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魂鏡〈たまかがみ〉〜古代変身ディスクを宿せし者たち〜  作者: 月乃 そうま


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魂鏡一、魂降りの災禍

 

 ︎︎浮島区、二一XX年、夏。


 ︎︎その日、日本(ひのもと)宇宙開発公団の超大型スペースシャトル『いさなき』は予定より二日早く帰路に着き、浮島区上空で謎のトラブルにより爆散、積み込んでいた八千八百八十八枚の『ムーンディスク』を浮島区へとばらまいた。




 ︎︎『ムーンディスク』。

 ︎︎宇宙考古学全盛となった現代において、月に到達した人類が発見した月遺跡より持ち帰った直径十センチ、厚さ一センチほどの銅鏡によく似た謎の物質である。

 ︎︎現在、主要各国が数枚ずつ、月より持ち帰ったのが確認されており、何らかの記録メディアではないかという仮説の元、検証が進められている。

 ︎︎そんな中、日本は宇宙考古学の権威、直居(ナオイ)宗隆(ムネタカ)教授指導の元、東京湾の三分の一を使って、巨大メガフロート『浮島区』を建設、ここは宇宙考古学を産業化するべく作られた国営特別区として東京第二十四区として制定された。

 ︎︎『浮島区』の全ては日本宇宙開発公団のために作られた街であり、スペースシャトルの発着場や研究施設を中心にした宇宙開発のための区として発足した。

 ︎︎宇宙のスペシャリストたちが住まう街。それが『浮島区』である。


 ︎︎その日は二日後に『いさなき』が『浮島区』へと帰る予定であり、実に八千八百八十八枚もの『ムーンディスク』を発見したことを祝して盛大な祭が催された日でもある。

 ︎︎スペースシャトル発着場を解放して、巨大な祭の場を作った『浮島区』は沸きに沸いていた。

 ︎︎直居教授の予測は正しく、月遺跡内にて巨大な『ムーンディスク』保管庫とも言える場所を発見したのだ。

 ︎︎1か月前に『いさなき』乗組員からその報がもたらされた時は、全世界がそのニュースで持ちきりだった。


 ︎︎しかし、その日、後に『魂降りの災禍』と語られるその日、『浮島区』には災禍の流星が降った。

 ︎︎実に八千八百八十八枚の謎の超物質で作られた『ムーンディスク』が『浮島区』に降り注いだのである。

 ︎︎皮肉なことに、この時『ムーンディスク』の特性の一部が判明することになる。


 ︎︎『ムーンディスク』は上空二万メートルから落ちても壊れることがないほどに高硬度を誇り、人体に吸収されるという性質が判明した。

 ︎︎『魂降りの災禍』による死者・行方不明者は十六名であり、負傷者は重・軽傷合わせて一万名を超える災害となった。

 ︎︎同時に、この災害が更なる混乱に陥ったのは、『浮島区』に接続する千葉・神奈川・東京からの橋が『ムーンディスク』の落下によって分断、連絡船などもそのほとんどが海の藻屑となったことにあった。

 ︎︎つまり、その日、『浮島区』に居た約二十七万人は隔絶されたボロボロの街に閉じ込められてしまったのである。

 ︎︎そして、混乱はこれに収まらない。

 ︎︎メガフロートである『浮島区』はその動力部に重大な損傷を受け、いつ爆発するかも分からない状況になり、救助もままならないということになったのだった。


 ︎︎明けて翌日、『ムーンディスク』を体内に吸収したと見られる人間たちに異変が起こった。

 ︎︎怪物化である。

 ︎︎これは後に直居教授により『直居(ナオイ)覚醒』と名付けられるが、ある者は石の巨体に変じ、またある者は幾つかの動植物の特性を持つに至り、火を吹く者、嵐を呼ぶ者、世に幻獣・魔獣・妖怪・妖魔と伝承で語られる者たちが溢れ出ることとなったのである。


