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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第三章 魔女と聖女の諍い

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素材をゲットしたい

 ゴールド公爵領にある森はそこそこ魔物が多い。

 狩猟大会前はすべて討伐できるわけでなく、魔物が好む臭いで誘引し、罠みたいな仕掛けで捕らえておくのだ。

 それは祝福である緑の手を使って作る、草裁縫ソーイング・プラントである。


『グオオオオオ!!』


 早速、犬系モンスター、ヘルハウンドが牙を剥きだしにしながら襲いかかってきた。

 私はすぐさま地面に自生する雑草に触れ、呪文を唱える。


「――紡げ、草裁縫ソーイング・プラント!!」


 草が糸のように伸びて網状になっていく。その草の網が私に飛びかかってこようとしたヘルハウンドに覆い被さった。

 草網は大地に深く根を張り、閉じ込められたヘルハウンドは身動きを取ることができなくなる。

 仕上げとばかりに草網に触れ、祝福である太陽の手を発動させる。

 温もりを通り越して発火状態となった手から草網に燃え移り、ヘルハウンドの身は炎で包まれる。

 森に燃え移らない炎なので、このままここに放置していても問題ないだろう。

 いちいちこのように魔物と戦闘をしていたら採取をする前に疲れてしまう。

 魔物は見せしめのように早い段階で仕留めておくと襲ってこなくなるので、最初のエンカウントは全力で戦うのだ。


「――ふう」


 木の陰に隠れていたメルヴ・メイプルがやってくる。


「大丈夫だった?」

『平気ナノ』


 メルヴ・メイプルもある程度戦闘能力があるものの、心配なので戦わせないようにしている。大切にしている箱入り娘なのだ。


 先代薬草魔女の家から南下した先に崖がある。ここを上った先に洞窟があり、内部に目的の鉱物がある。

 崖はとても上れるような斜面ではないのだが、緑の手を使って生えている植物の葉を巨大化させて階段のようなものを作っている。

 うっかり崖から落ちないようメルヴ・メイプルが蔓を私の腰に巻き付け、命綱のようなものを毎回作ってくれるのだ。

 なんとか崖の頂上まで上がっていくと、今度は洞窟内を散策する。

 そこにあるのは、石鹸作りをするために重要な曹達石そーだせき

 この曹達石自体は触れると皮膚が熱傷したり、目に入ると失明したり、吸い込むと粘膜を腐食したりと、大変危険な鉱物である。

 なぜこのような危険物が必要かというと、油脂と曹達石、水を混ぜると鹸化反応を起こして石鹸ができるのだ。完成後、熟成期間を経て肌に優しい石鹸が完成となる。


 洞窟内は曹達石に照らすと光る特別な魔石灯を持って探していく。

 ここにはコウモリ系やトカゲ系、虫系の魔物が出現するものの、魔石の灯りを嫌って接近してこない。

 しばらく歩いていると岩壁が光る箇所があった。


「ここね」


 頭巾を被り、顔を保護するマスク、手袋を装着して、メルヴ・メイプルには離れておくように言っておく。

 たがねを当てて、ハンマーで叩くと岩がぽろぽろ崩れ、その中から真っ青の石が露出する。


「あったわ!」


 これが曹達石である。周囲の岩を丁寧に取り除き、拳より大きな曹達石を入手することができた。

 この調子でどんどん曹達石を採掘していく。

 最終的に二十個くらいの曹達石を入手できた。


「こんなものね」


 洞窟内なのでわからないが、時刻はおそらくお昼過ぎくらいだろう。

 ここから脱出して湖で顔を洗ってから食事にしたい。

 なんて考えていたら、ぞわりと鳥肌が立つ。嫌な予感しかしなかった。


『レイ、魔物接近ナノ!』

「やっぱりそうなるわよね」


 振り返った先にいたのは、大型の蜘蛛系魔物、毒持ちのポイズン・スパイダーだ。


『アッチ、蜘蛛、巣ガアルノ』

「わー、気付いてなかった!」


 どうやら知らぬ間にポイズン・スパイダーの縄張りに入っていたらしい。

 おそらく子育て中の母蜘蛛なのだろう。小さな蜘蛛が母親のお腹の下にぶら下がっていた。


 ポイズン・スパイダーは毒が染みこんだ糸を硬化させ、矢のように飛ばして私を攻撃してくる。


「ちょっ、うわっ!!」


 洞窟内は草など自生していないので、草刺繍の祝福を使うわけにはいかない。火魔法もここでは空気が少なくなりそうであまり使いたくない。

 こうなったら、色欲魔女に習った魅了魔法でどうにかするしかないのだ。

 メルヴ・メイプルを抱いて回避していたのだが、地面のヌメリに足を取られて転びそうになる。


「きゃあ!」


 最悪! と思った瞬間、メルヴ・メイプルが大きな葉っぱを出してクッションみたいに受け止めてくれた。それだけでなく、その葉を盾のように構えて毒糸攻撃を防いでくれた。


 メルヴ・メイプルに心の中で感謝し、魅了魔法を詠唱する。


「――心を掴め、魅了(チャーム!)」


 薄紅色の煙がポイズン・スパイダーの周囲を取り囲む。するとすぐに大人しくなって、私を見るなり指先をもじもじと動かし始めた。

 母蜘蛛だけでなく、子蜘蛛も同様に。殺気などはきれいさっぱりなくなったようだ。


「効果抜群だわ」


 魔物に使ったのは初めてだったが、ここまで効くなんて。と驚いている場合ではない。


「あなた達、そこにいなさいね。私がいなくなったら、巣で大人しく過ごすこと!」


 そう言ってその場を去り、急いで洞窟から脱出する。

 太陽光を浴びた瞬間、はーーーーーと盛大なため息を吐いてしまった。


「曹達石を背負っていたら、すぐに毒糸を浴びていたわね」


 メルヴ・メイプルのおかげで助かった。感謝したのは言うまでもない。

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