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「出世したら結婚しよう」と言っていた婚約者を10年間支えた魔女だけど、「出世したから別れてくれ」と婚約破棄された。私、来年30歳なんですけど!!  作者: 江本マシメサ
第二章 魔女の気まぐれランチ、はじめました!

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のんびり過ごそう!

 ライマーのことは頭の隅っこにささっと押しやって、まずは魔法の浴槽を設置しよう。

 ふと、階段を上がるときに気付く。思っていたよりも狭いことに。


「これだったら浴槽を二階に持って上がるのは難しかったかもしれないわね」


 窓も小さいので外からの搬入も困難だっただろう。思い切って収納鞄を買ってよかった、と心から思った。

 手伝ってくれるというメルヴ・メイプルと一緒に二階へ上って、まずは防水液を床に塗布する。

 メルヴ・メイプルが差しだしてくれたのは、ライマーが好物だったパイ作りの卵液を塗るために使っていた刷毛はけである。

 もう二度と彼のためにパイを焼くことなんてないし、古くなってもいたので遠慮なく使うことにした。


「まあ、すごいわ。本当に塗った傍から乾いていく!」


 速乾の売り文句は本当だったようだ。メルヴ・メイプルは木の枝と葉っぱで作った自作の刷毛で作業を手伝ってくれる。力を合わせて塗ったらすぐに作業は終了となった。


「よし、こんなものね」


 試しに水を零してみる。すると水をしっかり弾いて床に浸透することはなかった。

 さらに数秒放置していたら、水が蒸発していったのだ。拭き取らなくても勝手に処理してくれるなんて、とてつもなく助かる。


「このアイテム、すごいわ!」


 タイルはカビの発生が心配だが、防水液を塗った床であれば手入れも楽だ。

 いい買い物をしたと心から思った。


 あとは収納鞄をひっくり返し、浴槽を設置する。

 ガタさんに教えてもらったように収納鞄をひっくり返した状態で浴槽について考えると、本当に出てきた。思った通りの場所に設置されたので、動かさなくてもよさそうだ。


「家の中で見ると、大きく見えるわね」

『立派ナノ!』


 せっかくだからこのまま入浴してしまおうか。

 ライマーと会ってしまったので体に不快感が残っていたのだ。お風呂に入ったらきっとスッキリするだろう。


 地下から薬草を持ってきて薬湯を作ろう。

 今、とにかくイライラしているので、それらの症状を和らげてくれるレモンバームにラベンダー、ペパーミントをチョイスした。

 乾燥させた薬草を細かくちぎって、ガーゼで作った小袋に入れる。

 続いて疲労回復の効果がある魔法薬を用意し、二階へ上がった。

 ガタさんに教えてもらった通り浴槽に魔石を設置し、呪文を指先で摩るとあっという間に湯が張られる。そこに薬草入りの小袋と魔法薬を加えたら薬湯の完成だ。

 カーテンを閉めてから服を脱ぎ、肩まで薬湯に浸かる。


「は~~~~~気持ちがいいわ」


 薬草のいい香りに癒やされ、魔法薬の疲労回復効果が余すことなく発揮される。

 疲労回復の魔法薬はそのまま飲んでもいいのだが、こうして薬湯に入れても効果があるのだ。

 浴槽に浸かりつつ、自慢の薬草石鹸で体を洗う。

 そこまで泡立ちはないものの、洗浄効果はどこの石鹸にも負けない。

 強い香りなどもないが、体臭などはきっちり消臭してくれるのだ。

 社交界ではいい匂いがする泡立ちがいい石鹸が人気のようだが、私はこの古きよき薬草石鹸が大のお気に入りだった。


「ふ~~~~~」


 石鹸混じりの湯を蒸発させ、新たに張った湯で体を濯ぐ。

 他の石鹸とは異なり、薬草石鹸は一回できれいに泡が落ちるのも特徴だ。

