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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡九、鶏鍋

 

「浮島区封鎖から二か月半、ついに陸自の防疫特殊班が、あの浮島区へと上陸することになります!

 え〜、報道規定によりますと、ヘリでの接近はここまでとなりますが、当局では独自の超望遠レンズを使い、ギリギリまで陸自トラックを追いたいと思います!

 もうまもなく、もうまもなく陸自トラックが現れるとは思いますが、この待ち時間を利用して、一度、スタジオにお返し︎︎︎︎したいと思います!」


 ︎︎今やネットで情報を漁る時代ではあるが、報道特権を持つテレビはこういう時に強い。

 ︎︎公共放送としての情報伝達網はそれなりに金が掛かっている。


 ︎︎スタジオでは番組ウケを狙ったのか、毒舌を売りにしているキャスターが、大画面に映し出された、これまでの経緯と書かれた書面を読み上げながら、信ぴょう性のあるなしに関わらず、声を大にして『浮島区』の危険性を説いている。


「さて、今や全世界規模で関心が集まる月遺跡ですが、本当に、未知のウイルスなどというものがあるんでしょうか?

 本日は宇宙考古学に詳しく、宇宙評論家でもあります、有増︎︎(アリマス)氏に詳しくお話を伺いたいと思います。

 いかがですか、有増さん。

 今や各国が月遺跡探索のため、宇宙進出を果たしている訳ですが、そんな中で我が国だけが未知のウイルスを持ち帰るなんてことがあるんでしょうか?︎︎︎︎」


「もちろん、あります。

 ひと口に月遺跡と言っても、月遺跡自体はすでに数十個単位で発見されているんです。

 中でも、日本の『いさなき』︎︎︎︎が見つけた遺跡というのは、まだ他国が発見できていない、大型の遺跡という話ですし、誰も開いたことがない扉の中であれば、未知のウイルスが眠っている可能性も充分に、あります!」




 ︎︎休み時間、生徒たちの関心はあの日以来、初めて来る訪問者に釘付けになっている。

 ︎︎なにしろ浮島区民は当たり前に知っていることだが、怪物化は『ムーンディスク』のせいであり、未知のウイルスなどではないのだ。

 ︎︎今まで政府の誤解によって、未知のウイルス説が流布してしまったがために『浮島区』封鎖という事態になってしまったが、ちゃんとした検査をすれば、封鎖は解かれ、流通も回復し、島外に出ることもできるようになるからだ。


「だあ、もう早く来てくれよ!

 もう何回擦るんだよ、このネタ!︎︎」


「とりあえず、封鎖が解けたら島外のおばあちゃん家で一週間くらいはのんびりしたいかな……」


「せっかく畑とか作ったけど、あれもまた土をどかしてビルになるのかな?

 どうせなら、ちょっと残して欲しいけど……︎︎」


 ︎︎あちこちからそんな声が上がる。

 ︎︎しかし、『直井覚醒』の自覚がある者たちは、正直、浮かない顔をしている。

 ︎︎区内でも暴走の危険があるとして、自警団が組まれるくらいだ、おそらく島外に出るのは難しいかもしれないと、誰もが感じているのだ。




「あ、見えました!

 陸自のトラックです!すでに運転席にいる人が防疫服に身を包んでいるのが見えます!

 千葉方面から、ドリームビッグブリッジを渡って、今、三台のトラックが走って来ます。

 そして橋中央の交通規制が、解除されていきます。

 カメラさん、あっち、浮島区の住民、映して!

 見えますでしょうか?

 浮島区民の皆さんが橋の出口に集まって、歓迎の横断幕を広げております!

