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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第二章 魔女の気まぐれランチ、はじめました!

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招かざる客人

 気持ちよくランチを提供できてルンルン気分でいたのに、次なるお客さんの顔を見てうんざりしてしまう。


「あら、ここが薬草魔女のお店ですのね」


 やってきたのは波打ったローズピンクの髪をハーフアップにした、メイド姿の聖女スイである。


「あなた、そんな格好をしてどうしたの?」

「聖務官達の目をあざむくために、変装しましたの」


 髪を下ろした華やかな雰囲気のメイドがどこにいるのか。

 レベルの低い変装に神官ともあろう人々が騙されるなんて、聖務省の内部が心配になる。


「ライマーは?」

「あなたと二人っきりで話したかったから、撒いてきました!」

「撒いてきたって……」


 護衛騎士を撒くのはダメだろう。ただ、私がそんな苦言を呈しても彼女が聞く耳なんて持つわけがない。


「そんなことよりもここ、ランチ営業をしていますのね」

「ええ、そうだけど」

「限定三食とあったけれど、わたくしの分もあります?」

「聖女様のお口に合う料理ではないと思うのだけれど」

「平気ですわ。聖教会で出される料理も口に合いませんので!」


 粗食なのかと聞いたら、そうではないと言う。


「なんていうか、こってりしすぎていますの。まともに食べたら胃もたれしてしまいますわ!」


 豚の脂で煮込んだ肉料理とか、バターで揚げたパンとか、油をぎっとりまとった魚フライとか、年若い女性が口にするにはきついメニューばかりらしい。


「最近はすっかり太ってしまって、健康のために聖務官達が口にしているような粗末な食事でも構わないと訴えたのですが、ダメだと言われる始末でして」


 昼食を食べるのが嫌になって教会を飛びだしてきたという。


「あなたと話したいことがありましたので、ここでいただきますわ」

「はあ」


 私は聖女スイと話したいことなんていっさいないのだが。ただ、お客さんである以上、無下に扱うわけにもいかない。しぶしぶランチを用意した。

 ドライアドは聖女スイを見て興奮するかもしれないので、事前に店の奥へと運んでいく。


『なんか、美しい声が聞こえてきたのじゃが』

「気のせいよ」

『そうかの?』

「ええ、嘘は言わないわ」


 寝ぼけていたせいで、聖女スイの声を夢で聞いたと思い込んでくれたようだ。

 そのまま眠ってくれたのでホッとする。


 食事スペースにと確保しておいたカウンターに食事を置くと、聖女スイは嬉しそうに「まあ、おいしそう!」と声をあげる。

 彼女からしたら、人件費込みの銅貨五枚の料理なんて粗末な食事に分類されるのだろう。一生懸命作ったので、お口に合えばいいのだが。

 聖女スイは熱心な様子で祈りを捧げたあと、料理に手を付ける。

 ナスとレンズ豆のスープを口にした瞬間、ハッと肩を震わせた。

 なぜか瞳に涙が浮かぶ。


「どうしたの? 熱かった?」

「いいえ……昔、母が作ってくれたスープに味が似ていて、懐かしくって……」


 その話を聞いてはて? と思う。聖女スイの母親は侯爵夫人で、料理なんてするわけがないのだが。慈善活動のときにでも作ったのだろうか。


「サラダも、パンもおいしい」


 どこか演技がかった喋りをしていた聖女スイだったが、食事を口にしてからは素直に出た言葉のように聞こえた。


「薬草魔女、ありがとうございました。おいしかったです」

「そう、よかったわ」


 ひとまずお口に合ったようなので一安心である。相手が誰であっても、一生懸命作った料理なのでおいしく食べてほしいのだ。


「ところで薬草魔女は何歳ですの?」

「二十九歳だけれど」

「まあ! お母様と一緒の年ですわ」

「なんですって!?」

「わたくし、十五歳のときの子どもでしたので」


 待て待て待て!!!! と言いたくなる。

 それに聖女スイの母親である侯爵夫人は四十代くらいだ。

 もしや侯爵が年若い娘と不貞した上で生まれたのだろうか?

 だとしたら、料理をする母親像に無理はないのだが。

 いやでも聖女スイは十八歳なので、年齢の計算が合わない。


「あ~~~~、もう!」


 深く考えたら頭が痛くなりそうだった。


「年齢のことなんてどうでもいいわ! あなた、いったいなんの用事なの?」

「ああ、そうでしたわ! お仕事を譲っていただきたくって、直接交渉に参りましたの」

「仕事を譲ってほしい?」


 聖女スイに譲れるような仕事なんて、私は所持していないのだが。

 なんて考えていたら、聖女スイは目の前に石鹸を差しだしてくる。


「それは何?」

「石鹸ですわ!」

「見てわかるわ。その石鹸がどうしたのかって、聞いているの」

「こちらはわたくしが独自の技術で作った、〝シルク泡石鹸〟ですの」

「シルク泡石鹸?」

「ええ!」


 なんでもシルクの手触りみたいなモコモコの泡が自慢らしい。


「これまで聖務省ではあなたが作った薬草石鹸を使っていましたが、これからはわたくしのシルク泡石鹸を使っていただきたいと思いまして」

「つまり、石鹸を売りつける権利を寄越せって言いたいの?」

「ええ!!」


 彼女は曇りのない表情で大きく頷いた。

 

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