充分だ。
即効性の麻酔薬だから、取り扱いには充分、注意して欲しい。
犬、猫なら一本、注入すると死の危険もある。
覚醒者の場合、覚醒後の変異した肉体にはほぼ効果が認められない。
つまり、捕獲後、人間体に戻ってから打つというのを覚えておいてくれ︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎。
ネットランチャー、麻酔注入器、どちらも取り扱い、保管には細心の注意が必要だ。
もしこれが犯罪等に使われても、我々、MD研究室は一切の責任を負わない。
貸与はするが、責任は君たちに負ってもらう︎︎︎︎︎︎。これは自衛と治安維持のための武器だ。そのことを忘れないでもらいたい」
︎︎榎田はそう言って座学を締めくくった。
「さあ、ここからは訓練の時間だ。
二人一組を作って麻酔注入器を実戦で扱うにはどうすればいいか学んでもらう。
最後の仕上げは、ネットランチャーの練習弾を使って、一人一発ずつ︎︎︎︎、射撃訓練をする。
反動はどれくらいか、射程距離の感覚、そういったものを体感して、なるべく覚えてもらいたい︎︎」
︎︎燈里は義己と組んで、榎田たちから指示されるままに組手のようなことをする。
「まさか、久しぶりに学校に来たら、燈里も風紀委員会かよ」
「まあ、なんか覚醒したっぽい」
「そっか……あれ、でも『あの日』ってお前、怪我してないよな?」
「そういう義己っちだって、ムーンディスクでは怪我してないじゃん。
擦り傷と打撲くらいでしょ︎︎」
「ああ、そう言われりゃそうか。
じゃあ、直井教授が発表したムーンディスクが体内吸収時に肉体を破損させる可能性があるとか言ってたのは、間違いってことか……︎︎」
「大怪我してる人もたくさんいるから、間違いってことでもないんじゃない?
薬とか個人差がありますってよく言われるし……︎︎」
「たしかにな。
そんで、燈里はどんな幻獣のムーンディスクなんだ?︎︎」
「いや、まあ、それは……」
「俺のはたぶん、ミノタウロスってやつだ。
頭の中にイメージが響くんだよ……なんかムーンディスクの過去の境遇?みたいなやつがさ。
気になって調べたら、ミノタウロスってのがそっくりだった……︎︎︎︎︎︎」
「そ、そうなんだ……俺は……なんか、兎かな」
「うん?」
「だから、うさ、ぎかな?」
「うさ?」
「怪我の治りが早いやつ……」
「お、おう……」
︎︎なんとなくいたたまれない表情をして、義己はそれ以上、踏み込まないことにしたようだった。
「よし、そこまで。
それじゃあ、最後、射撃訓練をやる︎︎」
︎︎そうして、各自一発ずつの射撃訓練をやった。
︎︎予算と資材の関係で一発ずつの訓練だが、皆、その反動の大きさに驚いていた。
「今、一番余っているのがロケット燃料なもんでね。それを流用した結果がコレだ。
皆も分かっているとは思うが、この島に資源なんてものはない。
限りある資材で、一日でも早く復興を目指し、元の日常を取り戻すことこそ、我々の目指す道だ。
それと、これはあくまでも任意ではあるが、我々は覚醒者からのムーンディスク除去を研究している。興味がある者はぜひ、一度話をさせて欲しい︎︎︎︎︎︎」
︎︎榎田は今日の訓練をそう締めくくった。
︎︎日常を取り戻す。それは『あの日』より前の日常なのだと、榎田は語るのだった。