 泡立ちがいいタイプの石鹸はいくら濯いでも体にヌメヌメが残る。お風呂に入ったのになんだかスッキリしなくて、私は使わなくなった。

 同じような声はお客さんからも上がっていて、さっぱり入浴ができると好評なのである。


 浴槽には体の水分を飛ばす機能も備わっていた。タオルは必要ないようでありがたい。

 特に髪は長いので、一瞬で乾かしてくれるなんて本当に楽だ。


「最高!」


 ライマーと揉めて沈んでいた気持ちは明るい方向へ回復できた。

 少し休んだあと夕食作りを開始しよう。


「そういえばライマーが運んできた私物をメルヴ・メイプルが食料庫に運んだと言っていたわね」


 いったいどれだけの品を持ってきてくれたのか。怪しみつつ一階へ下りていく。

 食料庫に置かれていたのは見慣れぬ木箱が一つだけ。

 蓋を開くとそこには私がライマーのために作った保存食の瓶だけが詰まっていた。


「こんな重たい物をわざわざ運んできたのね」


 裏口から食料庫まで運んでくれたメルヴ・メイプルに感謝しなければならないだろう。

 忙しい毎日を過ごしていた私は、いつも手が込んだ料理ができるわけではなかった。

 バタバタと急いで帰宅したときは、作り置きしていた保存食を使って調理していたのである。

 トマトの水煮にホワイトアスパラガスの瓶詰め、赤カブの酢漬けに魚のオイル漬け、肝のペースト、アンズのシロップ煮に、リンゴのジャム、モモのコンポートなどなど。

 保存食作りを見たライマーは貧乏くさいことをするな! なんて言っていたが、保存食を使った料理にはてんで気付かなかったのを思い出す。

 振り返れば振り返るほど、ライマーは我が儘でクズな男だったなと思ってしまった。

 もうすべて終わったことだ。彼について考えて腹を立てたり、なんで気付かなかったのかと自分を責めたりする時間は無駄だろう。


「よーし、料理しましょう!」


 気分を入れ替えて調理開始だ。

 買ってきた鍋やカトラリー類は、私がお風呂に入っている間にメルヴ・メイプルが洗ってくれていたらしい。


『ジャブジャブ、シタノ』

「メルヴ・メイプル、ありがとう」


 ニンニクをオリーブオイルでカリカリになるまで炒めたあと、ニンニクだけを取り除き、鶏肉とタマネギ、ピーマン、パプリカを焼いて、トマトの水煮を加えてタイムやローズマリー、塩、コショウなどで味付けをする。しばらく煮込んだらトマト煮の完成だ。

 深皿に装ったあと、カリカリのニンニクをトッピングする。

 ニンニク臭が気になるだろうが、お口の消臭薬を飲めばいいだけなので問題ない。

 街で買ってきたパンと一緒にいただく。


「うーーん、おいしい!」


 ニンニクをたっぷり利かせる料理はライマーが職場で臭いが気になるから作るな! と言われていたのである、消臭薬があると言っても信じなかったのだ。

 そんな主張をしていた彼だったが、飲み会などではニンニクを使った料理を食べ、ニンニク臭を振りまきながら帰宅していた。

 矛盾でしかなかったものの、指摘をしたら怒るので何も言えないでいたのだ。


「――はっ!?」


 気付いたらライマーのことばかり振り返ってしまう。

 それだけ私の中には彼との思い出がいっぱいなのだろう。

 当時、私は怒ることができず、彼の意見を鵜呑みにするしかなかった。

 こうして改めて怒りを発散させるのも大事なのかもしれない、と思えるようになった。

 そんなわけで、「滅べ口だけ男!!!!」と心の中で思いながら料理を完食した。


 とてもおいしかったが、ランチにニンニクたっぷりの料理を提供するのはどうなのか。

 食後に消臭薬入りの紅茶を振る舞えば問題ないのだろうが。

 候補の一つにしておこう、と思ったのだった。

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