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悲願華  作者: 桂虫夜穴
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4 夢のまた夢の先の悪夢


「ハッ!」


 夢堕ちしていた。


 この地の彼岸花の伝説を検索している間にあらぬ妄想が浮かび、恐怖で眠れなくなっていた…。

 本当に少女の祟りなどでは無いだろうが自然災害と重なり当時の人達には神がかり的な恐怖だったのだろう。

 その後、この地に城下町が再建されるのは数年先になったと言う事らしい、後の藩主は洪水を恐れ高台に城を築いたと言う。


 照明を明々と灯しテレビを付け気を紛らわす為にスマホのお笑い動画などを見ていたがついに無意識のうちにに眠りについてしまった。

 しかも、人柱の儀式と言う飛び切りヤバくて怖い夢を見てしまった。

 恐怖話としてネットに投稿してもいいレベルかもしれない。しかし私には文才が無いし動画の演出も編集能力も無いのでこれは、却下となる。

 

 冷や汗をかいていた。涼しい風に当たりたくてカーテンを開けようとして一瞬、躊躇した。

 もし、また庄屋の娘の生首が彼岸花の上に乗っかってたら…。ありえない妄想をかき消した。

 チュン、チュンと雀も鳴いている。もう、朝なのだ。

 ザッ!とカーテンを勢いよく開けた。


「きゃーーっ!」


私は布団に思い切り吹っ飛んだ。


 窓全体に庄屋の娘の真っ白な顔が張り付いている。目の玉は充血して唇は真っ赤なままだが、あのおちょぼ口は耳あたりまで裂け、ニヤリと微笑んだ。

 その表情が逆に究極の恐怖となった。


私は腰が抜けて後退りした。

 

 娘の額の髪の毛の間から泥と生血がダラダラと流れてきた。そして窓の隙間から部屋に染み込んできた。布団の周りが、一気に泥血で覆われ直ぐに腰から肩と沈んでいった。


助けて〜!助けて〜!誰か〜…


しかし声は、出ていなかった。


全身が泥血に沈んだ。必死で手を伸ばしてもがいた。


と、その瞬間。ガシッ!誰かが手を握ってくれた。そのまま、一気に引き上げられた。川面に顔を出すと大きく息をした。

ハアーーッ!そこにいたのは…私を助けてくれたのは、  女将さん…だった。


 まだ夢の途中だったのだ。目覚めたと思ったがまだまだ悪夢の途中だったのた。


「随分、うなされていましたよ。大丈夫ですか?

怖い夢でも見られたのでしょうね。

朝食の用意ができてましたのに

食事処に見えて来られないので

お電話したのですけど、

お出にならないので心配して来てみましたの。

寝坊されたのでしたら

お休みの日ならこちらで

時間をずらして差し上げますけど。

今日はお仕事とお聞きしていましたから…。」


「申し訳ありません。お手数おかけ致しました。

えーと…。スマホ、スマホ…。

あっ、布団の中でした。

それで、聞こえませんでした。

本当にすいません。助かりました。」


 バツが悪かった。女将さんの忠告を聞かずに彼岸花の伝説を調べ、怖くて寝付けず挙句に悪夢でうなされるとは恥ずかしくて穴があったら何とかだ。

 

 身支度を整えると食事処に向かった。  

テーブルに付くと娘さんが配膳をしてくれていた。昨日、見かけた少女を思い出した。二人は姉妹なのか?川岸で見かけた少女の方がお姉さんのように見えた。

 しかし、こちらは日に焼けて健康そうだ。昨日の少女はやけに色が白くて病弱かと思える程だった。


 女将さんが、ご飯を茶碗によそおい配膳してくれた。


「娘さん。朝からお手伝いでお利口さんですね。」


「ええ。本人がやりたがるものですから

こちらは甘えてお手伝いしてもらってるんです。」


「そうですか。良いことですね。

あっ、そうだ。昨日のお嬢さんが

お姉さんですか?」


「えっ⁉︎ いえ、ウチはひとりっ子で

この娘だけですけど…

それに、昨日のお話ですけど…。

娘は川には行ってないそうです。

あの水難事故から子供達だけで

川遊びも川に近づく事も学校で禁止されてますから

この辺のお子さんはみんな違うかもしれないですね。

ドライブか旅行で立ち寄った方かも知れないですね。」


「ああ、そうですか?失礼しました。勘違いでした。

あっ!玉子焼き美味しいですね。」


ゾーッと背筋が、寒くなった。夢の中の庄屋の娘の白い顔を思い出したのだ。

 それにこれ以上、彼岸花の伝説も少女の話も広げる気は、なかった。もう忘れたかった。


 女将さんが食事が終わるとお茶を入れ直してくれた。その折に白いハンカチを渡してくれた。お土産だそうだ。白い生地の角に彼岸花の刺繍が縫ってある。

 娘さんの制作だそうだ。中々上手にできている。器用なもんだと感心した。


「さあ、のんびりもしてられない。

少し遅れそうかな。いそがねば…」


 ご馳走様とハンカチのお礼を言って部屋に荷物を取りに戻った。


 

 フロントで料金を払い車に乗り込んだ。角を曲がるまで女将さんが手を振り見送ってくれているのが、バックミラーに写っていた。

 最後に一瞬、娘さんがミラーに、写った気がした。一緒に、見送りしてくれるつもりだったのか。ありがたい事だと思いながら、もう一つ角をまがった。瞬間だった。


バンッ!

キイィィッ!



車のボディに衝撃を感じ急ブレーキを踏んだ。

まさか、人身事故!?

ここで格安保険に、甘んじた事が頭の中全てに広がった。


「ヤバイ!どうしょう?他に人気は無い。

逃げようか!いや、ダメだ。

それこそ私自身が、畜生道に落ちてしまう。」


 色んな思いが駆け巡ったがハザードランプを灯しサイドブレーキを引き、エンジンを止めた。

 ドアを開け、恐る恐る車の回りを一周した。

いない!何も!人も猫も犬も狸も狐も、何も轢いていない。跳ねていない。

 ボディの傷を調べた。中古レンタカーだ。元々あちこち傷やヘコミはあった。事前の確認を怠っていた為にそれは、よくわからなかった。しかし、大丈夫そうだ。

 

 ホッとしたが冷や汗がドッと出た。貧血の、ように力が抜けて車のボディにすがってその場にヘタり込んだ。

 するとタイヤの裏側に、ビニールに包まれた白い布切れが落ちていた。手にするとハンカチだ。もしかしてと思いビニールから出してみた。やっぱり頂いたものだ。何故ここに?不思議だと思った。

 実は折角お土産に頂いたものをわざと忘れたふりをして置いてきたのだ。

 昨日の今日だ。「重たいなぁ。」と正直思ったのだ。赤い糸で彼岸花に私のイニシャルまで…丁寧に刺繍してあった。

 しかし間違いなかった。頂いたハンカチだ。でも、何故ここに?考えてもわかる筈なかった。

 さすがに、これは、もう頂いて持ち帰るしかなかった。

 私はハンカチをポケットにしまうと、車に乗り込み少し遅れそうだと主任にメールを入れておいた。

 川辺の彼岸花は相変わらず風に揺れている。

しかし、私の、彼岸花に対する思いは昨日までとは全く違うものになってしまった。


悲しき紅い華..赤い血の華。



続く

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