お弁当作りに欠かせないもの
「シリコンカップ、切れたよ!」
白ずくめのおばちゃんの声に、私は新しいシリコンカップを用意する。
お弁当工場のバイトももう3日目、最初はシリコンカップが何かもわからなかったが、やっているうちに色々と物の名前を覚えた。
チェック柄のシリコンカップにポテサラを入れていると、おばちゃんがまた言う。
「バラン、新しいの、ちょうだい!」
バランは知っていた。
おかずがごはんに触れないように仕切るための緑色の草みたいなデザインのやつだ。
個人的にはべつにお弁当作りに必要ないものだと思っているが、これで仕切るのがルールだから従う。
「ラミパック出しといて!」
コンビニのフライドチキンとか入れる紙袋のことだ。お弁当作りで何に使うのかは知らない。
「ランチャーム切れたよ! 新しいの開けて!」
「ラ……、ランチャーム?」
思わず聞いた。
「それ、なんですか?」
「お醤油の入ったお魚の形した……!」
「ああ!」
私はそれが大量に入ったビニール袋を棚から取り出すと、おばちゃんに渡した。
「パキッテつけて!」
「ぱ……パキッテ!?」
「ディスペンパックのことよ!」
「でぃ……、ディスペンパック……?」
「これよ! これ!」
おばちゃんはコンビニでフランクフルトを買うとついてくる、ケチャップとマスタードが入っていてパキッと折ると手を汚すことなくかけられるアレを手に持って訴える。
「ああ!」
合点がいった。
でもお弁当の何に使うのかはわからない。
「シーピー化成のとエフピコのとうちでは二種類フードパックを使い分けてるから間違えないでね!」
「このお弁当にはエフピコですね!?」
私も慣れたものだ。
「包装紙にはランドルト環デザインのを使うわよ!」
「視力検査もできるんですね! イカス!」
包装紙にデザインされたランドルト環を見ながら、私は言った。
「上! 下!」
左目を手で隠し、どんどん小さくなるランドルト環を見つめながら──
「……右! ……左! ……わかりませんっ!」