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空を眺めて  作者: uta
3/3

親父

「もう朝か…」


いつものようにケータイの目覚ましで起きた俺。

カーテンを引くと今日は雨だった。

天気の悪い日は、仕事に行く気がしない。まぁ…

毎日の事なのだが。


俺は、高校を卒業してすぐに就職をした。

職種はサービス業。お客さんの家に一軒一軒いき、

仕事をする。営業のような仕事。


唯一の救いは、一人で外を回っている事だ。一人だと気楽だし、

サボりたい時はサボれる。よくサボって、一人で色んな所で

ボーっと過ごす。


こんな日は、決まって行く場所がある。とある河川敷。

そしていつものように、車の中でのんびり。

車にあたる雨粒の音しかしない場所。


「あー死にたい」


雨粒の音を聞きながらつぶやき、ふと思い出した事があった。

あれは、まだ九九を一生懸命練習してた頃だから、小学校の

低学年だった時。


俺はその頃、火というものにかなり興味があった。下敷き位の

大きさ紙に火を点ける。今自分の手に持っていた紙が何秒もし

ないうちに灰になる。そんな事が、楽しかったというか、何

と言っていいか分からないが、とにかく好きだった。


親に隠れてマッチを持ち出し、毎日のように5枚くらい。

火遊びなんて親に知られたら怒られることは、目に見えていたし

ある意味、そのギリギリの感じを楽しんでいたように思う。


その日もいつものように、紙を燃やし灰になった物を足で踏み

土にかえす。マッチの棒は、近くの川へ流し証拠はなくなる。

しかし、毎日そんな事をすれば家のマッチはすぐになくなって

しまう。仕事から帰った親父はそれに気ずきある日、


「優。マッチ知らないか?」親父は俺に聞いてきた

「知らないよ」

「本当か?」親父の口調は少し強くなった。

「知らないよ」俺は続けてすぐ答えた


親父は少し黙った。それから、急に

「嘘をつくな!!」親父は怒鳴ってきた

テレビを見ていた俺の手を思いっきり引き、外へ連れ出し俺は

物置に入れられ、外から鍵をかけられた。


「そこで反省しろ!!」


俺は何が起こったか分からず、とにかく泣いて泣いて物置のドア

をたたきながら

「出してよ。出してよ」

とにかく泣き続け俺の泣き声は物置に響いていた。


物置の中は真っ暗闇。怖くて怖くて仕方なかった。

どれ位、泣き続けただろうか…ポツポツと音がし、その音はしだいに

強くなってきた。


外は雨が降り、俺の泣き声は雨の音にかき消されていた。

その時、ドアの鍵の音がしドアが開いた。

そこに立っていたのは親父。親父はまだ怒っている表情だった。


「何か言うことはないか?」親父は言った。

俺は鼻水を垂らし、涙を手で一生懸命ふきながら、

「ごめんなさい」


親父の顔は少し和らぎ、俺の頭を撫でてくれた。

その後、二人で風呂に入った。その中で火の怖さや、嘘はつくなみたいな

話をしたような記憶はあるが、そこはよく覚えていない。

ただ覚えているのは、親父が俺に怒鳴った最初で最後の日だったという事。


その後の俺の人生でただの一度きり。


その理由を知ったのは俺がもう少し大人になってからの事だった。

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