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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.04 ヤマシタ ユミ
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第8話

 ゆず奈さんとの会話を終えた加能さんは、私の顔色を窺いながら、「山下様、話をお戻ししてもよろしいでしょうか?」と訊いてきた。「あぁ、はい」そう私が頷くと、「ごめんね、私が邪魔しちゃったみたいで」と、ゆず奈さんは両手を顔の前で合わせ、軽く頭を下げる。


「構いませんよ。いずれ分かることでしたから。記憶が鮮明に残る今、七瀬様にお伝えすることができてよかったです」

「私もです」


加能さんは微笑んでいた。


 ゆず奈さんは缶を手に持ったまま、私の隣に立った。すぐ近くに立つ木々が風に揺れ、カサカサと音を鳴らす。


「では、改めまして。山下様。どうでしょう、過去への旅行に行ってみませんか?」

「行ってみたいです。でも、過去に三日間も戻るってことは、現代でも過去にいた、その時間分だけ過ぎるんですよね? それが嫌なんです」

「何かお困りごとでもあるのでしょうか?」

「今、お母さんを探してるんです。ダイニングテーブルの上に手紙だけ置いて出て行っちゃったので。私までいなくなると、弟とお父さんがに迷惑かけるし、困るかなって。それに、今はゆず奈さんとゆず奈さんのお母さんも、母のことを探してくれてるんです。だから、そんな長時間も戻れなくて」

「そうでしたか。それでしたら、一日だけお戻りになられるコースもございますので、そちらのプランに変更されますか?」

「えっ、一日だけとかプラン選べるの?」


私よりも先に、ゆず奈さんの方が加能さんに質問した。


「はい。ご旅行に行かれる方に合わせたコースやプランをご用意しておりますので。最短では半日から選択することができるのですよ」

「えっ、ゆず奈さん知らなかったんですか?」

「うん。知らなかった。ねぇ加能さん、選択肢があったんだったら、ちゃんと言ってよ。教えてくださいよぉ」

「それは、申し訳ございませんでした。しかしながら、七瀬様の場合、一日だけだと事実の解明ができなかったかもしれませんよ。そうお考えになられてはいかがですか?」

「フフッ。そうですよね。は~い、すいませんでした」


 ゆず奈さんがどんな理由があって過去に戻ったかは知らない。でも、私の場合は三日も必要ないんだ。一日で終わることなんだ。そう思うとなんだか虚しくなってしまう。


「柚美ちゃん、私は三日間戻ったけど、柚美ちゃんなら一日戻るだけで大丈夫だと思うよ。柚美ちゃんしっかりしてるから、ちゃんと想いを伝えることができるんだよ。そのことを、加能さんも見越して、戻る期間について言ってくれたんだと思う」

「・・・」

「過去から戻ってきたとき、きっと明るい未来が待ってるから。だから、行ってきなよ」


ゆず奈さんの目は、中に星を鏤めたかのようにキラキラと輝いていた。きっと、戻って何かを得ることができたのだろう。私もこの輝きが欲しい。なら、戻るしかない。


「一日だけ、過去に戻りたいです」

「かしこまりました。それでは過去への戻り方、そして現代への戻り方についてのご説明をさせていただきます」


 加能さんの発言に、私は大きく頷いた。胸は希望に満ち溢れていた。

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