第五話 ゼントの能力。
「問題なし。帰っていいいですよ。」
保健室の中から廊下に声が響く。
僕は今、保健室の前にある長い列の一番うしろに並んでいる。
ここまで言えば分かるだろう。
そう、僕は身体検査を受けに来ているのだ。
保健室では、看護師が魔法具を使って体重、身長などの基本情報を計り、医師が解析魔法で体に以上がないかどうかの確認などを行っている。
最後に教会の人間が聖属性魔法を使って簡単な浄化などを行って修了という流れらしい。
その後は、魔力検査だそうだ。
「身体検査って言うから、俺はてっきり身体能力を計られると思ったぜ。」
「そうだね。」
アランは早くに身体検査が終わり、僕の横に来て僕に話しかけはじめた。
別に無視するほどのことではないので適当に相槌を打っておくことにする。
僕は今、ゼントと話すのにいそがしかった。
(じゃあ、やっぱり時計が出たのはゼントの能力っていうこと?)
(そうですね、まあ……何やら融合して弱体化しているようですが……。)
(うん? 今、なにか言った?)
ゼントが肯定した後になにか言っていたいたように感じたが……
(いいえ、なんでもありませんよ。それよりも私の能力のことですよね?)
まあ、なんでもないと言うならば追求はしないでおこう。
それと、能力についてやっぱり僕は詳しく知りたい。
(ああ。)
(私の能力は、あなたが望んだことをあなたが知っている範囲で叶えるというものです。)
(どういうこと?)
(流石にこれではわかりにくいですね。詳しく説明しましょう。)
(まず、あなたが何か望みます。何かが欲しい、何かになりたい、などですね。)
(うん。)
(そうすると、あなたの知識の範囲でその望みが叶います。)
(先程は、目覚まし時計がほしいと望み、あなたの中に目覚まし時計の知識があったので目覚まし時計が出現しました。)
(それって、要するに色んなものをコピー出来るってこと!? すごいじゃないか。)
たしかに強い能力だ。僕が神になっていると言われても頷ける。
それに応用性が高い。僕を奴隷にした奴らの復讐にも役立つだろう。
(ただ、この能力には制限があります。)
(制限?)
(そうです、願いはあなたの知識の範囲で叶います。つまり、知識にない機能などはないということです。例えば、先程の目覚まし時計に実は宝石が入っていたとしても、それを知らないあなたの願いでできた目覚まし時計には宝石が、入っていないということです。)
それは、欠点とは呼べないだろう。
僕が知らないということは僕が想定していないということだ。むしろ、僕の想定していないことが起こらないのはいいことだと言える。
なので全く問題はない。
だが、僕は自分の知識のところで気になることがあった。
(もしかして、それは前世の僕が知っている物も生み出せたりするのか?)
もしそれができれば僕の力は更に強くなるはずだ。
(それにも制限がかかっていますね。不完全な知識を完全な状態にしたりといっことは出来そうですが、物質として呼び出したり、前世の知識のものになるといったことはできないようです)
そうか、出来ないのか。
だが、知識は取り出せるらしい。僕の前世の世界がこちらの世界よりも発展していることを祈るばかりだ。
(あっもう一人の少女の方も来ましたよ。)
そう言われてアランへの生返事ではなく、しっかりと自分の目で周りを見渡す。
「カイト! 完全に問題なしだよ!」
やけにテンションが高い。
だが、これがジュリの平常運転だ。講堂から保健室に向かうまでの短時間でも分かったことだが、彼女は人付き合いが得意な性格のようだ。
ここまでの間に何人かの生徒や教師に話しかけ、友人になっている。
一度、外部から来たと思われる小太りの騎士に話しかけてうるさそうに追い払われたのにはアランと二人でこっそりと笑ってしまった。
まあ、その後ですぐに出席簿で呼ばれた順番に並べと言われてウヤムヤになったが。
「おいおい、カイトには声をかけて俺には声をかけないのかよ。」
アランが笑いながら言う、軽口のつもりなのだろう。
「へー、話しかけてもらえなくて寂しいんだ。」
「なんだとっ!」
だが、ジュリはわざわざそこでアランを挑発する。
僕が思うに、この二人が喧嘩する原因はジュリではないだろうか?
好きな子どもにちょっかいを出す悪ガキの進化版のようだ感じだ。
「二人とも、喧嘩をするな。それとジュリ、気軽に人に迷惑をかけるな。昔からの縁であってもいつか痛い目を見るぞ。」
ただ、友人以上の関係ではないのようだ。どちらかというと、腐れ縁のような雰囲気を感じる。
「分かった。ごめんアラン。」
まあ、復讐をする仲間に取り込めるのがベストだ。
まずは信頼を勝ち取ることから初めないとな。
「次、カイトくん来てください。」
そんなふうに二人の関係性について考察していると、いつのまにか時間が過ぎていたようで僕に声がかかった。
「呼ばれたから行ってくるよ。」
「あっうん。行ってらっしゃい。」
ジュリはすぐに僕の言葉に気がついて声をかけてくる。
「それじゃあ、行って来い。」
遅れてアランも声をかけてきた。
流石に身体検査で大変なことにはならないだろう。
そう思っていた僕は、もっとゼントを問い詰めるべきだったと後悔するハメになるのだった。
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