 浮島区側の発表では、怪物化はウイルスではないとしていますが、それを印象付けるような、歓迎の横断幕にも見えますねえ……︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎︎」


 ︎︎リポーターが少々懐疑的な言い回しで現場の説明をしていると、ワイプ画面でキャスターが話し始める。

 ︎︎すると、ワイプ画面がそのまま拡大して、スタジオが映る。


「リポーターさん、すみませんが怪物の姿は見えますかね?」


 ︎︎キャスターが聞くと、画面はまたヘリから浮島区側を映した映像へと切り替わる。


「今のところ、怪物の姿は見えませんね。

 これも浮島区側の印象操作でしょうか?︎︎」


「こちら、スタジオです。

 それではここで浮島区民から寄せられたSNSの怪物投稿をもう一度、おさらいしてみましょう!︎︎」


 ︎︎言うと、画面は縦長の携帯画面を映し出す。

 ︎︎右端の下には、「浮島区民からの投稿」とさもテレビ局に寄せられたようなテロップがついている。

 ︎︎そこには、たしかに怪物が映っているが、本物もフェイク画像もごちゃませに、全てが正しいという趣旨で映し出されている。

 ︎︎しかも、繰り返し流すのは、より迫力のあるフェイク画像ばかりだ。




「なんだよ、ヒデーな、嘘ばっかじゃん!」


 ︎︎クラスメイトの一人が不満を漏らす。


 ︎︎誰かの悪意が世論をある方向に傾けようとしていた。

 ︎︎それを感じながらも、何もできないもどかしさに『浮島区』の住民は、さらなる閉塞感に苛まれるのだった。




 ︎︎同日、某所。

 ︎︎背広姿の男たちが四人、鍋をつつきながら話している。

 ︎︎給仕をしている女性たちは、皆若く美しくて、やけに胸元の開いた服装をさせられている。


「いや、まさかこんな形で人体実験場ができるとは、思いませんでしたな。まさしく天の配剤と言いましょうか……」


 ︎︎出っ歯のネズミ顔をした男が、キシシ……と笑うのを、太ったちょび髭の男が注意する。


「きみぃ、口を慎み給えよ。

 滅多なことは言うもんじゃない。

 どこに誰の目があるか、分かったもんじゃないんだよ︎︎︎︎」


「はっ、すみません幹事長……」


 ︎︎ネズミ顔が畏まったように肩身を狭めるのを、眠そうな目をした馬面の男がフォローする。


「ま、ま、ここは大臣のお墨付きの場所ですからね。

 それはそうと、メガフロート丸々一個は高くつきました。特にムーンディスクの研究はあそこでやるつもりでしたから……︎︎」


「総理、それについては、富士の演習場近くに場所を用意させました」


 ︎︎強面のニキビ面の男が、姿勢正しく報告するが、馬面は浮かない顔だ。


「人にも、物にも、また随分と金がかかるよねぇ……」


 ︎︎ネズミ顔が、パッと思い付いたような顔をする。


「いっそのこと、増税しましょうか?」


「そう簡単には行かないよ、支持率はただでさえ低迷気味だしさ……」


「その辺りは財務担当の君の腕の見せどころなんじゃあないのかね?

 他所の議員に回す金を削るなり、外国資本を入れるなり、上手くやり給えよ︎︎」


「は、はぁ……」


 ︎︎馬面は給仕に、おかわりを要求しながら、鍋を覗き込む。


「ま、この鍋の方でも研究は進めるだろうから、良く煮えたやつを上から掬うのも手ではあるけど……」


 ︎︎強面もまた、給仕におかわりを要求する。


「しかし、強襲するには難しいかと?

 相手は化け物、東京湾の真ん中では、あまり派手にもいきませんが……︎︎」


「そこはほら、おいおいですよ、おいおい……」


「おい、出汁が足らないんじゃあないのかね?

 例えば、国外から化け物の危険性を憂慮したテロリストが入る可能性はないのかね?︎︎」


 ︎︎太ったちょび髭が鍋に外から出汁を足すよう指示をするが、強面は顔を強ばらせて否定する。


「いえ、監視の目は光らせております。

 テロリストも特殊部隊も入らせる気はありません!︎︎」


「防衛大臣、幹事長が仰りたいのは、そういう事ではなく……」


「鍋を管理する給仕なら、出汁を足せるよねぇ……」


「はっ……なるほど、それを咎めるという名目でしたら……」


「まあ、まずは生かさず殺さず、鍋が沸騰するまではって感じなのかねぇ……」


 ︎︎眠そうな目をしたまま馬面は酒を啜る。

 ︎︎上を向いた馬面は天井のシャンデリアの光を眩しそうにして、目を眇めた。



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