採取にいこう!
薬草魔女の薬局は週に二回ほど定休日を設けている。
もちろんのんびり休む時間ではなく、薬草の採取をしたり魔法薬を調合したりしているのだ。
採取については一応ルールがある。基本的に他人の領地に勝手に入って薬草などを採ることは国の法律で禁じられている。
けれども土地の保有者と契約し、採取が許されるパターンは存在する。私も数カ所、土地土地の領主と契約を交わしているのだ。
一つ目は聖都より西方にあるヴィリアン伯爵領。ここでは種類豊富な薬草が採れる。
そこでは月に三本、魔法薬を渡せば好きに採取していいことになっていた。
もう一つは港町の近くにあるヴェイル子爵領。ここでは調合の素材となる海水や珊瑚、真珠などが採れるので、お手製の塩と引き換えに取り引きを行う。
最後は先代薬草魔女が住んでいた土地であり、ゴールド公爵の領地でもある。そこではさまざまな鉱物や魔物の骨や皮を得ることができるのだが、狩猟大会があるシーズンの前に魔物を討伐するという契約を結んでいるのだ。
本日は石鹸の材料を採りに、ゴールド公爵の領地へ向かう。
採取地への行き来は魔法の姿見で行う。自分の姿を映し、鏡に触れるとあっという間に移動できるのだ。
『レイ、メルヴ・メイプルモ、一緒ナノ』
「ついてきてくれるのね。ありがとう」
これまでは大きなかごを背負って採取していたのだが、今回から収納鞄がある。鉱物集めのときは重くて翌日には必ず腰を悪くしていたので、かなり助かるアイテムとなるだろう。
メルヴ・メイプルと共に転移した先は、先代薬草魔女が住んでいた家である。
物語に登場しそうなかわいらしいレンガの平屋建てで、今でもひょっこり先代薬草魔女が現れそうな雰囲気である。
「ただいま、師匠」
『タダイマナノ』
当然、返事はない。
先代薬草魔女は私にあとを継がせたあと亡くなったのだ。きっと寿命がわかっていて、私を弟子としてくれたのだろう。
先代薬草魔女に花嫁姿を披露できるだろうか、なんて考えていたが、ついには叶わなかった。
そしてこの先も、私が花嫁衣装に袖を通すことなどないのだろう。
外に出ると豊かな薬草園が広がっている。誰も住んでいないのにわさわさ生えている理由は、薬草の生命力が強いからというのもある。けれどもそれ以外に、先代薬草魔女と契約していた妖精や精霊が世話を焼いてくれるのだ。
契約なんてとっくに切れているだろうに、彼らは先代薬草魔女が薬草園を大事にしていたのを知っているので、今でも水やりなどをしてくれるのだろう。
そんな妖精や精霊の姿は私には見えないのだが、メルヴ・メイプルの瞳には映っているようだ。
『ミンナ、元気ナノ』
「そう、よかったわ」
先代薬草魔女の使い魔だったメルヴ・メイプルはしっかり者で、私の助けなんていらない。メルヴ・メイプルだけ契約を引き継ぐように言ったのは、きっと私が心配だったからだろう。現にメルヴ・メイプルの存在に助けられたことは一度や二度ではなかったから。
薬草園の真ん中に先代薬草魔女が眠っている。そこには季節を問わず、先代薬草魔女が好きだったチェリーセージのかわいらしい花が咲いていた。きっと妖精や精霊の祝福で咲いているのだろう。
私は二階の窓にある花台で育てていたローズマリーの花を手向ける。
これも先代薬草魔女が好きな花だった。
墓前にしゃがみ込み、最近あった出来事について報告する。
「師匠、私ね、婚約破棄されたわ」
弟子入りする前、身の上を話したとき、先代薬草魔女は「男に依存して生きるとろくなことがないよ」と言っていた。
その当時の私は依存なんてしていない。むしろライマーは私と結婚するために出世を目指し、頑張っているんだと言い返したのだ。
「本当にその通りになったわ。ライマーを信じていたのに、結局いいように利用されていただけだった。師匠の言葉を信じてすぐにライマーを振って、ここで暮らしておけばよかったって今になって思うの」
そのほうが何百倍も幸せな日々を過ごせただろう。しかしながらもう、すべて終わったことである。
過去を悔いるのでなく、未来を前向きに生きなければならないのだ。
「これからは私がしたいことをして、自由気ままに生きるわ。だから、見守っていて……」
真冬なのに頬を撫でるような優しい風が通り過ぎた。まるで先代薬草魔女が「幸せにおなりよ」と言ってくれた気がして、なんだか嬉しくなった。
「メルヴ・メイプル、いきましょう」
『ワカッタノ』
家の周囲は魔物避けの薬草が植えられているので安全だが、ここから一歩出たら油断ならない状況になる。
先代薬草魔女から引き継いだ薬草長杖を手に、いつでも戦えるよう警戒しながら森へ入ったのだった。




