口撃
メルヴ・メイプルはこれでもか、とイエさんの輝く美貌を魔石灯で照らす。
あのライマーでさえも、イエさんの美しさを前に目をしぱしぱさせていた。
「な、なんだ、お前は!? レイのあとをつけていたのか?」
「いいえ、違います。ここの酒場でよからぬ取り引きをしている者がいると聞いて、調査にやってきただけです」
偶然、私がライマーに絡まれているところを発見したらしい。
ライマーが「離せ!!」と叫びながらじたばた暴れるので、イエさんは仕方がないとばかりに手を離す。するとライマーは「へぶっ!!」という悲鳴をあげつつ、本日二度目の転倒をすることとなった。
起き上がったライマーが文句を言う前に、イエさんがすかさず質問を投げかける。
「あなたはここの酒場の常連ですか?」
「常連つーか下宿先な!」
勝ったような口調で言っていたものの、常連のように酒を飲んでいたのはどこの誰だと聞きたくなる。
「では、怪しい取り引きを行う者について、何か心当たりや見覚えなどありませんでした?」
「は? 知らねえよ」
「たとえば、四角い包みをカウンターに置いてどこかへ去っていく者とか?」
「!?」
ライマーは心当たりがあったのだろう。口をパカッと開いたものの、慌てて手で塞いでいた。
「もしや見覚えがあるのですか?」
「見覚えっつーか、あーーーー」
ライマーは後頭部をガシガシ掻いて明後日の方向を見ていたものの、何かに気付いたのかハッと肩を震わせる。
「つーかお前何者なんだよ。こういうのは騎士様の仕事だろうが」
「騎士ですが」
「は!?」
イエさんは私服らしい外套をまとった姿で騎士には見えなかったのだろう。
「調査だとか言って、レイのあとをつけ回していたんじゃないだろうな!?」
「それに関しては先ほど否定したではありませんか」
ライマーはイエさんに口で勝てないと思ったからか、今度は矛先を私に向けてくる。
「この男誰なんだよ! お前、まさか俺と婚約を結んでいたときにも、こいつと関係していたんじゃないだろうな!?」
「私と婚約を結んでいたときに不貞行為を働いていたのはあなたでしょうが」
「なんだと!?」
「本当のことを指摘して怒るなんて、どういう神経をしているのやら」
思わず口に出してしまう。ライマーはわかりやすいくらい、顔を真っ赤にさせていた。
「だったらこの男はどこの誰なんだよ」
「イエさん、薬局の常連さんよ。あなたもケンカをふっかけたことがあるから、覚えがあるでしょう?」
「ケンカ? こんな男、知らないんだが」
その言葉をイエさんは聞き逃さなかった。ライマーの肩を猛禽類の鷲爪のようにむんずと掴むと、にっこり微笑みかける。
「あなたに身汚い、と指摘されましたので、このとおり、装いに気を遣うようになりました。その節はありがとうございました」
「え、身汚いって……お前、本当にあのときの眼鏡男なのか!?」
「ええ。思い出しましたか?」
「思い出すも何も、別人じゃないか!!」
イエさんの変貌ぶりには驚くばかりである。ライマーでなくても、見た目だけだったらイエさんだとわからないだろう。
「やっぱりお前、この男と浮気していたんだな!?」
「違うって言っているでしょう?」
仮にそうだったとしても、聖女スイと逢瀬を繰り返していた上に、歓楽街で女遊びをしていたライマーには言われたくない。
「もううんざりよ。関わりたくないわ」
「なんだと!?」
「どうせ怪しい取り引きとやらも、あなたが関与しているんでしょうが!」
「し、知らん!!」
なんて喚くライマーのもとに、口ひげを生やした紳士然とした男性が話しかけてくる。
「ああ、ライマーさん。寒いのに外でお待ちいただいていたなんて。これが本日の〝ブツ〟ですよ」
「あっ……」
男性がライマーの手に四角い小包をちょこんと置いた。
ライマーの顔から血の気がサーーーーっと引いていく。
「こちらが報酬です」
革袋の中はお金なのだろう。チャリ、と重たい音が鳴った。
「いや、今日はその、いい」
「何をおっしゃっているのですか! 借金取りが押しかけて、夜も眠れないのでしょう?」
「いや、そうなんだが」
「それはそうと、今日はずいぶん盛り上がっていらっしゃったようですが、彼らは同業者ですか?」
「あ、それは、その……」
イエさんが男性の肩をポンと叩き、にっこり微笑みかける。
艶やかな笑みを前に、男性はポーーっと見とれているようだった。
「その話、私も興味があるので詳しく聞かせていただけますか?」
ライマーは男がイエさんに見とれているうちに逃げようとしたのか、右足をぐっと踏み込んだ。私はその足を引っかけて彼を転ばせる。
「へぶん!!」
メルヴ・メイプルがライマーの体を蔓でぐるぐる巻きにし、逃走できないようにしてくれた。
「ありがとう、メルヴ・メイプル!」
『オ安イ御用ナノ』
男性のほうにも両手に縄が巻かれて拘束状態になっていた。
「な、何を――!?」
「私は騎士隊の者です。あなたがその男に渡した小包について詳しく話を聞きたいので、同行願います」
「ひ、ひい!!」
二人の身柄は騎士隊に突き出される。奇しくも犯人逮捕の場に居合わせてしまったわけだ。