 ︎︎『浮島区』の混乱は遠巻きに見るしかできず、日本宇宙開発公団から動力部の復旧、爆発の危険性無しと発表があったのはひと月後のことである。


 ︎︎そして、『浮島区』は政府方針により封鎖された。

 ︎︎橋の復旧は動力部の応急処置を含め一か月ほどで実施されたものの、未知のウイルス感染が疑われるとのことで、橋の出入口はバリケードにより封鎖。

 ︎︎連絡船だけでなく漁船すらも厳しく取り締まることとなった。

 ︎︎『浮島区』への支援物資は自衛隊ヘリからの物質投下のみという有様である。


 ︎︎直居教授は、人間の怪物化は『ムーンディスク』によるものと発表したが、政府は簡単に見解を改めなかった。

 ︎︎それは『浮島区』に散らばった『ムーンディスク』の受け渡しを、危険であるとして直居教授が拒否したことにも原因があると言えるのだが、二十七万名の『浮島区』に居た人間は閉じ込められたのである。




 ︎︎野明神社、遡ること六年前、春。


「これは、ウチとこでは『魂鏡(タマカガミ)』言われとるもんどすなぁ」


 ︎︎宮司服を着た野明(ノアキ)世霧(ヨキリ)は、直居教授が見せた海中の遺跡で撮られた壁画の写真を、曲げた人差し指で叩くようにして言った。


「ただの銅鏡とは違うと?」


「そらそうやろな。この人らしきモンの大きさと比べたら、銅鏡と呼ぶには小さいやろ。

 それにこの裏面とおぼしき部分の紋様、ウチとこの口伝にあるとおりやわ︎︎。

 それから、直居はん。アンタさんの言わはるように、これが一億五千万年よりも前のもんや、ちゅうなら、その時代に銅鏡があるんもおかしな話なんちゃいます?︎︎」


「それはそうなんですが……」


 ︎︎直居教授は野明宮司の高圧的な態度に恐縮しきりなのか、まだ春も初めだというのに、せっせとハンカチで汗を拭っている。


「ノアの方舟伝説。神代の頃に大水がありまして、それに選ばれたひと組の家族と数多の動物が舟を作って難を逃れたいう話は知ってはりますやろか?」


「え、ええ……聖書の一説であり、世界中に似た形式の伝説が残る洪水伝説ですよね……」


「それこそがウチとこの家系に繋がってるいう話がありますのや」


「は、はぁ……?」


「ま、にわかには信じがたい話やろなぁ……昨今の宇宙考古学ブームとやらが流行ってもうたせいで、ウチとこも黙ってられんようになってしまったんよ。ま、潮時いうやつやな……」


 ︎︎野明宮司は直居教授がなんとか言葉を呑み下すのを待つように、茶碗の茶を、ずずと吸って喉を潤した。


「野明神道流口伝に曰く……野明は天の方舟に数多の動物、植物を魂鏡に封じて載せた。天の方舟は空を翔け、月の宮まで届いた。月の宮の大王は大水が収まるのを待って、野明にひと振りの矛と天鳥船を渡した。矛を大地に刺せば、地は乾き、山が興る、これを持って新しい国を作るようにと野明に話した。それから、天鳥船を開いて、(イト)ナミの新しい命の種を撒くようにと言った。

 こうして、国が生まれた。

 つまるところ、天の方舟に載せられた数多の動物と植物は月の宮に残されたというお話やな……︎︎︎︎」


「ま、待ってください。

 それじゃあまるで……︎︎」


「さて、ウチとこの口伝にある話やから、嘘か

 真実(まこと)かはお任せします。

 ウチとこでは、こう言われとるいうだけやからな︎︎。

 それを踏まえた上で……この先の話、聞きはりますか?︎︎」


 ︎︎直居教授は、ぐぐっと前に見を乗り出して答える。

 ︎︎普通に考えて、荒唐無稽、馬鹿げた話だ。

 ︎︎しかし、何かの予感めいたものが直居教授の頭にこびりついて離れない。


「……お願いします」


「この魂鏡ゆうんは、世間様で言われとるように、情報媒体なんは間違いないもんや。

 ただ、読み取るもんやのうて、読み込むもんや。

 いちに、直霊︎︎︎︎︎︎(なおひ)

 それが悪心持たば、曲霊︎︎(まがひ)

 それによっつの御魂を掛け合わせて、これが一霊四魂と言います……︎︎」




 ︎︎直居教授は、後に自分はメッセンジャーに過ぎなかったと語る。

 ︎︎言われたことを、言われた通りに試し、実証したに過ぎない。

 ︎︎全ては、自身の『見たい』という欲が『いさなき』を飛ばしたのだと零した──────。





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