第一話 奴隷たちの待機所
ガタン!!
馬車がひときわ大きく揺れる音で僕は目を覚ました。
馬車に揺られながら2日。
自分のことをだんだんと思い出していく。
そうだ、孤児の僕は奴隷として祖国のローズ共和国からブラッドフォード王国へ差し出されたんだった。
どうしてそんな事になったんだっけ。そうだ、僕のことが第四王子の目に止まって、それでだ。
それと共に、出発前に孤児院で話したこと思い出そうとするが、何故かそれを思い出せない。
結構大事なことを話した気がするのだが・・・・・まあ、いいか。
夢の内容ももう忘れてしまった。
ポケットに手をいれる。
ポケットの中には真っ黒い板状の物が入っていた。
ずっしりとした重みがあり、側面の所々に穴が空いている。手に収まる長方形で、角は丸く加工されており、金属製のようだった。
孤児仲間のアルからもらったものだ。奴隷の馬車に乗せられてから色々と調べてみたが、今のところキレイな重しとして以外の使い方がわからない。
アルはなんと言っていたっけ?
それも思い出せないようだ。
まあ何にせよ。これから奴隷になる僕には関係のないところだろう。
そう思って、僕は黒い板ーーアルがスマホと呼んでいたものをポケットにしまった。
今日、この装甲馬車は王族へ売られた奴隷たちが集められている<館>と呼ばれる所に到着するらしい。
そこで検査などを行うそうだ。
僕はそんなことを考えながら馬車に揺られていた。
今の季節は冬、装甲馬車の鉄でできた壁は冷たい。
ブラッドフォード王国では季節が更に3つの月に分けられている。今は1月の初めだ。
僕の誕生日は1月の終わりであり、奴隷たちが王族に差し出される日でもある。
他の奴隷たちはうずくまって動かない。
彼らの心には何が写っているのか?
僕が知る方法はない。
そう思って僕は静かにため息をついた。
・・・・・・・・・・
「おい、降りろ。」
御者の声が声をかけた。
他の奴隷たちはゾロゾロと足音を立てながらその指示に従う。
僕も奴隷のみんなといっしょに馬車を降りる。
そこには、僕の生まれ故郷にして僕の孤児院があったラーロ地方の街とは比べ物にならないほどの大きさの建物がたくさん並び、今まで見たことがないほどの人がいた。
周りを歩く人はこちらを遠巻きにしながら歩いている。
僕達のことを話している人がいた。
「おい見ろよ、奴隷だ。しっかし、まるで犯罪奴隷みたいな扱いだな。」
「可哀想にねぇ、親が借金でもしたんでしょうね。」
「自分で返さずに子どもに返させるなんてひどい親だな。」
「いや、お前ら違うぞ、あれはローズ共和国からの奴隷だ。」
「それだと何が違うんだい。」
「ローズ共和国は、国力が弱いから他国に強く出られない。だから、借金奴隷には出来ないようなことをするために孤児を奴隷として差し出させてるんだ。」
「うわっ。怖い話だねぇ」
「ああ、犯罪奴隷も重犯罪人が少なくなってきたらしいからな。あの後どんな目にあるんだろうな。」
聞く所によると、どうやらこの国では本来奴隷は借金奴隷での奉公人が殆どらしい。
年季と仕事内容も決められていて、年季が過ぎたら開放されるようだ。
その他には犯罪奴隷と言うものがいて、重犯罪者をこの世に役立てるものらしい。
国がすべて管理しているそうだ。
だが、その犯罪奴隷が近年少なくなっているそうだ。
国内の治安の改善は喜ぶべきところだが、犯罪奴隷というのは有用だった。
そこで他国から合法的に奴隷を連れてくることになり、僕たちが奴隷にされたようだ。
僕がそこまで思考すると僕の心が怒っているのを感じる。
そんな政策を取ったブラッドフォード王国に怒りが湧いてきた。
殺したい。
そう思った時、突然「殺すのは良くない」という声が聞こえた。
僕は驚いて辺りを見回すが、奴隷たちのことを遠巻きにする人々が見えるばかりだ。少なくとも今僕に話しかけてきた存在はどこにもいない。
そうしていると今度は「困っているならば、助けるべきだ。」という声が聞こえた。
なんで僕をこんな目に合わせたやつを助けなければならないのだろう?
そう思うが、その声はそれ以上何も言ってこない。
僕が助けるべきなのは奴隷の仲間たちだろう。
僕が王族に献上されるまであと3週間以上ある。それまでは他の奴隷と交流しよう。
僕はそう思いながら御者の後をついていった。
・・・・・・・・・・
御者の後をついてしばらく歩くと前方に大きな館が見えてきた。
まっすぐ御者がその館に向かっていく。
歩いている途中でわかったが、僕たちの乗ってきた馬車が駐められたのは、この館の馬車置き場だったらしい。
最初からずっと同じ塀が右手に続いており、兵士のような者たちが奴隷が逃げないように睨みを効かせている。
僕は恐怖を感じないが、声は「ずっと立っているのだとしたら大変そうだ。」「助けてあげないと。」などと言っている。
この声が聞こえるのは僕だけのようだが、意味のわからないことを言うのはやめてほしい。
彼らは僕を奴隷にした人物の部下だぞ。
というか、僕が声を意識してからハッキリと聞こえるようになった気がする。
そんな事を考えている内に到着したようだ。
御者の人が館の門を守っている衛兵に僕たちのことを言う。
すると、四人いた衛兵の内一人が館の中へ走って行った。
しばらくすると、その衛兵は戻ってきた。
そしてもうしばらくすると、間違いなく騎士だと思われる集団に囲まれた。豪華な服を着た男性がやってくる。
その男性の後ろには執事と思われる人が立っており、メイドも数人控えていた。
男性が御者に声を掛ける。
「ご苦労だった、報奨金は用意してある。もう帰っていいいぞ。」
そう言われると御者は急いでその場を離れた。
騎士の一人が言う。
「このお方はダットン公爵である。お前たちがこれからの短い間を過ごすこの<館>の持ち主である。<館>は王家に献上する奴隷の待機所であり、お前たちを王家に献上するにふさわしい奴隷にする場所である。」
僕は思った。何か様子がおかしいと。
他の奴隷たちもおかしいと思ったのか、首を傾げている者がいる。
ダットン公爵が前に進み出て言った。
「恐らく強制的にこの場所につれてこられて不安に思っていることだろう。ローズ共和国では奴隷に良くない印象がある。だが、仮にも王族が他国からの奴隷をひどく扱うことはない。」
その言葉に奴隷たちの顔色が良くなる。
あからさまにホッとした表情を浮かべているものもいる。
「安心したまえ、この傍系王族、ダットン・ブラッドフォードが君たちを鍛え上げてみせよう。」
僕もまたホッとした、少なくともこのダットン公爵は悪い人物ではなさそうだ。どうやらこれは公務員のようなものらしい。
まあ、他の王族がどう思っているかはわからないが。
今僕はなんて考えた?
公務員? それは何だ?
僕は突然頭の中に出てきたその言葉に驚いた。
なにか変だ。昨日は変な夢を見たし、不思議な声が聞こえる。
頭の中が高速で回り始める。
だから僕は気づかなかった。
不思議な声が何かを言っていた事に。
あっと思ったときには目眩がして僕は意識を手放した。
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