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過去への扉がひらくとき  作者: 成城諄亮
FNo.04 ヤマシタ ユミ
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第2話

 アパートの階段を降りていく。靴底に挟まっていたと思われる小さな石ころが、軽やかな音色を奏でて飛んでいく。


「柚美ちゃん、ここに来る前どこか別の場所に海ママを探しに行ったりした?」家の施錠をしながら尋ねる京香さん。風に靡くロングヘア―。石鹸のような匂いがした。


「家出てから直行でスナックに行って、そのあと京香さんの家に来たんです。なので他のところは探してないです」

「じゃあ、私は海ママの家とスナックに行ってみる。もし居なかったら常連さんの家に行ってみるから。ゆず奈は柚美ちゃんと一緒に近所探してくれる?」

「分かった。じゃあ、柚美ちゃん行こうか」

「はい」


 京香さんは南側へと小走りで向かう。その背中を見るゆず奈さんが私に話しかけてきた。


「柚美ちゃん、お母さんが行きそうな場所の検討付くかな?」

「そうですね。今のところ、自宅用の食材を買いに行くスーパーか、スナック用の食材を買いに行くスーパーか・・・、あとは銀行とかですかね。今日行くかは分からないですけど」

「そっか。じゃあまずはどこを探しに行く?」

「母がいつも店の食材を買いに行くスーパーがここの近くにあるはずので、そこに」

「分かった。場所教えてくれる?」

「はい。分かりました」


 私はスマートフォンの地図アプリと睨めっこしながら、目的地目掛けて走る。でも、現在地が分からなくなって立ち止まったり、道を間違えて引き戻したりと、どう見ても頼りない私。それなのに、ゆず奈さんは文句ひとつ言わず、私の歩幅やスピードに合わせて付いて来てくれる。しかも、私とは初対面なのに「大丈夫?」とか「一緒に地図確認しようか?」と何気なく、ふとした瞬間に訊いてくれる。


そこら辺の高校生なんかよりも落ち着いていて、大人びていて、カッコいい。


そんなゆず奈さんからは、京香さんと親子であるという片鱗が見えなかった。あの瞬間だけは面影みたいなものは感じられたけど、今は他人のように感じられる。顔なのか性格なのかよく分からないけれど、ゆず奈さんは京香さんに似ていないと思った。


京香さんは歌もお酒も好きなようで、よく常連客の方とカラオケで歌ったり、お母さんと一緒に呑んだりして、常にワイワイと楽しそうにしているのに、ゆず奈さんからはその匂いがまったく感じられない。どちらかと言えば人付き合いが得意ではなさそうで、人前で歌うことも、誰かと楽しそうに飲んだり食べたりすることも苦手な感じに見える。


そうなれば、ゆず奈さんは京香さんではなくお父さんのほうに似ているのかもしれない。直接会ったことも、京香さんから旦那さんに関する話を聞いたことないけど、きっとそうなんだ。

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