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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第三章 魔女と聖女の諍い

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売れない薬草石鹸

 こうなったら薬草石鹸をこのままカウンターで売ってやる。そう思って営業開始するも、思いもよらない結果となった。


 今日も今日とて、薬局の営業は常連さんに支えられている。

 宿屋のご主人が帰ってから数分と経たずに、市場で八百屋を営む若夫婦のご主人、ウェイさんがやってきた。


「魔女さん、いつもの薬をくれるかな」

「いらっしゃい、ウェイさん。いつものを四つでいい?」

「ああ、頼むよ」


 魔法薬を包む間、手持ち無沙汰な様子の常連、ウェイさんに薬草石鹸を勧めてみる。


「そういえばそろそろ薬草石鹸が切れる頃なんじゃない? 一緒にいかが?」

「あー、石鹸はねえ、新しいのを買ってしまったんだよ」

「まあ、そうなの」


 ウェイさんは「今後、石鹸はこれしか使わない!」とまで言っていたくらいの熱狂的な薬草石鹸の大ファンだった。それなのに別の石鹸を買うなんて。


「同じような薬草石鹸が売っていたの?」

「いや~~~、なんか、なんとか泡石鹸っていう、泡立ちがいい石鹸でねえ」


 なんだか聞き覚えのある流れにピンとくる。


「もしかしてローズピンクの美しい髪に、エメラルドみたいな澄んだ瞳を持った美人から買った?」


 ウェイさんは肯定しなかったが、どうしてわかったんだ!? と言わんばかりの表情で私を見つめる。


「どの辺りで買ったの?」

「いや、その、一昨日のお昼前に、向かいの宿屋の前で」

「ふーーーーん」


 どうやら宿屋のご主人と同じ日に聖女スイから石鹸を買ったようだ。


「いや、お貴族様の娘っ子が使っているような高級な石鹸が、薬草石鹸よりも安いお試し価格で買えるって言うから、うちの娘達が喜ぶと思って」

「そう」


 いったいどうしてうちの常連さんにピンポイントで売ってくれるのか。内心、頭を抱えてしまう。


「はは、その、使っている石鹸がなくなったら、今度は薬草石鹸を購入するから」

「ええ、お願いね」


 頑張って笑みを浮かべて見送ったあと、はーーーーーーと盛大なため息を吐いてしまう。

 調子がいいときは薬草石鹸を一日二十個売るなんて簡単なのに、今日は上手くいきそうにない。

 聖女スイが常連さんにばかり石鹸を売っていたのは偶然だろうと思っていたが、午前中だけで三人、四人と続いたら怪しく思ってしまう。

 ため息を零していたら、イエさんがやってきた。


「店主さん、こんにちは」

「いらっしゃい、イエさん」


 イエさんの姿を見たらホッとしてしまった。けれども疑い深くなっていた私は、思わず聞いてしまう。


「あの、イエさん。聖女スイの石鹸を買ってないですよね?」

「買うわけありませんよ」


 やわらかな物言いだったが、確固たる意志が滲む言葉だった。

 それを聞いてホッと安堵する。


「聖女スイの石鹸がどうしたのですか?」

「実は常連さんが何人も彼女の石鹸を買っているみたいで……。宿屋のご主人なんか、二十個も買ったようなの。うちの薬草石鹸を一ヶ月前に二十個予約していたのに、取り消されてしまって」

「それは酷いですね」


 これがそう、とカウンターの薬草石鹸を手で示すと、イエさんは思いがけないことを言う。


「ご迷惑でなければ、私が二十個購入してもいいでしょうか?」

「そんな、悪いわ。大丈夫、じきに売れると思うから」

「しかし、余剰在庫になるのでは?」


 そうなのだ。昨日張り切ってたくさん薬草石鹸を作ったので、売り場には山積み。地下倉庫にもたっぷりある。聖務省に納品するのはまだ先なので、イエさんの言うとおり余剰在庫になっているのだ。


「実はお世話になっている知人に贈り物をしたいと考えておりまして、薬草石鹸ならば喜んでいただけるのではと思って」

「二十個も同じ石鹸をもらって喜ぶ?」

「ええ。知人は慈善活動に熱心な人なので、養育院などにも持って行くと思います」


 それならば買い取ってもらってもいいのか。でも、なんだか申し訳ない。

 何かお礼を――と考えた瞬間、ピンと閃く。


「そうだわ! うちのランチの無料券十回分を付けるわ」

「赤字になってしまいますよ」

「大丈夫よ。ランチ営業は今のところ私の楽しみみたいなものだし、イエさんが食べにきてくれたら嬉しいから」

「店主さん……」


 その後、イエさんは何度か遠慮していたが最終的にランチ無料券を受け取ってくれた。


「今日もおいしい料理ができているの。時間があればだけど、食べていかない?」

「ええ、いただきます」


 そんなわけで、今回もイエさんと一緒に昼食を食べたのだった。

 どれもおいしいと言ってもらえて、嬉しい気持ちになる。

 お腹いっぱいになったところで、イエさんをお店の外まで見送った。

 二十個もの薬草石鹸は持ち帰るようで、大荷物になってしまった。


「大丈夫? 職場に届けることもできるけれど」

「平気です。これでも力持ちですので」


 気をつけて、と見送っていたら、背後から声がかかる。


「レイ、お前、またその男を店に連れ込んでいたのか?」


 振り返った先にいたのは、ライマーだった。

 私が買ってあげた白い甲冑姿での登場である。

 兜を大げさな様子で外し、髪をかき上げながら得意げな表情で私を見てきた。腹が立つ顔である。


「ライマー、何をしにきたのよ」

「聖騎士様相手にその態度はなんだ! ただ、街を見回りしているだけだ!」

「ふうん」


 街の巡回を行うのは一般の騎士で、聖騎士が警備をするのは聖教会内が基本だ。

 もしかして聖女スイの専属護衛騎士を騙った罰として街の見回りを命じられたとか?

 聞きたくなったものの、お店の前でわめき散らしそうだったので止めた。


「それはそうとお前、その男とどういう関係なんだ? まさか俺に振られて寂しいあまり、その薄汚い男に慰めてもらっ――」


 いったい何を言っているのか。

 余計なことを言い終える前に、ばちん!! と思いっきりライマーの頬を叩いてやった。

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