気持ちのいい朝
食後ものんびり過ごせる。これまでは帰宅後に夕食作りをし、洗濯、掃除に追われ、バタバタしながら一日を終えて就寝するのは日付が変わったような時間帯だったのだ。
ライマーは毎日「疲れた!」と言って食事を食べたあとお風呂に入り、「あとは任せた!」と言って眠ってしまうのである。
なんとも贅沢な暮らしをしていたものだ、と改めて思ってしまった。
そんなライマーに対して疑問を持たず、あれこれ尽くしていた私も悪かったのだけれど。
小型片手鍋で牛乳を温め、蜂蜜をたっぷり垂らしたものを飲む。
いつもこうしてホットミルクを飲むときは、祝福〝太陽の手〟を使っていた。
熱を持つことができる手は調合の他、私生活にも時として助かるのだ。
ただ、それは生活に追われているときの処世術で、時間がありあまる今はこうして牛乳を温める鍋と火を眺めるのも悪くない。
食後はランチメニューについて何か考えようか、と思ったが、なんだか眠気が襲ってきた。慣れないことをしたからだろうか、それとも体の休めと訴える声が聞こえるようになってきたのか。
今後、私の自由時間はいくらでもあるのだ。これまでのように、生き急ぐように働くこともない。
そう思って今日のところは早めに眠ることにしよう。
二階に上がると、メルヴ・メイプルが天井に吊り下げていたハンモックを床に下ろしてくれる。
「メルヴ・メイプル、ありがとう」
『オ安イ、御用ナノ』
ハンモックに横たわると、メルヴ・メイプルも隣に滑り込んでくる。
そして大きな蔓から大きな葉が生え、ブランケットのように私の体を覆う。その葉っぱは毛布みたいにふかふかしていて温かかった。
目を閉じると、メルヴ・メイプルはゆっくりハンモックを天井へと上げてくれる。
ゆらゆらとハンモックが優しく揺れる中、私は眠りに就いたのだった。
朝――早くもなく遅くもない、ちょうどいい時間帯に目覚める。
「ん~~~~!!」
メルヴ・メイプルが下ろしてくれたハンモックから脱出し、カーテンを広げた。
見事な晴天が広がっていて、なんとも気持ちのいい朝である。
洗面所などはないので、浴槽で顔を洗って歯を磨く。
服はいつもの動きやすいロングドレスに、薬草魔女の外套を合わせる。
髪は適当に――と思ったけれど、今日は時間があるので丁寧に編み込みをつくって後頭部でまとめてみた。
昨日購入したリップや白粉もあるので、久しぶりに化粧をしよう。
手鏡の向こうに映る私は、いつもより活き活きしているように見えた。
一階に下りて魔石ポットで湯を沸かし、ブレンドティーを作る。
肌の調子を整え美肌にするマローブルーに吹き出物などに効果のあるカモミール、それから肌に栄養を与えるローズヒップの茶葉をポットに入れて、しばし蒸らす。
メルヴ・メイプルには蜂蜜を入れ、レモンを搾った特製ジュースを作ってあげた。
ドライアドにはメイプルシロップを溶いた湯冷ましをあげよう。
薬草茶を蒸らしている間、ササッと朝食を準備する。調理が面倒なので、カットしたパンに昨日の残り物のトマト煮、保存食のキャベツの酢漬けを載せただけのオープンサンドだ。
食卓などないので、台所に椅子を持ち込んでいただく。
「うーん、おいしい!」
自分が大好きな料理を朝から食べることができるなんて、最高としか言いようがない。
ライマーは好き嫌いが多くて、どれだけ私が食べたい料理を我慢していたか。
これからは好きな料理を好きなだけ食べられるのだ。
とてつもない開放感に、感動してしまう。
ずっと気付かずに、抑圧された環境で暮らしていたんだな、と思った。
開店前にお店を掃除して、欠品していた商品を調べて地下の在庫を持ってくる。
その後、薬局を開くまで売れ筋商品を調合していたのだが、その必要はもうないだろう。
これまではライマーが月末に必要なお金について私に相談し、それにあわせて商品を売ってきた。目標の金額に達するまで冒険者に直接魔法薬を売りにいったり、ギルドの依頼を覗きにいったり、知人の貴族の家に訪問販売にいったり、と必死だったのだ。
在庫は潤沢にあるし、急いで作る必要なんてない。
「そうだわ、ランチ営業、今日から始めてみようかしら?」
魔女の気まぐれランチなので何を作ってもいいのだ。
開店までに短時間で作れる料理は、保存食を使おう。
レンズ豆の水煮にナスのオイル漬け、トマトの水煮を使ってスープを作る。
まず、オリーブオイルで分厚くカットしたベーコンと刻んだタマネギを炒め、火が通ってきたら刻んだニンニクを加えて香りを付ける。それらをレンズ豆、トマトの水煮と一緒に入れてぐつぐつ煮込んだ。
ローズマリー、クミン、ローリエに塩コショウを加えてぐつぐつ沸騰させ、最後にナスを入れてひと煮立ちさせたら、ナスとレンズ豆のスープの完成である。
それにバケット、レタスと薬草のサラダを添えたものをランチとして提供してみよう。
もしも売れなくても、昼食と夕食にすればいいだけの話なのだ。
「価格はそうねえ、銅貨五枚くらいかしら」
紙に〝ランチ営業始めました!〟本日限定三食、銅貨五枚、メニューは〝魔女の気まぐれランチ〟のみ、詳細は店主にお尋ねください、と書いた紙をお店の扉に貼り付けておく。
「これでよし!」
あとはお客さんがやってくるのを待つばかりだ。




